第78話 心温まる笑顔
女神は大人の女性の方にもクリーム煮を食べさせている。
女性も目に力が宿った。
子供ほどではないがガッツいて食べている。
「慌てなくても、いっぱいありますから」
「はぃ」
「あっ、しかしな、急に食べ過ぎるとお腹を痛めるぞ? 少し時間を置いてから食べてはどうだ? 少し話も聞きたいしな」
俺がそう言うと器を置いた。
少し間を置くと話し出した。
「私とこの子はムルガ王国側の人間でした……アズリー共和国との国境にいたんです……」
アズリー共和国?
アリーに小声で聞く。
「アズリー共和国とはどこの事だ?」
「この国ですよ? もしかして名前知りませんでした?」
アリーが驚いたように言う。
俺は、この国の名前すらまだ知らなかったのだ。
若干呆れられている。
「そこで、街にいた時に攫われたんです。そして、連れ去られた先にはこの子がいました。この子がどこの子なのかは分かりません」
余程酷い扱いをされてきたのだろう。
腕にも足にも傷の跡がかなりある。
なぜこんな扱いをこの子が受けなければならないのだろうか。
この子がそんなにされるような事をしたのか?
奴らに関わった者も許せないな。
「テツさん? 落ち着いてください」
顔がかなり険しくなっていたようだ。
アリーに注意されてしまう。
「あぁ。すまん」
「あのー。お二人はご夫婦ですか?」
「いや、ち────」
「そうです! ほぼ夫婦です!」
俺が否定しようとすると、アリーが間に入って肯定の意志を表明した。
まぁ、たしかにそうだが、まだ正式にはなっていのでいいのやら悪いのやら。
「そうですか。この度は、助けて頂いて本当に有難う御座いました」
深々礼をする。
「いや。なんと言うか、今回はただ単に見かけたから見捨てられなかったと、いった感じだったんだ。だから、自己満足もある。気にしないでくれ」
「そうですよ! 気にしないでください!」
アリーがそう言うのを見ると、奥でウィンが再び器にクリーム煮を入れているところだった。
チラッと子供の方を見ると、ほぼ飲んでいる状態であった。
器に口をつけてズズズッとクリーム煮を啜っている。そんなに飲んだら腹が痛くなりそうだが……。
「ふぅ。お腹いっぱい!」
ご飯を食べて元気が出たようだ。
「あんた達はあたいを殴らないの?」
「俺達が何で殴らなきゃいけねぇんだ?」
ダンが聞き返している。
本当に不思議に思っているんだろう。
良くも悪くも純粋だからな。
「あたい、生意気だって言っていっぱい殴られたから……」
「そうだったんか……辛かったな。もう大丈夫だ。けどよ、帰るとこは分かるか?」
ダンが女の子に聞いている。
首を傾げながら考えている。
「よく分からないけど……ムルなんとかって国のルーイ村にいたんだ」
「ふむ。あの子もムルガ王国の出みたいだな?」
「そうですね。そのまま連れていきましょうか」
アリーがそう提案してくれたのでコクリと頷いた。この女性も連れていこう。
「あの子もムルガ王国の子だったのね。私はおう……王都に居たのよ」
何か言葉に詰まったが、隠し事か?
まぁ、まだ信用できてないんだろうからな。
下手なことを言うべきではないな。
しっかりしてる。
「そういえば、名前は?」
「……フィアよ」
やはり言えない何かがあるようだが。
俺達に不利な事だとは思いたくない。
「そうか。フィアは、戦えるか?」
首をフルフルと振る。
まぁ、そうだろうな。
戦えたら捕まっていないか。
女の子はダンと話していたが、少し質問をする。
「ダン、その子の名前は?」
「あっ、聞いてなかったっす! 名前はなんていうんだ?」
「あたいは、ルリー」
ルリー? アリーと似てるな。
……いや、そんな事があるわけがないか。
自分の中に浮かんできた考えを一旦なくす。
余計なことを考えてはいけない。
この人達を助けたのは俺だ。
責任をもって送り届ける。
じゃないとケジメがつかない。
「そうなのね。私はアリーよ? 名前が似ているわね。仲良くしてね?」
「アリー? ホントだ。名前が似てる。よろしく」
「俺はテツという。必ず送り届けるからな」
俺がそう言うとルリーはアリーの影に隠れた。
どうしたと言うのだ?
何故に隠れる?
「……あの人……ちょっと怖い」
アリーにボソッと言っていた。
うん。聞こえてたけどな。
けど、その事で俺がなにかすることは無いし、送り届けるのは俺の責任だから、それを放置することは無い。
だが、少し俺も落ち込んでしまうぞ?
そう思ったのが顔に出たのだろう。
アリーが気にしている。
「テツさん……」
「いや、気にするな。俺は、怖がられるのは慣れてる」
俺は、前世でも子供に泣かれたことがある。
子供というのは本能でその人が何を生してきたかが分かるんじゃないかと思っている。
その時も子供が落とした玩具を拾ってあげたんじゃなかっただろうか。
だから、拾い上げて渡したら泣いてしまったのだ。
親は「なんで泣くの?」といって笑いながら礼を言って去っていった。
子供とはそういうものなのだろう。
「ルリーちゃん。この人はすごく優しい人よ? そんな思ってるような怖い人じゃないわよ?」
「でも、血の匂いがする……」
やはり子供はすごい。
俺は、鼻が麻痺してると思う。
しかし、アリーとかでも分からないような匂いを嗅ぎ分けるんだからな。大したもんだ。
「ルリー、言ってることは間違ってないぞ。たしかに俺は、人を殺したり、魔物を殺したりしてる。けどな、ルリーを殴ることは無い。それだけは分かってくれ」
俺はルリーに諭すように言う。
少し考えるように宙を見る。
この子なりに何かを考えているのだろう。
「それなら、怖くない!」
ニカッと笑顔で俺に笑いかけてくれた。
子供の笑顔というのは、こんなにも心が温かくなるものだったか。
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