夏生さんからの電話【過去】
二年前、スランプだった。
俺は、お客さんを、満足させれない日々が続いていた。
それは、夏生さんと、ここ2ヶ月会えていなかったからではないかと考えていた。
ブー、ブー
「もしもし」
「飴君、久しぶりだね」
「夏生さん、元気にしてましたか?」
「後、1ヶ月は帰れそうになくてね」
「何してるんですか?」
「少しトラブルだね。飴君、調子は、よくなさそうだね」
「はい、全然」
「それは、私に会えないからかな?」
「そうですよ。絶対」
「関係ないよ。そんな事は」
夏生さんが、笑っている。
「ありますよ。夏生さんと練習して、俺は一日をリセットしていたんです」
「それなら、暫くは電話でしようか?」
「何言ってるんですか?電話でって、俺そんなのしたくないです。自分で、するんですよね?」
「うーん。少し違うかな?飴君は、何もしないが正しいよ」
「何もしない?どういう意味ですか?」
「とにかく、やってみたらきっとわかる。目を閉じて、私とするキスを思い出してごらん」
「夏生さんとするキス…」
俺は、目を閉じた。
あの極上のキス…。
キスだけで、果てる。
初めての経験だった。
夏生さんのテクニックは、凄まじかった。
「飴君…チュッ…」
夏生さんが、俺の唇にキスをした感じがした。
「ハァー」
「夏生さん、ヤバいです」
「大丈夫…ハァー」
夏生さんの息づかいが、まるであの日のキスのようで…。
「夏生さん…ッ」
俺は、何もせずに果てた。
「どうだった?」
「何ですか?これ…」
「脳内で、やったのかな?私と飴君は…」
「こんな事、ありえますか?」
「ありえない事がおこるから、人生は楽しいんじゃないかな?」
夏生さんは、そう言って笑っている。
「誤魔化さないで下さい」
「飴君、前にも話したけど。本能をぶつけるだけのものでは、ないんだよ。人間はね、頭が使えるんだよ。脳内で、感じる事だって出来る。五感、全てで交われる生き物であると私は思っているんだ」
「夏生さん、凄いです。俺には、夏生さんと同じことが出来ませんよ」
「できるよ。飴君に愛する人が出来た時、必ず出来る。だから、私を信じて欲しい」
「夏生さんは、俺にも出来るじゃないですか…」
「そんな事を気にする必要なんてないんだよ。私は、飴君に全てを捧げたい。飴君には、それが出来ると信じてる。だから、気にしないで欲しい。今、私がする事を飴君は全力で受け止めてくれるだけで構わない」
夏生さんに言われて、俺は頷くしかできなかった。
それから、一ヶ月。
頭の中の交わりとやらに、俺の体は反応し果てる。
何も
一回目より、二回目。
二回目より、三回目。
回数を重ねる程に、ハッキリとどうすればいいかがわかってきた。
やっぱり、夏生さんはすごいよ。
俺は、夏生さんの技術を受け入れられる気がしなかった。
それでも、夏生さんは丁寧に教えてくれた。
欲望や本能をぶつけるだけのものではなく、五感を使い愛する事を刷り込まれた。
そして、習得した頃には、100%の力を発揮せずとも喜んでもらえるようになったのだ。
夏生さんも、もしかしたら100%を俺に出していないのではないかと思った。
半分の力で、俺は喜びを与えられていた気がした。
現在ー
夏生さんの病室でしたキスも、80%程だったのではないだろうか?
夏生さんの100%を知ってるのは、佐古さんだけなのだ。
あれだけ、交わったのにも関わらず俺は、夏生さんの100%を知らなかった。
それは、それで何だか少しだけ切なかった。
でも、夏生さんが俺やお客さんにだけ見せている顔以外のものがあるのが少しだけ嬉しかったりもした。
俺は、毛布を持ってソファーに寝てる京君にかけた。
京君の性に対する恐怖や悲しみが消えてくれたらいいのにと思った。
どうか、俺が消してあげれますように…。
俺は、ソファーにもたれかかって目を閉じた。
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