触《ふ》れてるだけで充分

美麗は、顔を赤く染めながら立ってる。


俺は、足の指から順番に丁寧に美麗の体を拭いてあげる。


こうしていると、愛し合うって快楽だけじゃないのだと実感する。


心の中にあるけがれをとるのだって、こんな風に丁寧に優しくさわるだけで充分で…。


あの時、夏生さんに出会っていなければ俺も快楽に溺れるだけだったのだと思う。


宗方道理、欲望のままに肌を重ねてる人物だな。


もう、二度と宗方を美麗には近づけない。


「足あげて」


「うん」


俺は、美麗にパンツを履かせる。


「飴ちゃん」


「なに?」


「飴ちゃんが、好きで好きで仕方ない」


俺は、その言葉に嬉しくて美麗に「ありがとう」と笑って言った。


俺は、美麗にズボンを履かせる。


「たまには、こうしてくれる?」


「お風呂か?」


「うん」


「美麗が、しんどくならないなら俺は構わないよ」


俺は、美麗に空色のカッターシャツを着せてあげる。


「これ、飴ちゃんのだよね」


「うん」


「借りて帰っていいの?」


「いいよ」


俺は、美麗の髪の毛を拭いてあげる。


「乾かそうか?」


「うん」


俺は、ドライヤーで美麗の髪を乾かしていく。


鏡にうつる美麗は、潤んだ目をしながら俺を見つめている。


俺は、髪を乾かしてドライヤーを止めた。


美麗は、鏡越しに泣いていた。


「少し休んで帰るか?」


「うん」


俺は、腰を支えながら美麗をソファーに座らせた。


「お水もってくる」


「うん」


そう言って、水を渡した。


「針山さんがね、変な薬やるなら飴ちゃん食べとけってさ。それで、飴ちゃんに会いにこれたんだ」


美麗は、ニコニコ笑ってそう言ってる。


「そうか」


「飴ちゃん、服着なよ」


「あっ、着てくるよ」


俺は、スウェットを着て美麗の元に戻ってきた。


「飴ちゃん、なんかカッコよかったよ。働いてる姿」


「ありがとう」


「お酒飲んでいいよ」


そう言って、美麗は笑ってくれる。


「ごめん。じゃあ、飲むわ」


俺は、ビールとあたりめをもってきた。


「飲む?」 


「ううん、見てる」


「そっか」


「飴ちゃん、あたりめ好きだよね」


「なんか口にモゴモゴあるのが楽しいだろ?」


「確かにね」


そう言って、美麗もあたりめを食べ始める。


「美麗、最近寝れてるか?一人で」


「ううん、あんまり」


「そうだよな!クマひどいもんな」


「そうだね」


俺は、ビールをあけて飲む。


「飴ちゃんと金森あいつの事、想像するだけで、イライラする。今日みたいに、誰かにする?」


「それは、誓ってやらない。信じてくれとは、言わない。だけど、美麗と付き合って仕事を辞めてそれはしないって決めたんだ。あのキスは、好きな人にしかしないって」


そう言って俺は、あたりめを飲み込んだ。


「飴ちゃんの好きな人は、ずっと俺だって信じていいの?」


俺は、美麗の目に頷いてビールを飲んだ。


「飴ちゃん、やっぱりあのキス大好きだよ。その先に進まなくても、全身が愛されてる感じがする。あのお風呂も大好き」


「それなら、よかった」


「俺、飴ちゃんに会うまで知らなかったよ。ただ、れられる事がこんなにも素晴らしい事だって…。だから俺の全部は飴ちゃんのものだから。飴ちゃんが、俺をいらないって言ったらもう俺は、いないから…」


ハリーさんに拾われた時の俺みたいな目を美麗はしていた。


「俺、美麗の番組見るから。明日の生放送も見るから、カメラの向こうで俺がさっきみたいに見てるの想像してみてくれないか?少しでもいいから、駄目かな?」


俺は、そう言って美麗に笑いかけた。


「やってみる。明日から、少しだけでも」


そう言うと美麗は、俺の肩にもたれかかってきた。


「眠たくなったか?」


「疲れてちゃった」


「少し休んだら?起こしてあげるから」


「うん」


美麗は、そういうと眠ってしまった。


そう言えば、いつの間にか俺の中のイライラは消えていた。


俺は、自惚れてるんだよな。


美麗にあんな顔をさせれるのは、自分だけだって過信しすぎてたんだよな。


だから、あんなのを見せられてイライラしてたんだよな。


俺も美麗も弱い。


だから、一緒にいるんだよな。


俺は、久々に肩にかかる重みが嬉しかった。


暫く、美麗を寝かせてあげた。美麗は、30分ほどで目を覚ました。


「立てるか?」


「うん、大丈夫」


美麗は、そう言ってゆっくり立ち上がった。


「送るよ、下まで」


「うん」


俺は、美麗を寺ちゃんの元に連れていった。


寺ちゃんは、休んでいたけどすぐにドアを開けた。


「ごめん、遅くなって」


「まだ、よかったのに」


「いや、いい」


「じゃあね」


「美麗、これスマホと鍵」


「あ、ありがとう」


「勘違いだったらあれだけど、このクマのキーホルダーって俺のじゃないよな?」


俺の言葉に美麗は、照れくさそうに俯きながら「飴ちゃんのだよ。針山さんが、くれた」と言った。


「そうか。ハリーさんがね」


「大事にしてるものでしょ?」


「ああ、両親にもらってからずっと使ってたけど。ハリーさんには、捨ててって頼んだんだけどな」


「持ってていい?」


「どうぞ!じゃあ気をつけて」


俺は、そう言って美麗に笑った。車のドアを閉めると寺ちゃんは、すぐに発進した。


俺は、暫く車を見送ってから家に入った。


  

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