夏生さんのキス
「なっちゃんは、佐古が好きだろう?」
ハリーさんは、そう言って夏生さんを見つめてる。
「私は、飴君が好きなんですよ」
その言葉にハリーさんは、言った。
「飴を佐古のかわりにしてたのか?」
夏生さんは、驚いた顔をしてハリーさんを見ていた。
かわり…。
考えてなかったな。
「私は…」
「まぁ、いいよ。飴、後で常の店に来いよ。夜までいるからよ。じゃあ、帰るわ」
そう言って、ハリーさんは病室を出ていった。
「飴君、ごめん。帰ってくれていいから…」
俺は、ベッドの上に座って夏生さんを抱き締める。
「飴君」
「夏生さんが、俺に話しかけたのは佐古さんのかわりですか?」
「違う」
「でも、ずっと愛していたのは佐古さんだったんですね」
「苦しかったんだ。十龍への想いが…。そんな時に千歳を見つけた。アメオトだよ。千歳のキスシーンを見た時に胸が締め付けられた。ああ、私はこの子に会ってみたいと思った。会ったのは、偶然だった。あのバーは、十龍とよく行っていたから…」
そう言って、夏生さんの細い腕が俺の背中に回された。
「俺を好きなのは、本当だったんですね」
「ああ、飴君を好きだよ。ただ、十龍への想いは飴君への気持ちとは違うんだ」
「それなら、余生は、佐古さんと過ごすべきではないですか?」
そう言った俺に、夏生さんは俺から離れた。
「死ぬ時がくればわかるよ。飴君にもきっと…。愛してる人にこんな姿は見られたくない。それと同時に、死んだと思って欲しくないんだよ。私は、ずっと生きていてあの頃のように生活していると思っていて欲しいんだ。でも、抱かれたいよ。叶うなら、キスだってしたい。飴君、私はどれを選ぶのが正解なのだろうか?」
死んだと思って欲しくないか…。
俺は、夏生さんの言葉に少しだけ考えてから答える。
「それなら、俺を利用してよ、夏生さん。佐古さんには、慣れないかも知れない。でも、俺を好きなんでしょ?夏生さんが、佐古さんにしたいと思うことを俺にしてよ」
「まだ、私は君に本気のキスをした事がなかったね」
そう言って、夏生さんは俺にキスをしてきた。
佐古十龍にしたキスだ。
頭の奥が、ゆっくりと痺れてくる。
俺は、今、佐古十龍だと言い聞かせた。
夏生さんは、唇をいったん俺から離した。
「ごめん。美麗君がいるから。これ以上は、駄目だよね」
「駄目じゃない。俺を佐古さんだと思ってよ。これでも、俳優目指してたんだよ」
「でも、これ以上すれば、そうなったらどうする?」
「キスだけで、ですか?」
「ああ、自信はあるのだけれど」
夏生さんは、そう言って笑った。
「あの棚を開けてくれないか?」
そう言われて、俺は、棚を開ける。
「とりあえず、タオル置いていて」
俺は、そう言われてパンツにタオルをいれた。
「じゃあ、やってみてもいいかな?」
「はい、どうぞ」
俺がそう言うと夏生さんは、キスをしてきた。
今まで教えてくれたキスよりも濃厚だった。
やっぱり、頭の奥がジーンと痺れてくる。
佐古十龍に、色気がでた意味がわかる。
俺は、押し寄せてくる何かに抗うことはできなかった。
美麗が、俺に感じたのもこれなのだろうか?
いや、夏生さんは俺を技術でいかせたんだ。
「飴君、大丈夫だった?」
そう言って、唇を離された瞬間
俺は、後ろに倒れそうになった。
痩せていても、夏生さんは俺を支えてくれていたのだ。
「立てないですね」
「ハハハ、懐かしいね」
「いや、初めてです。いきました」
「本当に?そうか、衰えてなかったみたいだね」
夏生さんは、そう言って悪戯っ子みたいに笑った
「職人ですよね?技術で、そうさせた。俺は、美麗の愛を利用してそうさせれるけど。夏生さんは、違う」
「そうだね。私は、最初自分も働いていたからね。研究したんだよ。どうすれば、キスだけで相手をその気にさせたり絶頂を味わってもらう事ができるかね。飴君よりも、かなりの人数にしているよ」
そう言って、夏生さんは笑って俺の髪を撫でる。
「十龍にしたい事をたくさんの相手にしたんだ。この気持ちわかるかな?」
「わかりますよ」
俺も、京君にしてるから…。
「相手は、喜んでくれた。それで、十龍への気持ちを消せたよ。飴君に会ってからは、もっと消せた。だから、本当に感謝しているよ」
そう言って、夏生さんは俺の髪をまた優しく撫でてくれる。
そして、ベッドに横にさせてくれた。
「少しだけ、休んで。疲れたでしょ?」
そう言って、夏生さんは俺に優しく笑ってくれる。
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