第39話 異世界で再会

「ヒロか?」


「えっ!?…………テツ?」


 なぜここに?


 俺が殺してしまったはずなのに……。


「テツだよね!? おぉ! なんで? なんでいるの?」


「俺は、転生したんだ」


「あっ、ボクもだよ? 偶然だ─────」


 俺は気がつけば頭を下げていた。


「すまなかった!」

 

 ヒロは、俺が殺しをしたく無くなった原因の男。

 この男には前世で妻子がいた。

 しかし、俺は殺しの依頼が来たために殺したのだ。


 ヒロは、唯一俺の本音を話せる男だった。

 同業者だったが、以前にチームを組んだ時に意気投合したのであった。


 ヒロは好きな人が出来たと言った。

 最初は驚いたが、祝福した。

 結婚するという。子供が出来たんだとか。

 凄いなと思った。


 俺達みたいなのでも妻も子供もできるんだって。

 だが、組織はそれをよしとはしなかった。

 ヒロは組織を辞めようとした。


 そして、依頼が来た。

 俺は依頼を優先し、ヒロを殺したんだ。


「テツ。頭を上げて?」


「しかし、俺は取り返しがつかないことをした」


「あの時は、ボクも殺される選択肢しかなかったんだ。妻と子供を守る為にはね。だから、お互い様だよ。利害は一致してたよ?」


「……」


 俺は、あの時の事をずっと後悔して、何か他に選択肢があったんじゃないかとずっと考えていたんだ。


「テツはすぐそうやって背負い込むからね。良くないよ? そういうとこ。ボクは逆に感謝してるんだ。あの時、殺してくれてありがとう。おかげで、妻と子供は無事だったと思うから。それに、何故か勇者として転生できたんだ。不思議だよね……」


「あぁ。不思議だな……」


「「殺し屋なのに」」


「ぷっ! ははははっ!」


「ふっ! はははっ」


 二人で笑い会うのは前世で殺す前に会った時以来だろうか。


「えっ? テツはなんで転生?」


「あぁ。実はな、ヒロを殺した後、もう殺し屋は嫌になってな。ビルから飛び降りたんだ。そしたら、真っ白な空間に神がいて転生させると言うんだ。今までの罪を償うにはこの世界で好きに生きる事なんだそうな」


「そっか。テツも思い詰めちゃったんだ。ちゃんと殺してくれって言えばよかったね……」


「いや、それもおかしいだろう」


「そうだね。組織に疑われるのは避けたかった」


「……そうだ。狩りをしていたのか? 四層にAランクの魔物が出たっていうんで救援に来たとこなんだ」


「あぁー。そうなんだ。多分ボクらがSランクを追いすぎて四層にAランクが追いやられちゃったのかも。ごめんね」


「そういう事だったのか」


 だからさっきSランクの魔物が走っていったのか。あれは追われてたんだな。

 五層をSランクが走り回ってるからAランクが四層に逃げてきたと。


「おい! そいつ誰なんだよ?」


 ヒロの横にいた男が不機嫌そうに聞く。

 恐らくなにも知らない中、会話を進められたのが気に入らなかったんだろう。


「前世で同業者だった親友」


 いまも親友と言ってくれるのか。

 俺はそれだけで心が締め付けられる思いだ。

 そう。親友を俺は殺した。


「同業者だと? っつう事はお前も強いのか?」


 その男が聞いてきた。

 コイツは戦闘狂なのだろうか?

 先程の会話と言い荒いイメージしかないが。


「どうだろうな」


「ボクよりは強いよ」


「マジかよ!? ヒロより強いのか!? 戦ってみてぇ!」


 おいおい。今はそんなこと言ってる場合じゃない。俺も説明に戻らないと。


「俺はギルドの救援できたから、戻って報告しなければならないんだ」


「あっ、じゃあ、謝罪もかねてボク達も行くよ」


 ヒロがそんな提案をしてきた。

 それは非常にこっちも助かるが。


「えぇー? またあるくのぉー?」


「大丈夫なんでございますか? そんな勝手なことをしてしまって?」


「ボクが責任持って騎士団長とかには説明するから、テツのいるギルドに行こう」


 このパーティのまとめ役って所か?

 前世のチームの時もリーダーやってたな。

 やっぱりヒロはそういう役割なんだな。


「なぁ!? そのギルド行ったら俺と一戦してくれないか?」


 こういう男は一戦してやらないとしつこいタイプだ。

 一戦してやるしかない。


「あぁ。落ち着いたらやろう」


「よっしゃ! 早く行こうぜ!」


 俺を先頭に街に向かうことにした。

 ここからは層が下がっていくのでたいして敵になる魔物はいない。

 雑談しながら歩くことになった。


「テツの背負ってるの、エンオンだよね?」


「あぁ。そうだな」


「それ、ソロで狩ったの?」


「そうだ」


「相変わらずデタラメだね?」


「なにがだ?」


「エンオンってソロで狩る魔物じゃないんじゃない?」


「そういうもんなのか? ずっとソロだから分からん」


「はははっ。こっちでも一人なの?」


「戦う時はな……」


「えっ?」


「なんだ?」


「普段の生活は一人じゃないってこと?」


「……あぁ。居候してるんだ」


「ふーん。可愛い子?」


「あぁ。……!?」


「へぇ! テツが女性と住んでるんだ!?」


「ちがっ! 母親も一緒だぞ!?」


「えぇ!? 女性に囲まれて生活してるの? 良いなぁ」


「お前なぁ。買い物の時なんて潜入して仕事する時より緊張するんだぞ?」


「こっちとこっちどっちがいい?って聞かれるやつ?」


「まさしくそうだ。けど、俺は正解を導き出したんだ」


 俺は凄いんだぞと威張るように言った。


「ふふふっ。その人達、いい人達なんだね?」


「……あぁ。凄くいい人達なんだ。俺は救われているよ」


「話してる時の顔見ればわかるよ。っていうかさ、若返ってるよね?」


「あぁ。二十歳の体だからな」


「ずるい! ボク変わってないのに!」


「ヒロはそもそも俺より若かっただろ」


「そうだけど、二十三だよ?」


「大してかわらん」


「かわるよぉ!」


 他愛もない話をしながら街に向かった。


 こんなに楽しい気持ちになったのはいつぶりだろうか。

 

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