美麗の生放送

「私が、調べますのでハリーさんは、それまで待っていて下さい」


夏生さんは、柔らかい笑顔をハリーさんに向けた。


「わかった。なっちゃん、そうするよ」


そう言って、ハリーさんは顔をあげて夏生さんを見つめた。


それから暫くは、三人で他愛もない話をしていた。


すると、突然ハリーさんが、「なっちゃん、TV見ていいか?」と聞いた。


「どうぞ」


夏生さんは、ハリーさんにリモコンを渡した。


時計を見ると、もう、お昼だった。


「美麗が、出るんだよ」


ハリーさんは、そう言って嬉しそうに笑いながらTVをつけて見つめる。


「きたきた」


TVの人が、美麗の紹介をした。



『今日のゲストは、今若者に大人気の俳優の美麗ミレさんにお越しいただきました』


『こんにちは。美麗ミレです。最後まで、よろしくお願いします』


『よろしくお願いします』


ジっーとハリーさんは、テレビを見ている。


美麗の挨拶が終わると、CMに切り替わった。


「飴、美麗に何した?」


CMに入るとハリーさんは、俺を見つめてそう言った。


「えっ?」


俺は、恥ずかしくて頬を掻いた。


「昨日、会いに行ったのは寺から聞いてる。そこで、何した?」


「お茶飲んだだけですよ」


怒ってるのかな?


ハリーさんの気持ちがよくわからない


「茶だけか?それはないな」


ハリーさんは、そう言ってまたテレビを見つめた。


すぐに、番組が始まった。


お菓子特集がされはじめて、美麗が時々チラチラとうつる。


ハリーさんは、真剣な顔で美麗を見つめている。


そして、VTRが終わって美麗がうつる。


美麗ミレさんは、甘いものはお好きですか?』


『そうですね。時々は、食べます』


『どう言ったものを食べますか?』


『チョコやたまにケーキなんかも頂きますね』


美麗は、ニッコと笑った。


その笑顔に俺は、ドキッとした。


しばらく、番組はスイーツの話で盛り上がり、またCMにいった。


「飴、茶だけなわけないよな?」


ハリーさんは、そう言った。


「ハハ、言ったら怒るでしょ?ハリーさん」


ハリーさんは、俺を見ずにTVしか見ていない。だから、顔が見えなくて、怖い。


「飴、怒ってると思ったか?」


ハリーさんは、そう言って振り返って、俺を見た。


怒ってるんじゃなくて、ハリーさんは泣いていた。


「どうしたの?ハリーさん」


俺の言葉に、ハリーさんは右手の甲で涙を拭っていた。


「美麗から、失望が消えてて嬉しかったんだよ」


「そっか、ちゃんと消えててよかったよ」


「それと、色気がでたのは何でだ?」


ハリーさんは、不思議な顔で俺を見つめていた。


そして、夏生さんも、俺を見ていた。


「キスしたからです」


俺の言葉に、ハリーさんはそれだけかって感じの視線を向けたけど


夏生さんは、全てを理解していた。


「最後まではしなかったのか?」


「してないですよ」


「飴君、使ったんだね。あれを…」


そう言って、夏生さんが俺に笑った。


「飴のキスがスゴいって話は、本当だったのか?」


ハリーさんは驚いた顔を一瞬してから、すぐに笑う。


「教えたのは、私ですけどね」


その言葉にハリーさんが、驚いた顔をして俺と夏生さんを交互に見ていた。


「佐古に色気を与えたのは、なっちゃんだよ」


「えっ?佐古さん、両方いけるの?」


「ハハ、そうだ」


ハリーさんは、そう言って懐かしそうに笑った。


「キスシーンの練習役になっちゃんがなったんだ。そっから、妙に色気が出てな。美麗も同じだったとはな」


ハリーさんが、そう言った後。


テレビに、また、美麗が出てきた。


美麗は、画面越しに時々、憂いを帯びた眼差しを向けたり、潤んだ目を見せたり、恥ずかしそうに笑ったりを繰り返していた。


「まるで、飴に抱いて欲しいとお願いしてるみたいだな」


ハリーさんは、そんな美麗を見ながら言った。


「セクシーだね。本当に、エロいって私も感じるよ」


夏生さんも、美麗を見つめながらそう言ってくれた。


「確かに、そそるね。うまく出来てる」


俺も美麗を見つめながら言った。


俺にキスをねだって、その先を欲求する。


その美麗の顔、そのものだった。


言葉を操る職業についていながら、美麗は俺に欲求してくるのがうまくない。

だから、いつも、もどかしさと、焦れったさで、うまく説明出来なくて泣きそうになったり寂しい表情を浮かべて、最後は「もういい」って怒ってキスをするんだ。


「まるで、美麗だな」


俺の言葉にハリーさんは、笑った。


愛しい美麗だ。


俺だけを愛している美麗だ。


生放送が終わり、ハリーさんはTVを消した。


「なっちゃん、佐古がなっちゃんに会いたがってたぞ」


その言葉に夏生さんは、目を伏せた。


「こんな姿は、見られたくないよ」


その言葉に、夏生さんの想い人は、佐古さんなのではないかと俺は思っていた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る