第40話 隣国の勇者

「Aランクが四層に来てた原因がコイツらだと?」


「はい。隣国の勇者一行だそうです」


 ギルドに戻るとまずジンさんに事情を説明した。


「ボク達の不手際でご迷惑をおかけしました!」


 ヒロ達が頭を下げる。

 一応ケジメとして謝罪は必要だろうな。

 ここのギルドの冒険者に被害があったのだから。


「まったくいい迷惑だ。冒険者が被害を受けた。テツの救援が間に合ったからよかったがよぉ」


 ジンさんも苦言を呈す。

 けど、ジンさんの場合はこれで終わりだと思う。


「すみませんでした!」


「まぁ、今後は気を付けてくれや? 隣国の勇者さんにあんまり言うと良くねぇだろうからな。何せ世界の為に魔物の王を倒す為に召喚されたんだからなぁ?」


「そうなのか? ヒロ?」


「うん。そうだよ? 知らなかった?」


「知らなかった」


「この世界では有名なんじゃないの?」


「俺は来てそんなに経ってないからな」


「そうなんだね」


 俺がヒロと話しているとジンさんが不思議そうな顔をして見ている。

 何もまだ話してないからそれは不思議に思うだろうな。

 俺が隣国の勇者とこんなに親しげに話してるんだから。


 そういえば、別の世界から来たとは話したこと無かったかもしれないな。


「テツ、随分勇者様と仲がいいな?」


「ジンさん、実は俺、元は勇者が召喚される前の世界の人間なんです。それで、唯一の親友がコイツ、ヒロでした」


「はぁー。そういう事だったのか。じゃあ、おめぇ修羅場潜って来たってぇのは……」


「はい。前の世界での話だったんです」


「なるほどなぁ」


 ジンさんはしみじみと話を聞いていた。


「それでよぉ、その勇者様とやら、なんでSランクを追いかけ回してたんだ?」


「はい。ボク達は今ノルマを課せられてまして……今はSランクを倒す事が課題なんです」


「ほぉ。それで追いかけ回してたと……」


「そうなんです。逃げられてしまいまして……」


 ヒロがそういうと、ジンさんは合点がいった様に相槌を打った。


「そりゃあ、そうだろう。相手にされてねぇんじゃねぇか? めんどくせぇから逃げるんだろう」


「なんでお前にそんなこと分かるんだよ!?」


 急に怒鳴り出したのは一緒にいる戦闘狂の男。


「ショウ! その通りだと思うよ。現にこの人は戦ったことがあるんじゃないかな?」


「あぁ? そうなのか!?」


 まだ怒鳴っている。

 コイツうるさいな。


「あぁ。おれぁ、まともに正面から相手されたぜ? まぁ、勝っちゃいねぇけどな」


「ふん! 何でこいつが相手されるのに、俺達がダメなんだよ!?」


 それが分からない時点で、論外なんだよな。


「ショウ、失礼だぞ! 俺達よりこの方は強いぞ? もちろん、このテツもな」


「さすがは、ヒロ」


「悔しいけどね。なんか以前より強くなったんじゃないか?」


「それもあるが、あの時とは体が違うからな」


「あー。なるほど」


 ヒロは前世から変わっていない。

 技術的にも元々俺が上だった。


「俺は納得できねぇな!」


 ショウは納得できないようだ。

 まぁ、理解できないやつには何言っても無駄だからな。

 実力で黙らせるしかない。


「しゃあねぇ、相手に────」


「いや、ジンさん、ジンさんが出るまでもない。俺がやります」


 俺がやれば気がすむだろう?

 ショウとやら。


「おめぇ、それじゃあ俺が上みてぇな────」


「おぉ! いいぜ! あんたとはやりたかったんだ!」


「じゃあ、訓練所に。ジンさん一部屋借りますよ?」


「あぁ。見物してもいいだろ?」


「はい。構いません」


 ゾロゾロと訓練所に向かう人達。

 なんだなんだ?と見ていた人達まで見学に行くことになったようだ。

 結構な人数になっているが、まぁいいか。


 訓練所に着くと、二人で向かいあって立った。

 ショウ獰猛な笑みを浮かべている。


「ショウ、全力でいいぞ」


 俺が言うと苦々しい顔をしている。

 舐められたと思ったんだろう。

 フンというと筋肉が一回り増強された。


「おれの固有能力ビルドアップだ」


「なんでもいい。かかってこい」


 さらにかかってくるように言う。

 顔を真っ赤にして震え出した。


「舐めやがってぇ! オラァ!」


 右拳を振り下ろしてくるが、最小限の動きで避ける。

 避けられたことがわかるとガムシャラに攻撃してきた。


 右、左、上段げり、走払い。

 次々と攻撃されるが全て見切って避ける。


「はぁ。はぁ。くそっ! なんで当たらねぇ」


「もっと早く攻撃できないのか?」


「くっそぉぉぉ!」


 更に筋肉を増強して拳を振るってくる。

 これ以上は無駄だと判断して避けたところで後頭部に手刀を当てて気絶させる。


「「「おおぉ!」」」


 周りで見ていた冒険者が歓声を上げる。

 こうもあっさりとショウがやられたことに驚いだのだろう。


 引きずって行って端に寝かせる。

 すると、真ん中にヒロも出てきた。

 やる気か。良いね。


「ボクもいいかな?」


「あぁ。手抜きしないぞ?」


「望むところだよ」


「今の現在地を教えてやるよ」


 俺がヒロに出来ることは、今の弱さをわからせてやる事だ。


 両者刃引きされたナイフを持つ。

 構えると、手をくいっとする。


「はっ!」

 

 ナイフを直線に突いてくる。

 直線的すぎる。

 前に詰めながら左に体を倒して避ける。

 そのまま右足を開脚してハイキックを放つ。


 ドッと言う音とともにヒロの体が傾き。

 そして、床に倒れた。


 また引きずって端に寝かせる。

 これで、分かっただろう。

 自分が今どれだけ弱いか。

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