第42話 プロポーズ?

「それで? ヒロさんは、勇者さんなんですよね?」


「えぇ。テツにコテンパンにやられましたけど」


 ヒロは笑いながら話すが、こっちは冷や汗ものだ。何せそれを言った時に「えぇっ!?」といって、こちらをアリーが怪訝な顔で見るのだ。


 ヒロよ、もう少し考えてモノを言って欲しいものだな。それでは俺が悪者ではないか。


「ヒロ、それは語弊がある。俺は今のヒロの強さを分からせるためにあえて本気でやったんだ。そしたら、秒殺だった。それだけの事だろ? そういう事なんだよアリー」


「ふーん。そうなんですね。でも、本気でコテンパンにしちゃったんですか? 大切な親友を?」


 ジロリと疑うような目でこちらを見てくる。

 そんな目で見られると俺もホントに正しかったかは自信がなくなってしまう。


「そ……それがだな。戦士には必要なことなんだよ。自分の現在地を知るということが」


 オロオロしながら俺が弁明していると、ヒロが見兼ねて助け舟を出してくれた。


「アリーさん、テツは優しさで親友の俺に本気で挑んでくれたんです。でないと、ボクも嫌なんです。それをよく分かってくれているんです」


「……男の人ってなんかそういう所ありますよね? 拳で語るんだ。みたいなの。理解できないですけど、お父さんもそうでした」


 ヒロが少し躊躇いながらもアリーに思い切って質問する。

 

「あの、知らなくてすみません。お父さんは?」


「冒険者だったんですけど、亡くなってしまいました。でも、いいんです。お母さんは居ますし、今はフルルちゃんもテツさんもいます! 一つも寂しくないんです!」


「そうですか。テツ。よかったな? 必要としてくれる人がこの世界でもできて」


 肩にポンッと手を置き、笑顔をこちらに向ける。俺の事を前世でもそうやって気を使ってくれたよな。そんな人に俺はひどい仕打ちをした訳だが。

 

「あぁ。前世ではその必要としてくれる人を殺してしまったからな」


「まぁ、それは済んだことだよ。俺も望んでたんだし。それに、都合がいいことに今は生きてる」


「それはそうだが……」


 俺は少し暗い顔をしてしまう。

 それを見兼ねたのはアリーであった。


「テツさん! そういう所、テツさんの良くないとこですよ!? ヒロさんが気にしないでって言ってくれてるんですから、気にし過ぎたらそれこそヒロさんが困るんですよ!?」


「う、うむ」


 アリーに怒られると俺も何も言えない。

 たしかに、言っていることはその通りだ。

 俺が気にしすぎているんだろう。

 たしかに、本人が自分も望んでいたことだったと言っているしな。


「はっはっはっ! いやーテツも形無しだな。アリーさん、今後もテツのことよろしくお願いします。アリーさんになら任せられる」


「ふふふっ。はいっ! テツさんの事は任せてください!」


「あらあら、もう妻になった気でいるの? 気が早いわねぇ」


 アリーが顔を真っ赤にする。

 ミリーさんがからかってそういったのだと思う。俺なんかにアリーは勿体ないだろう。そう思っている。


「アリーさん、いい子だね? 守ってあげないとね?」


「あぁ。アリーとミリーさんは俺が守るよ。命に替えてもな」


「そうじゃないでしょ。ずっと一緒に暮らして守っていかないとだよ?」


 ヒロがお説教モードに入りそうで少し警戒してしまう。

 何かまずいことを言ったか?


「いや、しかしアリーと一生一緒に生活する人となると誰になるか分からないだろう? 俺は陰ながら守るさ」


 何故かアリーがその顔を曇らせた。

 ヒロが顔を強ばらせてこちらを睨みつけている。


「お前なぁ、アリーさんがテツに思いを寄せてくれてるのがなぜ分からない!? そんなんだから誰か寄ってきても離れていくんだぞ!? お前はなぁ、自分を下に見すぎる! それは時に残酷なんだよ! さっきの反応を見ていてわかったよ! アリーさんは、テツと結婚してもいいと思っている! そう思った。違いますか?」


 ヒロは優しくアリーに問い掛ける。


「はいっ! テツさんと結婚したいと思ってます!」


 顔を真っ赤にして下を向きながらも言葉はハッキリと言葉にした。

 俺は驚いて目を見開く。

 

 本当にそんなことを思っていたんだ。

 それでいいのか? アリー?


「テツはここまでやらないと分からないんですよ。すみません。アリーさん」


「いえ……この気持ちは変わりませんから」


 そうハッキリとこちらを向いて宣言した。

 その目にはある種の覚悟が感じられた。


「テツはどうするんだ? こんなにハッキリと気持ちを向けられて?」


「俺は…………俺はアリーとミリーさんを一生かけて守っていきたい。そう思ってる。一緒にいさせて欲しい」


「はいっ! もちろんです!」


 俺が恥ずかしそうに頭を掻きながら言うと、アリーが笑顔で返事を返してくれた。


「あらあら、もうプロポーズ? 早いわねぇ。今日から部屋一緒にする?」


 ミリーさんが全力でからかいに来た。


「もう! お母さん! そういうのはいいの! 今は、テツさんがここに居ていいって思ってくれないと!」


「そうねぇ。まぁ、今さら言うことじゃないと思っていたけど……」


「いいの! もうこれからは居ていいって思ってくれますよね? テツさん?」


「あぁ。そうだな」


 笑顔でそう問われ、思わず俺も笑顔になった。

 ここには俺の居場所があるんだ。

 改めてそう思えることに感謝した。


「あっ、テツ、ボクもここに住んでいい?」


「出ていけ」

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