第38話 森の異変

 俺がアリー達にプレゼントをしたのが一昨日。

 そろそろまたAランクの魔物を狩りに行こうかと思っていた頃。


「だ……誰か!……」


 ボロボロになった冒険者が駆け込んできた。

 たしかあの人はCランク冒険者だったはずだが。一体何があったのか。

 近くにいた別の冒険者が駆け寄る。


「どうした!? 何があった!?」


「それが、四層にAランクのエンオンが……」


「なに!? わかった! 今ギルドマスターに知らせてくる!」


「まだ仲間が戦ってるんだ! 俺は知らせるために逃げてきたんだ! 助けてやってくれ!」


 その言葉を聞いて受付窓口に居た俺はすぐに出る事にした。


「サナさん、俺が行く! ジンさんにもそう伝えておいて!」


「わかったわ! テツくん頼んだわよ!」


「あぁ」


 すぐにギルドを出て街の外へ向かう。

 向かっている最中にダンとウィンと出くわした。俺の顔を見てただ事ではないと分かったんだろう。


「テツさん、何かあったんですか!?」


「四層にAランクが現れたらしい」


「えっ!?」


「恐らく、怪我人を連れてくると思う。治療の準備をしておいてくれ。俺は戦ってる奴らを助けに行ってくる」


「分かりました! お気を付けて!」


 ダンとウィンもギルドに走っていった。

 いい弟子達だ。察しがいい。

 今はDランクだからな。

 もう中堅だ。


 俺も早く行かねば。


 街を出て森に入っていく。

 今回は迂回する余裕もない。

 出てくる敵は全部切り倒す。


 アビット、ゴブリン、ゴンガルーというカンガルーに似た魔物。

 次々と出会うが一刀の元に切り伏せて駆けていく。一刻も早く辿り着かなければ。


 四層に着くぞ。

 五感を研ぎ澄ませる。

 どこだ?

 どこにいる?


「…………ァァ」


 魔物の吠える声が聞こえた。

 南だ。

 全力で駆ける。


 炎が見える。

 もう少し近づくと全容が見えてきた。

 鬣が炎に包まれたライオンみたいな魔物、エンオン。

 口から炎を出して冒険者に放っている。


 冒険者達は火傷でボロボロだ。

 だが、まだ生きているようだ。

 何とか生きている。


 ナイフを抜き放ち、横から突っ込む。

 闇を身に纏い、ナイフに闇を付加させて刃を伸ばす。

 これで前足を刈り取る。


 エンオンがまた炎を吐こうと上体を仰け反った。それを見て前足を狙うのをやめた。

 喉を切り裂く。


ズババァンッ


 ナイフで二連続での切りつけを放つ。

 急に切り裂かれた喉の痛みに炎を溜めながら呻き声のようなものをこぼした。


「ゴォ……ォォォ」


 よし。

 炎を吐くのは阻止できた。

 今のうちに。


「救援に来た! 今のうちに逃げろ! 後は、俺が始末する!」


 後ろに居るであろう冒険者に向けて声を張り上げる。


「すまん! 助かった! 行くぞ!」


 残って戦っていた三人は一緒に街の方へ逃げていった。

 何とかあとは治療すれば助かることだろう。


 さて、コイツは何で四層に現れたんだ?

 Aランクは五層からは出てこないはずなんだが。五層で何かあったのか?


「ガァァァァァ!」


 切りつけられて怒ったのだろう。

 襲いかかってきた。

 考えてる暇はないか。


 爪で攻撃してくるが、モーションが大きい。

 最低限で避け、片方の前足を切り飛ばす。

 グラりとバランスを崩した所を狙う。

 

 闇の刃をを伸ばし、両手をクロスして構え。

 一気に切り払う。


ズバァァンッ


 鬣の根元から頭部分が切り離されて地面に落ちる。落ちるとさすがに炎は収まるようだ。

 魔力で燃えていたのだろう。


 これも換金できるところがあるだろう。

 また、頭を背負って持っていくか。

 サナさんには怒られるだろうが、それが一番手っ取り早いのだ。


 あとは手足の爪を剥がして持っていくことにした。爪だけが必要だからとグンじいが言っていたのだ。

 持ってくる量が多い時はそれだけの方が嵩張らないと。


 背負い袋に入れて爪は持っていくことに。

 身体はどうしようも無いからまた置いておくことにするか。

 魔物が食って処理してくれるだろう。


 しかし、なぜこんな所にAランクが現れたのだろうか?

 少し五層の様子を見てから帰るか。

 エンオンの頭を背負って行く。


 五層に入る。

 ん?

 なんか前と違う殺気がそこら中からする。


 魔物が殺気を振り撒いて移動しているようだ。

 何があったのか。

 魔物同士の争いだろうか。


 中心部の方か?

 Sランクに何かあったのか?


 何かが駆けてくる。

 林に身を潜める。

 銀の狼のような魔物が来る。


 ブルリと体が震えた。

 俺が震えるとは久しぶりの感覚だ。

 これがSランクか?


 こちらは見向きもせずに北の方向に消えていった。何だったんだ?

 やはり何かが起きている?

 南の方向になにがいる?


 林から出ようとすると話し声が聞こえてきた。


「お前が躊躇うから逃げちまったじゃねぇかよぉ!」


「はははっ。ごめんごめん。なんか可愛くてつい攻撃したくなくなっちゃった」


「もー。なんで魔物を可愛いなのよぉー!?」


「どう致しましょうね?」


 男二人、女二人の四人組のパーティのようだ。

 今の話しぶりからするとSランクを狩りに来ていたのだろうか。

 という事は相当な実力なのだろうな。


 北に向かって歩いてきた。

 少し姿を確認でもして帰るか。

 目を凝らして四人組の姿を確認する。


 段々と近づいてきた。

 ハッキリと顔が確認できるところまで来た。


 フェンリルを可愛いと言っていた男。


 たしかに……そんなことをいう男だった。


 なぜここに?


 気が付いたら林から飛び出していた。


「ヒロか?」


「えっ!? …………テツ?」


 なぜ生きている?


 俺が殺してしまったはずなのに……。

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