第32話 後処理
「サナさん、治療をお願いします!」
ギルドに入るなり、大声で叫んだ。
「ジン!? 誰か治癒魔法使える人いる!?」
冒険者に呼び掛ける。
Dランク以下の冒険者達は俺達が突入したあと、待機していたのだ。
「私使えます!」
「俺も!」
何人か手を挙げる。
みんななにかしたいのだ。
すると、後から追いかけてきたていた部隊が帰ってきた。
「おっ? 何手ぇ挙げてんだ?」
それの冒険者達をみた俺は自然と笑顔になる。
「手を挙げてる人は治癒魔法が使えるとのことです! 怪我した人は治癒してもらってください!」
「おっ! そりゃありがてぇ」
ジンさんの所には一番近くにいた人を呼んで治療してもらう。
後から来た冒険者達はそれぞれが治療してもらい、柔らかい空気が包む。
「テツくん達が戻ってきたってことは、鮮血の月は?」
「全滅だ」
「「「「おおおぉぉぉぉ!」」」」
歓声が上がった。
「俺達はやったんだ!」
「見たか! これが俺達の力だ!」
口々に戻ってきたものは勝鬨をあげる。
一方で戻らなかった者もいる。
サナさんも聞きたくはないだろうが。
「犠牲者は?」
俺はビクッとなってしまう。
自分のせいでとやはり思ってしまっていた。
「イテテテ。それは俺が言う」
ジンさんが治療を終えると立ち上がった。
その顔は覚悟の決まった顔をしていた。
罵倒される覚悟か、刺される覚悟かは分からないが。
「今回の作戦で、デング、バルド、アーロンの三人が犠牲になった。俺の力不足だ。申し訳ない」
頭を下げたジンさん。
それと共に泣き崩れる人。
いたたまれない気持ちになる。
俺がブラックホールで一掃すれば、こんなに被害は出なかったんじゃないか?
すぐにあんな奴ら片付けれたんじゃないか。
今言っても仕方が無いが、後悔の念ばかりが押し寄せる。
俺はいつの間にか、かなり険しい顔をしていたようだ。
ジンさんに肩を叩かれる。
「お前が背負い込むことじゃねぇって言っただろ? 今回の作戦は俺の責任だ。俺は間違ってたとは思ってねぇ。現に、街に被害は出なかった。それは、テツ、お前の功績だ。誇っていいんだぞ」
その言葉に救われた気がしたが、やはりどこかで引っかかっている部分があるのだ。
泣き崩れた人の元へ向かうジンさん。
サナさんが横で教えてくれた。
その人はバルドさんの妻とのこと。
話を聞くと最近Cランクに上がったばかりで、出るのを止められたが「俺の街は俺が守る」と言って出ていったそうな。
思わず拳を握りしめる。
俺は、見捨てたも同然だ。
「皆さん! 主人は、皆さんと一緒に戦えて誇らしかったと思います! 自分の街を自分の命をかけて守った主人を私は誇りに思います! 有難うございました!」
バルドさんの妻の言葉に心を打たれた。
なんて強い人なんだと。
冒険者の妻はこういうものかと。
気丈に振る舞う姿が、目に焼き付いた。
デングさんは、独り身だったらしい。
別の町から来た為詳細の情報は無いんだとか。
ギルド共通で追悼の掲示をするので、なにか連絡があるかもしれないと言う。
この街の人ではないのに、命をかけて守ろうとしてくれたんだな。この街が好きだったんだろうな。俺も一緒だからわかる。
アーロンさんは両親がこの街に居るため亡くなったことを伝えてくるという。
ジンさん、自分が先頭に立って戦ったのに辛い事も背負って凄い人だ。
治療を終えると、賊の亡骸の始末と冒険者の遺体を回収することになった。
馬車を出し、賊のいた洞窟まで再び冒険者皆で行く。後始末までが作戦だ。
賊の亡骸は集めて火を放ち燃やす。
そうしないと疫病が発生するからだ。
洞窟の中から運ぶのが大変だった。
三人の冒険者の遺体は馬車に乗せられて布を被せて運ばれていく。
処理し終える頃には辺りは暗くなり、亡骸を燃やす炎がユラユラと揺らめいていた。
街の反対側のカシラ達のの体も回収し、燃やした。
洞窟の中からは盗賊達が今まで盗んできたであろう金銀財宝が出てきた。
一度回収し、ギルドの方から南の国に返すかどうかを聞いてみるそうだ。
帰りの道すがらジンさんに聞いてみたいことを率直に質問してみた。
「ジンさん、ギルドマスターって辛くないですか?」
「はははっ。なんでぇ藪から棒にぃ…………そうだな。まぁ、辛い報告をする時は俺も辛いわ。けどな、冒険者の遺族ってのはな、覚悟が出来てる人が多いんだよ。逆に感謝されたりしてな……つれぇよ。けどな、命かけて何かをなしとげた後ってのはそれまでとは違うんだよ」
星空を見ながら語るジンさんの横顔は誇らしい顔をしていた。
命をかけて何かを成し遂げるというのは、なかなかできることでは無い。
「誇りを胸に胸張って生きれるんだ。俺までと景色が違う。遺族にも貴方の大切な人は、俺達を、この街を守ったって誇ってもらう為にも、生き残った俺達が胸張ってねぇとダメだと俺は思うんだわ」
俺は今まで人を殺めることしかした事がなかった。この作戦で俺は、初めて命の重みを感じた。
人が亡くなったことでこんなに心に傷を負ったのは初めてではないだろうか。
この命の重みを感じるということが、償いになるということだろうか。
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