第41話 アリー紹介
「いてててて」
「すまん。誰か回復魔法をかけてくれないか!」
しばらくして起き上がったヒロが頭を抑えて痛がっていた為、慌てて回復魔法をお願いした。
少し力を入れてしまったようで、打ちどころが悪かったかもしれない。
「はい!」
女性が一人回復に来てくれた。
「すまんな」
「いえ。この位はなんてことないですから。けど、やっぱりテツさんは凄いですね?」
見知らぬ人に凄いと言われるとなんだか恐縮してしまうが。
もしかしたら顔見知りかもしれないけどな。
この前もアリーの友達を紹介されたのだ。その後が問題で、後日会った時に挨拶されたんだが、俺が覚えてなくて初めて会ったように挨拶したら、怒られたのだ。
こういう時は、フランクに知り合いだよね、という感じで話すのがいいと学んだのだ。
「そうか? 大したもんでもないさ」
「そんな事ないですよ! アリーさんをあんなに颯爽と助けて騎士様みたいでしたよ! 大切にしてあげてくださいね! はいっ! 終わりです!」
そう言い残して去っていった。
何やらアリーを助けた時に見かけてた冒険者だったようだ。
知り合いでもなんでもない。
「テツ……普通に女の人と会話できるようになったんだね?」
「ん? あぁ。居候先が女ばかりだからな」
「そうだ。言ってたよね! 遊びに行かせてよ!」
「それはいいが、お前達は大丈夫なのか?」
「うん。ここに来る前に連絡したんだ。しばらく戻らないで修行するってね。そしたら、何も言われなかったよ」
「そうか。ならいいぞ」
そんな話をしていたら、ようやくショウが起き出した。
「あぁー。負けたぁくそっ!」
「悔しがってる内は、伸び代があると思うぞ?」
俺がそう言うと苦な虫を噛み締めたような顔をして嫌そうにしている。
上から言われた様で気に入らなかったか?
「ショウ。良かったじゃない。ボク達はまだまだ弱い。強くなろう」
「ケッ! つったってよぉ。どうすりゃいいんだよ!? 俺は最大まで筋肉を増強してんだぞ?」
ショウがヒロに詰め寄る。
ヒロは困ったような顔をしているが、出来ることはあると俺は考えていた。
「俺に考えがある。ショウの筋肉は鋼のような硬い筋肉だと思うんだ。防御にはそれでいいんだろう」
「あぁ? どういう事だ?」
「素早く拳を繰り出したり、早く走ったりするのに優れた筋肉っていうのはしなやかな柔らかい筋肉だと思うんだ」
「そんなのやった事ねぇな」
「だろ? 柔らかな筋肉にビルドアップしたら、かなり素早く動けるんじゃないか? 使い方次第で全然動きが違くなると思うぞ?」
「……おぉ。たしかにな! おぉ! ちょっと試してみていいか?」
「おぉ。やってていいぞ。俺達はちょっと出てくるぞ?」
「あぁ! 俺は好きにやってるからな!」
今までそんなアドバイスをしてくれる人も居なかったのだろう。
筋肉に種類があるなんてこの世界では考える人がいないだろうからな。
ショウを置いて訓練所を出る。
ジンさんに使わせて貰えるようにお願いしておいたので、俺達はアリーの所へ向かう。
一緒についてきたアケミとレイという女の勇者達は買い物に出ているようだ。
女性というのは本当に買い物が好きな生き物だよな。
「テツ、アリーさんの家に行こう?」
「!?……なぜ名前を!?」
「さっきの冒険者が言っていたよ? なんか騎士様みたいだったとか? お姫様抱っこでもしたの?」
「っ!……い、行くか」
「ふふふっ。したんだな?」
目を見ないように歩く。
自分の顔は見えないが頬が熱いのがわかる。
赤くなってしまっているようだ。
スタスタと歩いていたらすぐに家に着いてしまった。
「あっ! ここ? いい感じの平屋だねぇ」
外回りを見ていたヒロを無視して中に入っていく。
「ただいま」
「「「おかえりなさい」」」
なんて紹介したらいいものか全然考えていなかった。前世の話をしてもいいものだろうか。
なにか前世を覚えていることで嫌われたりしないだろうか。
そんな事を少しの間考えて入口で立ち止まっていたら、後ろからヒロが押し入ってきた。
「あっ、突然すみません。テツの友達のヒロって言いますー」
「「「……ともだち?」」」
「テツさん? お友達が居たんですか?」
「あらあら、可愛い顔のお友達じゃなーい?」
「……友達?」
三者三様の反応である。
「あーその……な」
「別の世界の時の友達です!」
「「「別の世界?」」」
「テツさん? どういう事ですか?」
腕を組みながら俺の前に仁王立ちで立ちはだかっているのはアリーである。
「あっ、この子がアリーさん? ん? テツ……別の世界から来たの言ってないの?」
「あぁ。言ってない」
「あらら。そりゃ、ごめん」
「いや、いい機会だから話そう」
テーブルに五人で腰掛け話をすることに。
そして、前世の記憶があり、元は別の世界の人間であること。
このヒロこそが俺が償いたいと思うようになったきっかけとなった人物であることを説明した。
もう殺したくない償いたいと思いつめ、死を決意したことはヒロも知らなかったので驚いていた。
そして、一番は殺し屋だったということ。
これは、一番精神的に話すのが辛かった。
だが、これ以上隠しておく事はできない。
話し終えてしばしの沈黙の後、沈黙を破ったのはアリーであった。
「テツさん、話してくれて有難う御座います。何かを抱えていることは知っていましたが、何を抱えているのかまでは想像しか出来ませんでした。思っていたより壮絶でした」
「すまない」
俺は下を向いたまま話す。
目を合わすのが恐くてずっと下を向いていた。
「テツさん……辛かったですね。この世界に来て…………幸せですか?」
その声にハッとしてアリーの顔を見た。
泣いていた。
なぜ、泣くんだアリー。
何故そんなに優しいのか。
「俺は、この世界に来てから幸せな事ばかりだ。それは、アリーやミリーさん、フルル達のおかげだ」
そう答えると優しい笑顔を浮かべた。
「ふふふっ。それなら、良かったです!」
そう。
その笑顔に癒されているんだ。
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