ハリーさんの想いと過去

俺は、驚いた顔で常さんを見つめていた。


「何て顔してんだよ」


「すみません」


「なあーー。飴」


「はい」


「ハリ坊を許してやってくれ」


常さんは、そう言いながらコーヒーを飲んでいる。


「許すって……」


「飴への親心が出ちまったんだよ」


「神楽の事ですか……?」


俺は、聞くのが怖くて、恐る恐る尋ねた。


「そうだ。神楽との事だ……。後な、ハリ坊が自首したのは、俺の為だ」


「常さんの……ですか?」


「俺が、犯人隠避にあたるとか何とかって、なっちゃんとこの観月ってのから電話がかかってきて言われたらしい」


常さんは、そう言いながら煙草を灰皿に押し付けていた。


「別に、俺は捕まったって構わなかったんだけどよ。ハリ坊が、飴から俺まで奪ったら大変だとかって言い出してな!それと、佐古達の事もってな」


「ハリーさんが……」


「ハリ坊は、口は悪いけど……。飴のちゃんとした親父だよ!」


常さんは、俺の肩をたんたんと叩いて笑った。


「これからの飴が不幸になる事をハリ坊は、許せなかったと言っていた」


「常さん」


「親として息子の不幸は願えないってさ……。ほらよ」


そう言って、常さんはスーツのポケットから手紙を差し出してきた。


「これは?」


「ハリ坊が、逃げてきて手紙を書きたいって言い出してな!それで、ここで飴に書いてた」


「読めないです」


「気が向いた時に、読めばいいんじゃねーか。朝飯、一緒に食おうか?作ってやる」


俺は、常さんを見つめながら泣いていた。


それは、あの日を思い出していたからだ。



ーーあの日


俺には、気づけば親父が二人出来ていた。


「飴、そんな不細工な顔して飲むなよ」


「酒ってのはな!こうして飲んで、あーーって笑うんだ!わかるか?飴」


「はい」


久しぶりに楽しいと思えたのは、この二人のお陰だったのだと思う。


「飴、馬鹿だな!本当にお前はよーー」


ハリーさんは、そう言って楽しそうに笑っていた。


ずっと俺の傍には、二人がいた。


この先も変わらずに、二人は俺の……。



ーー現在


「しみったれた顔してんじゃねーぞ」


ゴトリと朝食が俺の前に置かれた。


「常さん」


「飴よーー。そんな顔してたら、芸能事務所の副社長は勤まらないぞ」


「副社長?」


「ああ、佐古と俺が社長になる」


そう言って、常さんは食パンにバターを塗りながらそう話した。


「どうしてですか?」


「ハリ坊の願いだ」


「ハリーさんは?」


「罪に問われなくても、事務所の社長は辞めるらしい」


俺は、パンにバターを塗る。


「ここの店長ですか?」


「ハハハ、そうだな!ここをハリ坊に任せるとするかな」


「そうして下さい」


俺の言葉に常さんは、フォークでサラダをつつきながら話す。


「ハリ坊が、見えない場所に行って欲しくないんだな……。飴」


その言葉に、俺は黙って泣いていた。


「やっぱりそうか……。飴の命を預けた男だもんな」


俺は、泣きながら目玉焼きを食べていた。


カランカランーー


「きたきた」


そう言って、常さんは笑っている。


「コーヒー飲みたいです」


「佐古さん!!」


「今、淹れるから座っとけ」


「はい」


そう言って、佐古さんは俺の隣に座った。


「鍵閉めときました」


「あーー。悪いな」


「いえ」


佐古さんは、俺を気にしないように常さんと話している。


佐古さんの優しさだ。


「ニュースの速報出てましたよ」


「そうか」


常さんは、佐古さんにコーヒーを渡している。


「自称芸能事務所社長って言われてるの聞いて吹き出しそうになりましたよ」


そう言って、佐古さんはコーヒーを飲んでいる。


「自称か……。ハハハ。楽しい表現だな」


「ラムネを売り捌いていたとかってニュースで見ました」


俺は、佐古さんの言葉に佐古さんを見つめる。


「ハリ坊は、馬鹿だからよーー。そのラムネか何かいうやつを5億で買おうとしたらしい。自分の息子せがれの為にな」


その言葉に、佐古さんは俺を見つめている。


「飴ちゃん」


「はい」


「飴ちゃんの為なら、ハリーさんだけじゃない。俺だって、常さんだって、じんせいを捧げられるんだ」


そう言って、佐古さんは俺の食パンを噛った。


「それまだ、食べてない」


「いいだろ?飴ちゃん」


そう言って、くしゃくしゃの笑顔で笑うから俺は泣いていた。


自分の為にじんせい全てをかけてくれる人が三人、いや四人、いや五人、いや……。


片手じゃ数えれないよな……。


「俺って幸せすぎますね」


俺は、そう言って泣き続けた。


「当たり前だろ?飴が幸せじゃなきゃハリ坊に怒られちまうだろうが!」


くしゃくしゃと常さんは、俺の頭を撫でてくれた。


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