第75話 ウィンの試練
エールを煽って少し落ち着いた面々は街を早々に出て先に進むことにした。
少し進んだ先の森で野営をする事となった。
「今日はここで野営をしよう。そして、見張りはいつも通りダン、俺、ウィンだ。街からはかなり離れたが油断はできない。気を引き締めろよ」
「「はい!」」
飯は野菜が中心だ。
痛むのが早いから先に食べる。
あまり栄養が偏りすぎても病にかかってしまうから。
食事にも気をつけなければならないのが冒険者だ。普段は肉を食い、たまには野菜を食らう。
これでバランスを取っているのだ。
食事を終えると就寝だ。
ダンが、見張りをして残りは寝る。
寝静まり眠りが深くなった頃。
トントンッと肩を叩かれた。
「交代か?」
「なんか変です」
飛び起きてテントの外に出る。
暗闇の中を見渡すと火の玉のようなものが段々と近づいてくるではないか。
「夜襲だ。騒がずにみんなを起こせ!」
小声で指示を出す。
ダンがそれぞれのテントに行って起こす。
迫っているのは松明を持った人だということが認識できた。
しかし、数が多い。
五十は居るだろう。
一人頭十だが、それも酷だろう。
ナイフを両手に持ち、手を肩の高さまで上げて構える。
闇を身にまとい戦闘準備をする。
「ヒャッハー! いい女みつ────」
そいつは首から血を吹き出して倒れた。
血が吹き出しているが他の奴らはまっすぐこっちへ向かってくる。
まだ遠いうちに数を減らしたい。
「フルル!」
「ウインドストーム!」
天まで届く竜巻。
かなりの太さはあるであろう竜巻が出現した。
野盗を次々に刻んでいく。
「「「うわぁぁぁ」」」
「こんな魔法が使えるやつがいるなんて聞いてねえ!」
「せっかく連合部隊にしたのによぉ!」
野盗がそれぞれ人を出し合っての連合部隊だったようだ。
野盗風情が連合になっても大して変わらないだろうに。
「取り乱すな! 一斉に攻撃だ!」
「俺が前に出る。打ち漏らしは頼んだ!」
「「「はい!」」」
実は心配なのはウィンなのだ。
盾職をやっている理由なのだが。
以前聞いた時に言っていたのは、人を剣で切り裂く感触が嫌だから切りたくないということ。
冒険者としてそれは致命的である。
Bランクに上がるには賊の討伐がある。
これは、パーティーでの討伐だが、全員がしっかりと討伐記録に残っている事が条件なのだ。
ということは、しっかりと命を刈り取る覚悟が必要なのである。
それが欠けている。
今が試練の時であった。
目の前の敵を切り裂くが、コイツが邪魔でその後ろの奴には干渉できない。
抜けられる……。
ダンも応戦してる今は。
「ウィン! お前がフルルとアリーを守れ!」
「……」
ウィンが答えない。
しっかりと盾を構えているが、攻撃をされる一方だ。
盾を引いたり押したりしながら応戦している。
後ろを気にしながらも前の敵を淡々と処理する。
ここは離れられない。
頼りはお前だけだ。
自分の殻を破れ。
「ヤバい! もう一人行った!」
ダンも一人後ろに通してしまったようだ。
二人相手だと一気に厳しくなる。
盾を左右に振りながら応戦する。
盾の裏には剣が仕込まれている。
何時でも使おうと思えば使えるのだが。
段々と下がっていく。
防戦一方になる。
「キャッ!」
アリーに敵が迫る。
行けないのがもどかしい。
しかし、ここを離れたら一気に後ろに敵が。
「うおおおおおおおおっ!」
盾を構えてアリーの前に立ちはだかり。
剣を盾から引き抜いた。
ウィンは体格がよく大盾でも片手で扱えるだけの力を持っている。
その為に、剣を仕込んで攻撃出来るようにしているのだ。
大盾を片手で扱えるほどの力があるということは。
剣を扱えば片手剣なんぞ、持ってないも同然の重さ。
そして成すのは。
常軌を逸した一閃。
「はぁっ!」
男の脳天から下に剣を振り下ろした。
力溢れる斬撃は男を縦に真っ二つにした。
もう一人。
「ウルァァァ!」
駆け寄って攻撃を大盾で弾き飛ばし、横に剣を振るう。
男は真っ二つになった。
「ウィン! よくやった!」
ウィンを称える声を上げる。
すると、気持ちが高揚したのだろう。
「うおぉぉぉぉ! キサマラァァァァ! かかってこいやあぁぁぁ!」
その瞬間、ゾワッと体があわだった。
きっとウィンの殺気だ。
殺気をばら蒔いている。
野党連合は気圧されながらも、攻めてくる。
完全に怖気付いている。
一皮剥けた。
これでペースは完全にこっちのものだ。
さて、ここで俺も殺気を与えてやろう。
「貴様ら! 俺達に手を出したことを後悔しろぉぉおぉ!」
闇を広げて威圧する。
すると、明らかにこちらを攻撃するのに躊躇いが見て取れた。
甘いな。甘すぎる。
次々と首を切り裂き。
あっという間に立っているのは俺達だけになった。
次の街は余程治安が悪いんだろうな。
そんなに悪いところだと思うと。
全滅させたくなってきてしまうな。
街で平和に過ごしたい人達は困っているのだろうな。
しかし、無駄に時間を過ごす訳にもいかないしな。
今回はやはり素通りしよう。
そう決めた。
「あれ? 馬車が檻みたいなの引いてますよ?」
アリーが指した方向を見ると。
子供と大人の女性が鎖に繋がれて次の街へと向かっていく。
神様?
これからも俺の好きに生きていいんですよね?
それなら……最悪の街を……潰す。
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