お迎え

気づいたら俺達は、寝ていたようだった。


目覚めると8時だった。


「美麗、寝てた」


「飴ちゃん、おはよ」


「チューしてくんな。風呂入れ。迎えが来る。後、これ水」


チューしてこようとする美麗を俺は交わした。


「あー。うん」


美麗は、水を飲んでゆっくりと起き上がった。ボケーとしながら、煙草に火をつけてる。


「はい、灰皿」


「ありがとう」


美麗は、よく眠れた顔をしていた。よかった、安心したよ。


「飴ちゃん、約束守ってね」


「ああ、わかってる」


俺は、煙草を吸う美麗を見つめてる。


TVの中の美麗ミレとは違う。


俺の前にいる美麗は、可愛い女の子だ。


ブカブカのパジャマの裾を持って煙草を吸ってる可愛い女の子。


でも、それがいけないんだよな…。


「飴ちゃんは、ハリーさんに何か言われたの?」


「いや、何も…」


「そっか、てっきり何か言われたのかと思ってた」


俺は、首を横に振った。それを見て、美麗は煙草を灰皿に押し当てて消した。


目がシャキッとしたらしく、美麗は立ち上がって風呂に行った。


「飴ちゃんの服、何かちょうだいよ」


「ああ」


俺は、お気に入りの桜色のシャツをあげた。


「これ、飴ちゃんの好きなシャツだよ。いいの?」


「ああ、構わないよ」


「じゃあ、それあげるから」


乾燥機から出しておいた服の中の黒いパーカーを美麗は、俺に差し出してくる。


「ありがとう」


俺は、そう言ってリビングに戻った。


暫くするとシャワーを浴びた美麗がやってきた。


上半身は裸で、水を飲んでる。


「飴ちゃん、それ貸して」


「えっ、ああ」


俺は、黒いパーカーを美麗に渡した。


「飴ちゃんも風呂入ってきてよ」


「わかった」


俺は、シャワーを浴びに行く。


さっと入って上がって、リビングにやってきた。


「はい」


美麗は俺に、桜色のシャツを渡してきた。


「なに?」


「ギリギリまで、これ着てて」


そう言われて、俺はシャツを着た。


キッチンで、水を飲んでから、やかんでお湯を沸かす。


これからは、暇だな。


コーヒーでも、ひいてみるかな?


そう思いながら、お揃いのマグカップにインスタントコーヒーを作った。


「はい」


「ありがとう」


いつもなら、煙草を吸ってる美麗は煙草を吸わずにいる。


俺は、香水を一滴手首に落とした。


美麗も俺と同じ仕草をしていた。


三年前、束縛のキツイ美麗は俺の香水を捨てた。


三年前ー


「これ、使って」


「なに、これ?」


「香水」


「あるけど?」


「これじゃなきゃ駄目。お揃いでつけて」


「いいけど」


「飴ちゃんの使ってるやつは?」


「これ」


「持って帰って処分するから」


「そんなに嫌な匂いだった?俺は、気に入ってたけど」


「嫌な匂いなの」


「わかった」


その3ヶ月後、たまたまTVで金森翔吾が、(残り香)という映画の番宣に出てる時に使ってる香水の名前を話した。


俺と同じ香水だった。美麗は金森と同じ匂いをさせる俺が嫌だったのだと理解した。


現在ー


「飴ちゃん、はい」


美麗は、黒のパーカーを脱いで俺に渡してきた。


「ああ」


俺もシャツを脱いで美麗に渡した。


お互いに交換して着替える。


「飴ちゃんの事、俺、忘れないから」


「俺もだ」


そう言った瞬間


ピンポーン。


インターホンが鳴って俺は玄関の扉を開けた。


「飴、迎えにきた」


「はい、どうぞ」


ハリーさんは、笑いながら俺を見てる。


「針山さん、おはよう」


「おう」


針山さんは、美麗に手をあげてから、

「早川、美麗を先に送ってきてから迎えに来てくれ」っと言った。


「わかりました」


お辞儀したのは、ハリーさんの運転手の早川寿はやかわたもつさんだった。


「じゃあね、飴ちゃん。また、いつか」


「ああ、じゃあな。頑張れよ」


そう言って、俺は美麗に手を振った。


俺達は、いったんは別れた。


「お前は、居残りな」


ハリーさんは、玄関の外の誰かにそう話した。


「美麗、後でな」


ハリーさんも、美麗に手を振っていた。


「じゃあね、針山さん」


美麗は、ニコニコしながら家を出ていった。


パタンって、玄関が閉まった。


「やったのか?」


「えっと…」


俺は、とぼけたフリをしてみせた。


「やったな、これは。ハハハ」


ハリーさんは、動揺する俺を見て大笑いしだした。


「すみません。泣きながら、愛の告白までしちゃいました」


俺は、ハリーさんに本当の事を言って、深々と頭を下げた。


「そうか、ちょうどよかったよ。あがっていいか?」


「はい」


そう言うとハリーさんは、玄関の外の人にも声をかける。

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