第76話 イルワ商会

「アリー、ダン、ウィン、フルルに話がある」


「さっきの子達のことですか!? 見てたら放っておけないっすよ!」


「自分は、あんな事するやつ、ぶっ潰したい!」


「私……許せない」


「絶対に許せません。子供たちが可哀想です! テツさん!」


 みんな、気持ちをぶつけてくれる。

 俺も同じ気持ちだ。

 同じ気持ちで居てくれてありがとう。


「俺も、同じことを考えていた。あの街をぶっ潰すぞ!」


「「「おぅ!」」」


 素通りするつもりだったが、さっきのような惨状を見ては放ってはおけない。

 ゴロズとか言ったか。

 あの街に巣食う膿を全滅させる。


 実はダンにも気をつけなければいけない癖がある。興奮すると前に出すぎてしまうのだ。

 それに気をつけなければならない。

 今回のような乱戦になりそうな時に前に出ると一気に囲まれるからな。


 ゴロズに向かって慎重に近づいていく。

 俺達は危害を加えないという体で行かなければならない。

 かなり心苦しいが……。


「アリー、フルル。頼みがある」


「はい!」

「?……なに?」


「俺達に捕まってくれ」


「えぇ!?」

「なに……それ?」


◇◆◇


「その女達は売り物か?」


「そうだ。誰に会えばいい?」


「ここを牛耳ってるのはイルワ商会だ。ここを入って真っ直ぐ進めばデカい建物がある。そこにいけば買い取ってもらえる」


「わかった」


 通ろうとするとアリーに手を伸ばしてきた。

 咄嗟にバシッと手を弾いてしまった。


「何しやがる!?」


「お前こそ何をしようとした?」


「商品になっちまったら触れねぇからその前に触ろうとしたんだろうが!?」


 顔を近づけて凄んでくる門番の男。

 ここで問題を起こす訳にも行かない。


「傷ついたらどうする? それで引かれた分の金額を払ってくれるのか?」


「ちっ! わぁったよ! 早く行け!」


 乱暴にシッシッと奥に行くように促された。

 良かった。

 なんとかバレずに入り込めた。


「テツさん。有難う御座います。触られたくなかった」


「あぁ。咄嗟に手が出てしまった。危なかった。とりあえず、さっき聞いたイルワ商会に行くぞ」


 フルルはウィンが拘束している形でアリーは俺が拘束している形にしている。

 ダンは後ろで動けるように控えている。

 すぐカッとなるからな。


 真っ直ぐ通りを進んでいると、たしかに大きい建物が見えてきた。

 イルワ商会と書いてある。


「ここだな」


 扉を開けると、薄暗い部屋にカウンターがある。


「客か? 何もんだ?」


「女を売りに来た」


「ほう…………どちらも上玉だな」


 その男はアリーの顎を触って顔をじっくりと見ている。

 アリーは少し震えていた。


 少しの辛抱だ。

 ボスを誘き出すまで我慢してくれ。


「金額の話はそちらのボスとしたい」


「あぁ? 俺が担当だが?」


「いい女達だろ? ボスに見せれば金を弾んでくれるかもしれないだろ?」


「ふぅむ。仕方ない」


 そう言うと奥に消えていった。

 カウンターの男が連れてきた男は大柄な筋肉隆々の男。

 不機嫌さを隠しもせずに出てきた。


「お前か? 俺に金額の交渉したいってやつは? お前な、身の程をわきまえろよ!?」


「出てきてくれてありがとう」


 指から頭に向けて闇の弾丸を放つ。

 ボッという音と共に穴が空いたのは。

 男の耳だった。


「くそっ! なんだコイツ!? おい! やれ!」


 奥から続々と武器を持った男達が押しかけてきた。


「テツさん!」


 アリーが心配そうにこちらを気にする。

 チラリとそちらをみて手をかざす。


「絶対防御」


 アリーの周りに不可視のバリアが張られる。

 フルルも入るようにかけた。


 両手にナイフを抜く。

 そして、闇を体に纏う。


「お前達は胸糞が悪い。ぶっ潰す」


「俺が相手だ! オラァァァ!」


 ダンが前に出る。

 それをきっかけに乱戦が始まった。

 少し前に出過ぎだが、俺がカバーできる。


 ゆったりとした動きで攻撃を避けて首をはねる。続いて胸にナイフを突き刺し。

 蹴り飛ばしながら抜く。


「ダン、下がれ」


「う、うっす!」


 下がってきたダンを確認すると。

 闇の弾丸を数発宙に浮かせる。


 ドンッとなったかと思ったら目の前の三人が穴だらけで絶命した。

 ゆっくりとその骸の間を通りビビり始めた男達の元へ歩みを進める。


 ナイフをクルッと逆手に持つ。


「おおおぉぉ!」


 ウィンがシールドバッシュをして剣で切り裂いている。

 本当に少しの戦闘で成長したな。

 そちらにも人が向かっている。


 そちらにばかりは行かせられない。

 向かっている一人にナイフを投げる。

 スドッと首に突き刺さり血を吹いて倒れる。


「俺の相手をしてくれよ?」


 男達は震え上がった。

 闇が大きくなる。


「うわぁぁ!」


 ヤケクソになった奴が剣をブンブン振り回して突っ込んできた。

 下から足を払う。

 転んで剣を離した。


 胸に、ナイフを突き刺す。

 ヤケクソになって突っ込んでくる。

 避けては刺し、避けては刺し。


 やがて、敵で立っているのはボスだけになった。


「なっ!? 何がしたい!? 金か!? それとも女か? 沢山居るぞ!? どうだ!?」


「胸糞悪い」


 そう言って歩いて近づく。


「クソガァァァ!」


 拳を振り下ろしてくる。

 スっと避ける。


 すると、ドゴォッと床を破壊した。

 腕がハマったようだ。


 トンッと宙に跳ぶ。

 クルッと回り、遠心力を生かした斬撃は、筋肉に守られていたボスの首をスパッと切り裂いた。


 イルワ商会の最後であった。

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