第77話 女神

 切り落としたイルワ商会のボスの頭を持ち上げて血が流れてるのも構わず外に出る。


「おい! 聞け! イルワ商会のボスは俺が殺した! この街のボスは居なくなった! それでも腐ったことを続けようって輩はかかってこい!」


 周辺の店からワラワラとイルワ商会の甘い蜜を吸っていたであろう輩達が出てきた。


「なんだぁ? 訳の分からねぇことを……」


 ボスの頭を差し出す。


「コイツが見えないか?」


「う、嘘だろ……イルワの旦那……」


「腐ったことは終わりだ。じゃなきゃ皆殺しにする」


「ふざけるな!」


 件を振りかぶって斬りかかってくる。

 スッと最小限で避け、首を刈り取る。


「他に文句あるやつは?」


「文句があるやつは殺すというのでは、イルワと、同じではないか!?」


 ここで暮らしていた街の人から避難の声が上がる。それは当然だろう。


「俺は、売られる人を解放したいだけだ。こんな腐ったことは辞めるべきだ。誰かコイツらみたいな奴が来ても屈しない者は!?」


「……」


 みんな自信が無いのだろう。

 それか、イルワと同じように関わってきた奴らか……。


「いるわけがないか……居ればこうはなっていないもんな」


「お、お前達に何が分かる!? 我々は怯えながら過ごしてきたんだ!」


 近くの店から出てきたオジサンがそう訴えてきた。


「そうか……ならばどうにかしようと企てることは出来たはずだ。なぜ、何もせずに甘んじてたんだ?」


「……それは……」


「自分も商売にならなくなるからだろう? 違うか? 盗賊やら商人やらが来た時にあんたの店で金を落としてくれるから結果生活出来ていた。だから、別に打開しようと思わなかったんだろ?」


「こっちだって生活があるんだ!」


「開き直ったか。こんな女子供を売り物にした金で生活して気持ちがいいか?」


 その店の男は衝撃に打ちひしがれていた。

 自分達が貰っていた金がどうやって手に入れた金かは考えてこなかったんだろう。


「他に文句あるやつは?」


「これから俺達はどうすればいいんだ?」


 どこからとも無くそう問いかけてくる。


「さぁな。俺達はこの商会の売り物になってしまった者達を救いに来たんだ。この街のことなど知ったことではない」


 他に文句を言うやつが居ないのを確認すると商会の奥に行き、捕らえられている人達を確認する。


 先程見かけた子供と女性が首輪をした状態で檻に入れられていた。

 檻は鍵がかかっている。


「師匠。この檻の鍵がどこにも見つからなくて……」


「あぁ。おそらく……」


 ダンが鍵を探したが見つからなかったらしい。

 こういう商会の場合は、肌身離さず持っている場合が多い。


 カウンターに最初にいた男のズボンのポケットを探る。

 するとジャラリと鍵が出てきた。


「おぉ! さすが師匠っす!」


 その鍵で檻を開ける。

 すると、中に駆け込んでいくアリー。


「可哀想に……大丈夫ですか?」


 大人の女性も子供も憔悴している。

 子供は女の子のようであった。

 この街には長くは居られないだろう。


 虚ろな目をしてこちらを見ている。

 抵抗も何も出来ないようにいたぶられたのだろう。


 首輪を取りたい。

 鋼鉄製だが……。

 首元だからナイフは使いづらい。


 闇の弾丸を使うか。

 少し首を傾けさせて首を露わにする。

 そして関節部を狙い。


 ドッと関節部がとんでいった。

 カラァーンと首輪が床に落ちる。


 同じく子供の方も首輪をとる。

 何も話さずに俯いている。


「立てますか?」


 アリーが大人の女性に聞きながら立ち上がらせようと引っ張る。

 すると、ヨロヨロと立ち上がった。

 子供の方はフルルが立ち上がらせる。


 二人を連れて商会を出た。

 街の人達がジッとこちらを見つめている。


 俺が先頭に立ち。

 左にダン、右にウィンという布陣。

 ナイフを構えて警戒しながら進む。


 入口にいた門番は睨んでいる。


「お前ら……何したか分かってんのか!?」


 手を伸ばしてくる。

 ザンッと肘から先が無くなる。


「がぁぁぁぁ!」


「お前はさっきもアリーに触ろうとしていたな? そんな汚い手はいらないだろう」


 腕を抑えてもがいているがお構い無しに進む。

 街を出て目的地のムルガ王国に向かうように進む。


 この子達のいた場所が分かればいいんだがな。

 一先ず喋れるようになるところまで回復させなければ。


 街が見えなくなるところまで進むと岩陰に隠れられる場所を見つけた。

 ここで休むことにする。


「ウィン、なにか消化に良さそうな物を作ってくれないか? 肉とかはまだ早いと思うからな」


「はい。クリーム煮にパンを入れますか? ミルクを先に使っほうがいいので」


「そうだな。そうしてくれ」


「はい」


 ダン魔石をウィンに渡す。

 今は魔石をそれぞれが持っておくようにしているんだ。

 万が一無くなったとかなったときにまとめていて紛失した場合困るからだ。


 同じ理由で金もそれぞれで持っている。

 買い物も自由。

 

 暁のパーティーの中ではウィンが金庫番でフルルが買い物の管理していたらしいが、今は俺もいる。自由でいいだろう。


 コトコトと煮立つ音がしてきた。

 いい香りがしてくる。

 女の子と女性は未だに無反応である。


 ウィンが少し器に掬う。

 子供の方に差し出した。


「食べないか?」


 受け取ろうとしない。

 アリーが器を受け取り、スプーンで口に運ぶ。


「口を開けてみて? これ、いい匂いだよ? 食べよう?」


 目を見て優しく語りかけると口を開けた。

 口の中に流し込む。

 コクリと喉が動き、目に少し力が戻った。


「おいし……」


「これ、食べていいよ?」


 そう言うと器をとってがっつき始めた。

 ハフハフと食べている。

 それをにこやかにみているアリー。


 俺には女神のように見えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る