第12話 救出

「何故ここがわかった!? 何故ここにいる!?」


「……」


 無視して敵の数を把握する。

 それと共に総合的な戦闘力をはかる。

 自分の力と天秤にかけて最適解を出す。


 この時の最適解は片っ端から皆殺し。


「お、おい! おまえらやっ────」


 コザーの首を闇が通り、気がついた時には身体にはもう頭はなかった。

 ブシャァァと血を吹きながら倒れる。


「なんだコイツ!?」


 作業のように次から次へと首を飛ばしていく。

 残ったのは俺とアリーのみ。

 ここに居たものは皆頭を失った骸となった。


 身体は今だに闇に覆われている。

 そのままアリーの元へいく。

 アリーの頬を撫でる。


「テツさん? 正気を取り戻して! 私は優しいテツさんが好きなの!」


「アリー、大丈夫だったか? これは俺のせいなんだ。俺がアイツらを生かしていたからこんな事に……」


バチンッ


 俺は何が起こったか分からなかった。

 頬が痛い。

 手を頬に当てるとジンジンしていた。


「テツさんのせいじゃないよ! アイツらが悪いだけ! 何でもかんでも自分を責めるの止めてよ! ねぇ! 正気を取り戻して!」


 頭が。熱を取り戻していく。

 ゆっくりと温かくなっていく。

 体に纏っていた闇は引いていった。


「アリー、怪我はないか?」


 俺の顔が正気に戻ったのが分かったのか笑顔を取り戻したアリー。

 綺麗で眩しい笑顔が、戻ってきた。

 心が満たされていく。


「大丈夫!って言いたいところなんだけど、力ずくで連れてこられたから腕が痛いのと、私が抵抗したから少し殴られたりして……引っかかれた傷もあるし」


 俺は胸が締め付けられた。

 気づいたら胸にアリーを抱えていた。

 所謂、お姫様抱っこである。


「えっ!? ちょっ! 恥ずかしいって!」


「いや、他に怪我をしていたら大変だからな」


 顔を真っ赤にしたアリーを抱えたまま街の中を歩いていく。

 みんな微笑ましそうに見守ってくれている。

 服屋のマーニさんが出てきた。


 ホントにこういう時の嗅覚たるや。

 この年頃の女性というのはこういうネタになりそうな事が好きであるようだ。


「あらあら、まぁまぁ、若いっていいわねぇ」


 ますます顔を赤くして俯くアリー。

 抵抗することはやめたが、恥ずかしいようで、顔が茹でダコのように真っ赤になっている。


 うぅぅぅという声が胸の中から聞こえてくる。

 俺としてはホッとして、もうアリーは手放せないという感じになっている。

 誰にも渡さないように抱えているのだ。


 暫くすると家に着いた。

 着いたが、下ろそうとしない。


「ミリーさん! 開けて貰えますか?」


 ドタバタと家の中から音が聞こえてガチャッと扉が開いた。

 目をキョトンとさせている。


「アリーを連れてきました。ベッドはどこですか?」


「あらあら、まぁまぁ、こっちよ?」


 ニヤニヤしながら部屋に案内される。

 アリーの部屋に入るとフワッといい香りがした。女性というのはいい香りがする生き物なんだろうか。


 ベッドにゆっくりと寝かせると。

 アリーが俺の上着で顔を隠している。

 何やらずっと恥ずかしいと言っているようだ。


「テツさん、有難う御座いました」


 ミリーさんが深々と礼をする。

 俺は、礼をされる立場には無いと思っている。


「いや、今回は俺の────」


「違う!」


 いきなりの大声に思わず後ろを振り返った。

 すると赤い顔ながらも頬を膨らまして怒っているようだ。

 何をそんなに怒っているのか。


「さっきも言ったでしょ!? アイツらが悪いの! テツさんは一つも悪くない!」


 凄い剣幕に俺も言葉が出てこない。

 たしかにさっきそう言っていたな。

 しかしだな、俺の不手際で……。


 ダメだな。

 これじゃあ、何も収まらない。


「そうだったな。悪い」


「わかればよろしい」


 可愛らしい、いい笑顔を浮かべる。

 起き上がった時に色々はだけていて、凄い格好になってしまっているアリー。

 とても魅力的だが、こういう時に言うのは不適切だろう。


「ミリーさん、俺はちょっと自警団と、ギルドに事情を説明してきます。アリーに怪我がないか見てくれないですか?」


 視線を無理矢理外し、ミリーさんに視線を固定する。そして出ていくから見ていてくれとお願いする。


「ふふふっ。アリーはテツさんに見てもらった方が嬉しいんじゃないかしら? そんな格好でも気にしてないみたいだし?」


 ミリーさんがそう言うとアリーが自分の格好を確認して手で体を慌てて隠した。


「テツさん! 見ちゃダメ!」


 アリーよ、先程、もう脳裏に焼き付けてしまっているのだよ。

 脳裏にもう一度その姿を思い浮かべてしまう。

 女性とはなんと言うか柔らかい感じで魅力的なものなんだな。


「テツさん? やっぱり若い方が好き? 顔真っ赤にしちゃって!」


 ミリーさんに指摘されるまで分からなかったが、俺の顔は赤くなっているらしい。

 手を頬に当てるとたしかに頬が熱い。


「いや、その……」


「二人とも初々しくて可愛いわね。アリー、着替えましょ? 脱いで?」


「えっ!? ちょっ! 待って!」


 ミリーは遠慮せずに脱がしにかかる。


「良いじゃない。テツさんに見てもらいなさい?」


「見ないでー!」


 背を向けたままの方が良いだろう。

 部屋から出ると部屋の前で騒がしいのが収まるのを待った。

 暫くするとミリーさんが出てきた。


「テツさん、アリーは大丈夫みたいよ。軽い打撲や切り傷、擦り傷はあるけどすぐ治るわ」


「そうか。それなら良かったです」


「攫った人達は?」


 どうなったかは分かっているだろうが一応聞いておきたいのだろう。

 ふぅと少し息を吐くと覚悟を決めて答えることにした。


 ここで真実を伝えて出て行けと言われるなら、その時はその時だ。

 アリーとミリーさんを守れる算段を付けたら離れるとしよう。


「その場にいた全員、首をはねました」


「そっ、有難う。助けてくれて」


 案外軽い返事にこちらが肩を透かされた気分であった。

 ミリーさんを見るとニコッと笑っている。


「そんなに、覚悟を決めた顔しなくてもいいわよ。命の恩人に出て行けなんて言わないわ。バカね」


 自分の中に言葉が染み込んでいく。

 俺は本当にここに居ていいのか。

 そう考えていたが、居ていいんだとそう思わせてくれる言葉であった。

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