待ってた人

俺が、その声に顔をあげると佐古さんが立っていた。


「佐古さん!今は、眠ってますよ。会いに来たんですか?」


俺は、驚いた顔をして佐古さんを見つめていた。


「あぁ、来たよ。だけど、どの面下げて会えばいいかわかんなくて。気づいたらここに立ってた」


佐古さんは、俺を見つめながらそう言った。


「いつからですか?」


「さっきだよ」


「そうですか…」


そう言って歩きだそうとした俺の腕を佐古さんは掴んだ。


「飴ちゃん、夏生とキスしたな」


「えっ?何でですか?」


俺は、佐古さんの言葉に驚いて目をパチパチさせる。


「説明はできないけど、俺にはわかる」


佐古さんにそう言われて、心臓はドキドキと脈をうっていた。


「まぁ、いいけどよ。俺は、もう夏生には20年は会っていないしな」


佐古さんは、そう言いながら切ない顔をしていた。


その顔を見ると俺は、佐古さんに「そうですか」としか言えなかった。


「ちょっと、飴ちゃん話せるか?」


「はい」


そう言って佐古さんは、俺を病院近くのお店に連れてきてくれる。


「珍しいだろ?個室のカフェ」


そう言って、佐古さんはコーヒーを注文した。


暫くして店員さんが、コーヒーを持ってきてくれて扉が閉められた。


「飴ちゃんは、何で夏生に会ってる?」


佐古さんは、不思議そうな顔をしながら俺を見つめていた。


「夏生さんに調べて欲しい事があったのと、最後まで傍にいたいと思ったからです」


その言葉に佐古さんは、何かを理解した顔をする。


「そうか。夏生は、もう長くはないんだな…」


そう言って佐古さんは、寂しそうな顔をしてコーヒーを飲んでいる。


「半年あるかないかだと聞いています」


俺は、佐古さんに嘘をつく事は出来なかった。


「そうか。俺は、今でも夏生を忘れられないんだよ。夏生が俺のラブシーンの練習相手になってくれたんだ。30歳目前の仕事でな。色気を出すためにやってくれた。夏生は、俺とたいして歳がかわらないくせに…。妙に色っぽくてな。経験も豊富だった。飴ちゃん、夏生とした事あるんだろ?隠さなくてもいい」


俺は、その言葉に頷いた。


「そうか、それで美麗が飴ちゃんの虜になってる理由が一つわかった」


そう言って、佐古さんは俺に笑ってくれた。


「夏生のキスも交わりも、極上だっただろ?」


「はい」


「今まで感じた事なかっただろ?」


「そうですね」


「飴ちゃんは、素直だな」


佐古さんは、そう言って笑いながらコーヒーを飲んだ。


「夏生は、俺にもその極上を教えてくれたよ。だんだんと俺は、夏生をほっしてる自分に気づいた。最後の方は、夏生とどれだけ肌を重ねる事が出来るかって気持ちが強かった」


佐古さんは、遠い目をしながら話す。


「でもよ、夏生は半年間の練習が終わったら…。お疲れ様です。さようなら。ってあっさり俺と別れたんだよ。映画を撮り終わって、ヒット作になった。俺は、何度も何度も夏生に会おうって連絡したよ。でも、夏生は一度も会ってくれなかった。なのに、次会ったら死ぬってよ。もう、俺は二度と夏生にれる事も叶わない」


佐古さんは、そう言って泣き出した。


「夏生と繋がる為に、俺はずっと夏生の店から一夜限りの相手を紹介してもらってた。だけどな、俺は、ずっと夏生とそうなりたかったんだ。でも、夏生は二度と俺を相手にしてくれなかった。飴ちゃん、夏生は、痩せてるのか?」


「はい。その体では佐古さんに会いたくないと言っていました」


「会いたくないか…。俺は、会いたいんだけどな。痩せていても、太っていても、夏生がどんな姿でも俺は会いたいんだけどな」


そう言って佐古さんは、涙を拭ってコーヒーを飲む。


「あの手紙書きませんか?俺が持っていきますから」


気づくと俺は、佐古さんにそう言っていた。


「手紙に、何を書くんだよ」


佐古さんは、俺の言葉に困った顔をしながら言った。


「佐古さんの今の気持ちですよ」


「そうか、今の気持ちか……。わかった。書いてくるよ。飴ちゃん、明日またいるか?」


佐古さんは、うんうんと頷きながら俺を見つめて話した。


「はい、毎日います」


「わかった。じゃあ、明日持ってくるよ」


そう言って、佐古さんは笑ってくれる。


「だけど、週刊誌はさけなきゃいけないんだよ。まだ、美麗が育ってない。だから俺は、週刊誌に撮られるわけにはいかない。まぁ、病院まで追いかけてくるやつはなかなかいないかな。もし会えたら飴ちゃんが、一緒に居てくれるか?」


「構わないですよ」


「なら、よかった」


佐古さんは、残りのコーヒーを飲み干した。


俺も、コーヒーを飲み干した。


「じゃあ、行くか」


「はい」


俺と佐古さんは、お会計をして店を出る。佐古さんが払ってくれた。


「ご馳走さまでした」


「いいって!じゃあ、またな。飴ちゃん」


「はい、また」


そう言って俺は、佐古さんに深々とお辞儀をした。



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