ハリーさんに会いに行く

京君と話した日から、あっという間に、日曜日がやってきた。


俺は、ハリーさんに会いに常さんの店にきていた。


「待ってたよ、飴」


お昼時のピークが、終わった店内は、お客さんの姿はもうなかった。


常さんは四人がけのテーブル席に俺を案内した。


常さんは、俺にお冷やを出して看板をcloseに変えにいった。


「ハリ坊と話し合いか?」


常さんは、俺を見ながらそう言った。


「はい」


そう言った瞬間、カランカランと扉が開いてハリーさんが現れた。


「常、コーヒー二つ」


「はい」


そう言って、常さんはコーヒーを淹れてくれる。


「飴、早かったな」


ハリーさんは、俺の前に座った。


「はい」


俺は、ハリーさんを見つめてる。


「三週間後、美麗の運命をかえる映画の撮影が始まるんだ。それまでに、きっぱり美麗と別れてくれないか?」


「そうなんですね。わかりました」


俺は、ハリーさんを見つめてる。


神宮寺光太郎じんぐうじこうたろう監督の映画なんだ。主演は、荻野眞也おぎのしんやだ。美麗は、荻野の相手役をする。初の刑事役だ」


「神宮寺監督の作品は、続編がすごいですもんね。荻野さんと共演できたら、売れるって話ですしね」


俺は、ハリーさんの言葉にニコニコ笑った。


暫くして、常さんが、コーヒーを二つ持ってくる。


「佐古も神宮寺監督で、売れたからな。だから、美麗はこっから一気に駆け上がるんだよ」


ハリーさんは、手で駆け上がるを表現しながら笑った。


「ハリ坊の夢が、また一つ叶うってわけか」


常さんも、笑いながらハリーさんの隣に座った。


「だからよ、飴。来週中には別れて欲しいんだ」


「わかってます」


俺は、そう言ってコーヒーを飲む。


「辛いのは、美麗も同じだからよ。飴が、いないと美麗は生きれないんだよ」


ハリーさんは、そう言って、煙草に火をつけた。


「わかってるけど、美麗には才能があるんだ。飴にもわかってるだろ?」


「はい」


「美麗は、他の仕事は向いてない。だけど、役者は誰より向いてる。どんな役にも染まる」


「わかってます」


俺は、頷きながら、コーヒーを飲む。


「美麗は、嫉妬心が強い。それを自分でもよくわかってる。それが、普通の社会では生きれない原因だと俺は思ってる。でもよ、この仕事だとそれが役に生かせるんだよ。美麗の度を越した飴への愛情や嫉妬心を、この仕事なら役立たせてやれるんだ。だから俺は、美麗を第二の佐古にしたかった」


そう言って、ハリーさんは煙草を灰皿に押し当てて消した。


「飴は、美麗に可愛さを与えた。次は、色気を与えてやってくれないか?」


そう言ったハリーさんを常さんは、見つめながら煙草に火をつけている。


「ハリ坊、飴にそれをお願いするなら。全力で、美麗を守らなきゃならないのわかってるか?」


「ああ、わかってるよ」


「美麗は、飴を失ったらぶっ壊れるぞ。俺には、わかる。それがいい方向に向かえば笹森梓になれる。でも、悪い方に行けば馬場太一ばばたいちだぞ」


そう言って、常さんは煙草を灰皿に押し当てて消した。


馬場太一は、有名な俳優だった。アイドルの笹峯玲ささみねれいとの婚約報道から破局を迎え、薬物に溺れ、自殺未遂を繰り返し、芸能界を引退した。常さんは、美麗もそうなるのではないかと心配しているようだった。


ハリーさんは、頷きながら煙草に火をつけた。


「美麗は、薬はしない。あいつは、そんなもんなくても生きていける。でも、自殺はわからない。だから、俺も命懸けであいつを守る。でもよ、俺じゃ、どうしても、駄目な時は、また飴が美麗に会ってやってくれないか?」


ハリーさんが吐き出した煙を俺は見つめながら、「ルージュか常さんの店なら、構わないですよ」そう言って、笑った。


「40までは、表にでてきて欲しくないんだよ。男が好きだって。わかるよな?」


「はい」


「飴には、酷い事を頼んでるけど、よろしく頼むよ」


ハリーさんは、煙草を灰皿に押し当てて消してから、俺に向かって頭を下げた。


「頭上げてください。大丈夫ですよ。俺、ちゃんとやりますから。俳優目指してた意地がありますから…」


そう言って、俺は、ハリーさんに笑いながら言う。ハリーさんは、顔を上げて、ジッーと見つめてから俺に話す。


「飴、今日はわざわざありがとな。そろそろ美麗が来るからよ」


その言葉に、俺は立ち上がった。


「わかりました。失礼します」


俺は、ハリーさんと常さんに、深々とお辞儀をして店を出た。







*この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません*

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