第37話 プレゼント選び

「さぁ、行きましょ!」


 気合いの入った声を上げ、歩き出したのはミリーさんだ。


 昨日、プレゼントしたいと提案して、その後夜遅くまで何を買うかということをかなり考えていたそうな。


 それを知っているアリーも中々夜は寝れなかったようだ。

 フルルと何を買うかという話で話し込んでいたに違いない。


 俺は、後ろを着いていきお金を支払う。

 今日はその為に来ているのだ。

 後は、警護も兼ねている。


 まぁ、もうこの街で俺とアリーの仲をしらない人などいない。

 居るとすれば、この街の人ではない人だが。


 こんな美女と美少女が歩いていれば声を掛けたくなる男達もいる事だろう。

 だが、ミリー達は一切声をかけられることはなく街を進んでいく。


 それはそうだろう。後ろで鬼の形相をして殺気を振り撒いているテツが居ては恐ろしくて誰も寄ってこないだろう。


 まずは、アクセサリー屋さんだ。


「あっ! これフルルちゃんに似合うんじゃない?」


 アリーがフルルにチョーカーのような物をあてがって可愛いと言ってはしゃいでいる。

 フルルも満更でもないようだ。


「これ……アリーに……似合う」


 フルルが選んだのは髪留めであった。

 バレッタと言うのだろうか素敵な青の宝石のような綺麗な石が埋め込まれた黒いものであった。


「これがいいわ! テツさんの髪の色と同じ! ねっ!? テツさん!?」


 いきなりこっちに問われて慌てるが、凄く似合う感じだったので迷いはなかった。


「あぁ。凄く似合う」


「んふふー」


 可愛い顔で照れている。

 アリーは何でも可愛いが、笑顔時のアリーが一番可愛らしいな。

 フルルが不満そうだ。


「フルルも、似合うぞ」


「ふふっ……当たり前」


 やはり満更でも無い様子のフルル。

 そこに乱入者が。


「ねぇ、これどうかしら?」


 まさかのミリーさんが俺の所へ感想を聞きに来た。


「似合ってます」


「あら、そう? じゃあ、これ買おうかしらぁ」


 返答は一択しか無かったが。

 そのやり取りに呆れるアリー。


「もう! お母さん! テツさんに聞かなくてもいいでしょ!? 自分で欲しいの買えばいいじゃない!」


 それはごもっともだが、ミリーさんも綺麗だから見とれてしまう時があるんだよな。


「テツさんも、適当にあしらっていいんですからね!?」


「いや、そういう訳にもいかないだろ?」


「むー」


 頬を膨まらせるアリー。

 居候させて貰ってる身としてはミリーさんを無下にはできないんだ。


「まぁ、いいじゃない。『凄く』って付けたのアリーだけだったわよ?」


 言われて初めて気付いたのだろう。

 顔を赤くするアリー。


 ミリーさん、俺も恥ずかしいからやめて欲しい。意識してなかったから尚更だ。

 思い返せばアリーにだけ凄くって付けてる。

 気をつけないとな。


 結局みんな購入して次は本命の服屋だ。

 ここでも長期戦になるだろう。


「えぇー。これいいなぁ」


「アリー……似合う……」


「そう? こっちとこっちどっちがいいかな? テツさん?」


 これは、難易度が高い質問だな。

 敵だったらどうか。両方から敵が来た場合……両方を一気に切り倒す。


 だが、この問いに両方似合うと思うという選択は一番やってはいけない気がする。

 どう答えたら良いべきか。

 

 攻め方を変えればいいか。

 右を攻めた後に左も攻める。

 結果両方を倒してボスを倒す。


「そっちのは可愛くてアリーに似合ってると思うが、こっちのはアリーを大人っぽく見せてくれる。俺はどちらのアリーも見てみたい」


 どうだ。この両方攻めて最後にボスを倒すという攻め方。


「もう! テツさんったら! 皆見てますよ?」


 両手の服で真っ赤になった顔を隠して照れている。照れている姿も可愛らしい。

 アリーが両手の服の間から顔を出す。


「これ、どっちも買っていいですか?」


「あぁ。他にも似合うのいっぱいあると思うぞ」


「そうですかねぇ。探してきます! あっ、マーニさん、これ買うので置いておいてください!」


「あぁ、はいはい」


 服を両方取り置きして違う服を見に行った。

 さっきの質問はなんとかなったようだ。

 攻め方としては無駄があるような気がしたが、両方を一気に攻めるよりは良かったのではないだろうか。


「ねぇ、テツくん? これどうかしら? ちょっと私には若過ぎるかなぁ?」


 ミリーさんが選んできたのはミニスカートのようなもの。ミリーさん、そんなの履いたら悪い男が寄ってきますよ。

 ん? そのまま言ったらいいか?


「ミリーさん、そんな魅力的なの履いたら悪い男達が寄ってきて大変ですよ?」


「そうねぇ。それは困るわぁ。やっぱり大人はロングよねぇ」


 別のを探しに行ったようだ。

 なんか変な汗が出てきた。

 前世でターゲットに近づく為に潜入した時でさえこんなにはドキドキしなかったはずだが。

 やはり女性というのは手強いものだな。


「テツさん……これ……どう?」


 何故こんなものが?

 隣国の勇者とやら、広める物を間違えていないか?


 フルルが持ってきたのは、ヒラヒラとした所謂メイド服の様なもの。

 いや、ピンクの髪だから妙に似合う。

 だが、これを来たら変な目で見られるんではないか?


「フルル、それは似合うが、着てる最中に戦闘になったら戦えるか?」


「…………ダメか……」


 違う服を見に行った。

 なんでトリッキーな服を選んでくるんだろうか? 俺には女性の心は分からない。


 この後、二時間くらい質問されては答えるのを繰り返し。

 俺は、ジンさんと鍛錬した後以上の疲労感を感じて帰路に着くのであった。


 そのかわり、女性陣の機嫌は最高潮に良かったとか。

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