第31話 鮮血の月のカシラ

 洞窟の中の賊も粗方片付いた。

 やはり、カシラがいない。


「カシラぁいねぇのか?」


「いなかったです。この奥に居るかと思いますが……」


「よしっ! 俺とテツで行く! 後は、残党を片付け次第合流!」


「「おす!」」


 奥への通路を進む。

 結構長い道になっていそうだが。


「ジンさん、こちらの被害は?」


「残念だが、三人やられた」


「くっ!」


 仲間がやられることがこんなに悔しい事だとは今回のことで初めて気付いた事だった。

 この胸から湧き上がる感情はなんとも言えない。


 俺が魔法を行使していればこちらの被害は抑えられたんじゃないのか?

 俺が街を守るために魔力を使っていたから……。


「テツ! 何考えてんのかはわからねぇが、自分を責めるんじゃねぇぞ!? 俺達は命かけてこの戦いに自ら来てる! やられるのも覚悟の上だ!」


 それは分かっているが。

 気持ちの整理がつかないのも事実。

 やられた者達はまだ未来があっただろうに。


「俺としても辛いが。一番弔いになるのは鮮血の月を壊滅させることだ」


「はい」


 ジンさんはギルドを、あの街を、背負ってるんだな。強い人だ。

 俺もしっかりとやらないとな。


 洞窟を進んでいると、外に抜けた。

 外に抜けれるということは逃げられた可能性が高い。まずい。

 外を確認すると街の北側に出た様だ。


「だぁぁ! なんだこの黒い壁は!」


「壊れないっすよ!?」


「モタモタしてると追っ手が来ますよ?」


 街の方が騒がしいのでジンさんと駆ける。

 十人くらいだろうか俺の魔法の壁を叩いていた。


「何してんだお前ら? 自分達だけ逃げて街を襲おうとしたのかぁ? 仲間を見捨ててよぉ。やっぱり賊は気に入らねぇ」


「なにぃ?」


「俺の街には指一本触れさせねぇ」


 ジンさんがそういうと術者がジンさんだと思ったのだろう。

 カシラはジンさんと一対一で戦うことを望んできた。


「コイツは俺がやる。雑魚は頼んだぞ?」


「おす!」


 カシラとジンさんが、衝突する。

 カシラはニヤニヤしながらずっとジンさんの攻撃を捌いている。


  その戦いを横目にこちらはこちらで囲まれていたが、雑魚など、取るに足らない。

 的確に胸を突き、首をかり、次々と倒していく。


 こっちは、あっという間に終わった。

 ジンさんの方の戦いは拮抗していた。


 カシラの猛攻もジンさんが捌き、反撃するがそれも捌かれている。

 実力は拮抗しているようだ。

 賊のカシラとはこんなに強い者なのだと、初めて認識たのだった。


「ハッハァー! 楽しいねぇ! やるねぇ、おっさん!」


「お前もいい歳だろうが! 対してかわらねぇ!」


 お互い浅い切り傷が目立ってきた。

 血が舞う。


「それ!」


 急に離れたかと思うと炎の矢を放ってきた。

 ここに来て魔法か。

 咄嗟に避けると、ジンさんも風の刃を放った。


「ヒュウ。やるねぇ」


 そこからは魔法が飛び交う戦いになった。

 炎の矢や炎の玉が飛んでくるのに対して、こちらは風の矢や風の刃で対抗する。


 拮抗した戦いを動かしたのはカシラの方であった。

 十にも及ぶ炎の矢を展開しジンさんへ放つ。

 その後ろからついて行くように頭も向かっていく。


 ジンさんが魔法で炎の矢を相殺する。

 その選択は悪手だった。


 ズバッと腕を切りつけられる。


「くっ!」


 目眩しに見事に引っかかってしまったようだ。

 腕からは血が流れ出す。

 カシラがトドメを刺そうと剣を振り下ろす。


ギィンッ


 ナイフで剣を止める。

 ギリギリと刃がなっている。


「やらせる訳にはいかない」


 ギィンッと剣を弾き返す。

 こちらを警戒しているのだろう。

 対峙するが喋らず構えている。


 再び炎の矢を複数放ってきた。

 全て避けながらカシラに迫る。


「しっ!」


 ナイフを振り下ろし二撃放つが、軽い身のこなしで避けられる。

 次々とナイフを繰り出すが華麗に避けられてしまう。


 流石はカシラといった所か……だが、まだまだここからだ。


 ナイフでの二撃を加え、反撃の横への切り払いを上体を反らしてそのまま足を上げてムーンサルトキックに移行。

 カシラのアゴを揺らす。


 少しフラつくがまだだ。

 ここまでの強敵は前世でも数えるくらいしか無かった。

 しかし、その度に倒してこれたのは日々の積み重ねのおかげだと思っている。


 暁達に教えた柔軟は本当にここぞという時に動きとして予測できない所からの一撃を放つ事が出来る。


 左のナイフを投げる。

 これは陽動だ。


 カシラがそれを弾いたのを見ると切りかかる。

 それを読んでいたカシラがナイフを防御する。

 ナイフをパッと離し、上体を低くし刀を構える。


 ギリギリで着いた足に力を込めて刀を抜刀する。地面スレスレから上体を上に回転させるというかなり無理な体制での一撃。


 その一撃が、この戦いに終止符を打った。


ズバァァァンッッ


 下からの切り上げの一撃はカシラの体を斜めに切り裂き、真っ二つにした。


「あぁーあ。おれもここまでか」


 最後の言葉を残し、絶命した。


 ジンさんは無事か?

 振り返るとジンさんが腕を止血していた。


「はぁ。おめぇには助けられてばっかりだよ。今回、この魔法の壁がなかったら、街に侵入を許してた。そしたら、大惨事だっただろうよ」


「念の為張ってて良かったです」


「そして、最終的に魔法無しでカシラぁ倒すとは大したもんだ」


「ジンさん、治療に行きましょう」


 ジンさんに肩を貸して魔法を解除し、街に向かうと、追いかけてきた冒険者達が後からやってきた。


「うおぉぉぉ! 倒したんですか!?」


「やったぁぁぁ! 俺達の勝ちだぁぁぁ!」


「すげぇぇぇ! 俺達はやったぞぉぉ!」


 飛び跳ねて喜んでいる。

 こちらも笑顔になってしまう。

 こんなに自然と笑ったのはいつ以来だろうか?


 もしかしたら、一度もなかったかもしれない。


「おい! ジンさんが怪我してる! 急いで戻るぞ!」


「それはヤバい!」


 慌てる冒険者の一人。


「えっ!? テツは!?」


 俺も血を浴びていたので心配してくれたのだろう。心配無用だが。

 

「無傷だ」


「お前何者!?」


 笑い声が響いた。

 

 いい奴らだな。

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