これからの事…。
「じゃあ、本題な!これから、俺達はハリ坊の事務所を引き継いでいかなきゃならない。わかるな、飴?」
「はい」
「俺達に出来る事は、ハリ坊が作った事務所と事務所に所属する人間を守る事だ。わかるな?」
「はい」
「その為に、俺は佐古と社長になる!そして、お前が副社長だ」
「はい」
俺は、常さんを見つめながら頷いていた。
「ここから、立て直すまでの間。飴は、美麗と付き合えないのはわかってるな?」
「わかってます。常さん」
「そのかわり、全部終わったら……。やり直していいからよ」
常さんは、そう言って笑いながら煙草に火をつける。
「大丈夫だ!人の噂も75《しちじゅうご》日って言うだろ?いずれ忘れ去られていく。だから、大丈夫だ。飴」
「はい」
「それにな!少しずつ時代だって追いついてきてるだろ?いずれ、俳優の誰かがカミングアウトするようになるさ」
そう言って、常さんは煙草を灰皿に押し付けて消した。
「常さん、協力します」
「飴、助かるよ」
そう言って、常さんは笑ってくれる。
「飴ちゃん」
「はい」
「なっちゃんに会いに行きたいんだ」
「もちろんです」
俺は、佐古さんの言葉に頷いていた。
「俺は、寺と美麗を待っとくよ」
「わかりました」
俺は、常さんが出してくれた朝食を食べる。
「あの、常さん」
「何だ?」
「ハリーさんは、神楽を刺したのですか?」
どうしても気になっていた言葉を俺は聞いてしまった。
常さんは、眉間に皺を寄せながら顎を擦っていた。
「宗方真は、神楽をあのビルに呼び出した。ただ、兄である道理を辞めさせる為にな」
「そこに、ハリーさんが?」
「いや、元々二人で話してる所に、宗方真が呼んだらしい」
「それで、何で神楽は……」
「宗方真が提示した条件を飲んでくれなかったらしい」
そう言って、常さんは片付けをしている。
「全ては、宗方道理の為ですか?」
「どうもそうみたいだな。兄を辞めさせて欲しいと頼み込んだみたいだ」
俺は、常さんを見つめていた。
「ハリ坊が、5億でラムネを買う話をした時に宗方真は覚悟を決めたらしい。兄を辞めさせて欲しいと……。その代わり、折半するはずのお金はいらないと……」
「神楽は、それをのまなかった……?」
「そうだ。神楽は、金なんぞに興味がないらしい。自分が作る作品を愛して認めてくれる存在が宗方道理だった。その道理を手放す事など出来ないと話したみたいだ」
「宗方真は……」
俺の言葉に常さんは頷いてくれた。
「宗方真は、兄を解放する為にハリ坊の目の前で神楽を刺した」
「そんな……」
常さんは、そう言うと俺を見つめる。
「刺したのは、宗方だけど……。ハリ坊は、救急車呼んだり警察呼んだりしなかったからな。罪に問われるのはわかってる事だ。それでも、宗方真と逃げたをだ」
「宗方真は?」
「さあな。ここには、ハリ坊しか来なかった。途中で別れたらしくてな」
常さんは、そう言ってお皿を洗い出した。
「ハリ坊は、宗方真の気持ちを理解したんだと思う。だから、一緒に逃げたんだ」
「でも、死んでたら……」
「そうだな。大人としてやっちゃいけない事をしたよな」
常さんは、そう言いながら泣いていた。
「だけどよ、飴。兄を守りたかった宗方真の気持ちもわかってやってくれよ」
「それで、ハリーさんの罪が重くなったら」
「それでもいいって思ったんだよ!ハリ坊は……」
「そんなの悲しいです。でも、よかった。ハリーさんが神楽を刺してなくて」
常さんは、お皿を洗うのをやめて俺の隣に立った。
「宗方真がやってなかったら、ハリ坊がしてたって言ってたよ」
「何でですか?」
「飴を巻き込まない約束を神楽はのまなかったと言ってた。飴が守ろうとしていた子も、実験に使う材料だからって言ってたみたいだ」
「そんな……」
「神楽には、人間の血は流れてないと思ったってハリ坊は言ってたよ。神楽は、人の皮を被った化け物だってな」
常さんは、俺の背中を擦った。
「神楽にとって、作品以外何の役にも立たない。人の人生がどうなろうとも関係ない。そう思ったら、ハリ坊は神楽を殺したい気持ちが溢れてきたって……。首でも絞めようと思ったら、宗方真が刺してたって言ってたよ」
ハリーさんは、宗方真の気持ちと自分の気持ちが重なり合ったのがわかったんだ。
だから……。
宗方真を逃がした。
俺は、常さんに背中を擦られながら泣いていた。
*この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません*
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