やってきた訪問者

ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン


俺は、寝てたみたいで、目が覚めた。


ガチャ…。


「すみません。遅くなりました」


「いや、寝てたよ」


俺は、京君を家にあげる。


「何時だっけ?」


「マスターが、体調を崩しちゃって…。閉店作業までしてたんで、四時半になっちゃいました。ごめんなさい」


そう言って、京君は泣き出してしまった。


「大丈夫、大丈夫。来てくれただけで嬉しいよ」


俺は、京君の頭を優しくポンポンとして家にあげる。


「飴さん」


「コーヒー飲むか?」


「はい」


京君は、お湯を沸かす俺に抱きついてきた。


「神楽の事は、心配するな」


「飴さん」


「京君」


俺は、京君と向き合った。


「キスしたいです」


「いいよ」


そう言って、キスをしようとした時だった。


ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン


「誰だろう?待ってな」


「はい」


俺は、玄関を開けに行った。


「えっ?」


「飴ちゃん、大変だよ」


そこには、美麗がいた。


「いや、今は困るんだよ」


「そんなのどうだっていいから、ちょっと上がるよ」


「えっ、ちょっとちょっと…」


「飴ちゃん」


「寺ちゃん、何?」


美麗は、俺を無視してテレビをつけに行く。


「あがっていい?」


「あ、ああ」


俺は、寺ちゃんも家にあげた。


京君に謝らなきゃいけないと思った瞬間だった。


「飴さん…これって?」


京君は、そう言って俺を見つめる。


俺は、急いで美麗のつけたテレビを見つめる。


『速報です。今日未明、CJビルで人が倒れてると、このビルで働いている従業員から警察に通報がありました。警察が駆けつけた所、ビルの奥から男性が血を流して倒れているのが見つかり、意識不明の状態で病院に運ばれました。警察によりますと、通報した従業員は、ビルの中から男二人が足早に立ち去る所を目撃していたと言う事です。警察は、男性の身元の確認を急ぐとともに、現場の状況や目撃情報などから、殺人事件として捜査し、二人組の男が何らかの情報を知ってると見て行方を調べています。現場は……』


美麗は、パチンとテレビを消した。


「あのさ、悪いんだけど」


俺は、美麗と寺ちゃんに帰ってもらおうとした。


「出ないんだ」


「えっ?」


美麗の言葉に、俺は美麗を見つめていた。


「4時に、このニュースが流れてきて。針山さんにかけたけど出ないんだよ。寺ちゃんと常さんの店にも行ったけど常さんも出なかった。針山さんの家も行ったけど、帰ってなかったんだ」


何のニュースかわからなかった。


「寺ちゃん、本当か?」


「ああ。二人ともいなかった」


だけど、二人がこんな時間にいないはずはないんだ。


「飴さん、もしかして…」


京君の言葉に、俺は京君を見つめていた。


「ハリーさんが、何とかするって…。神楽と宗方の事…」


その言葉に美麗は、俺を見つめて泣いてる。


「じゃあ、これ針山さんじゃないのか?」


「何でそうなるんだよ!犯人の特徴も何も言ってないだろ」


俺の言葉に寺ちゃんは俺を見つめる。


「最初のニュースで、犯人は60代以上で、黒のような灰色に見えるようなスーツを着ていたって…。昨日、ハリーさんが着てた服装に似ていた」


「そんなわけない」


俺は、慌ててスマホを取り出した。


「誰にかけるの?飴ちゃん」


美麗にそう言われる。


「決まってるだろ!ハリーさんだよ」


「出ないよ」


「出る」


ハリーさんが、この時間に出ないはずなんてない。かけようとする手が震えている。


「飴ちゃん」


「大丈夫だ。出るから」


俺は、両手でスマホを握りしめながら、ハリーさんにかけた。


プルルルー


プルルルー


コール音が響くたびに、手が震えだす。


ハリーさん、出ろよ。


出てくれよ。


頼むよ。


【お掛けになった…】


何度目かのコール音の後にスマホから、その声が聞こえた。


「だから、出ないって言っただろ?」


美麗に、そう言われて俺は膝から崩れ落ちそうになる。


「飴ちゃん、大丈夫か?」


寺ちゃんが、俺を支えてくれる。


「酔っ払ったんだよ。最近、常さんもハリーさんもお酒弱くなっただろ?二人で、寝てるんだよ。だから、電話に出ないだけなんだよ」


そう言いながら、俺は涙を止められなかった。


俺は、大好きな常さんと大好きなハリーさんの人生を狂わせた気がした。


俺を愛してくれてる二人を…。


俺は……。


「俺が、宗方の犬になってたらよかったんだ」


俺の言葉に、京君が近づいてきた。


「飴さん、僕のせいでごめんなさい」


「違う、京君は悪くない……悪くない…悪いのは…」


悪いのは、全部俺だ。


夏生さんの所に行かなかったらよかった。


話をしなければ、よかった。



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