第34話 しばし鍛錬
カコォン
今日も一日は薪割りから始まる。
今日使う量くらいを割るとギルドに向かうことにした。
「ギルドに行ってくる」
出ていこうとしたところでアリーに止められる。何かと思い振り返ると、心配そうな顔をしてこちらを見つめていた。
「また依頼を受けるんですか? 無理しちゃダメですよ?」
「有難う。依頼を受けるわけじゃない。鍛錬してくるんだ。俺は、まだ弱い」
「それなら良かったです! 鍛錬、頑張ってくださいね!」
「あぁ。行ってくる」
「私も……行く」
フルルもついてくるという。
ついでに教えれる事もあるかもしないし、良いかもな。
「じゃあ、行くか」
「「行ってらっしゃい」」
家を出るとダンとウィンも来ていた。
「「おはようございます!」」
「ギルドで鍛錬するけど行くか?」
「「おす!」」
ギルドに着くと、昨日飲んでいたであろうに、もう動き出している人達がいた。
「サナさん、訓練室頼みたいんだが?」
「えーっとねぇ、今全部使ってるのよねぇ」
「使ってる? この前まではガラガラだったのにか?」
なんで全部使われてるんだ?
……もしかして、皆考えることは同じだってことか?
「ふふふっ。考えることは皆同じみたい。昨日のことで自分の力不足を感じた人が沢山いたんだと思うわよ? 一つはジンが使ってるから、そこに行ってみたら? 五番の部屋よ」
「そうか。わかった。行ってみる」
五番の部屋に行くとノックしてみる。
コンコンッ
ノックして開ける。
中の音は防音結界が張ってある為に聞こえないんだそうだ。
中を覗くとジンさんが素振りをしていた。
演舞のようにも見える。
今は声をかけない方がいいだろうと、静かに端で見守る。
しばらく続いた演舞が終わると。
一息ついた。
その時に初めて俺達が居ることに気付いたのだろう。
すごい集中力だった。
「ふぅー。おう。来てたのかテツ。どうした?」
「うっす。実は、鍛錬しようとしたら空いてなくて……サナさんにジンさんとこ一人で使ってるから使わせて貰ったらどうかって言ってもらって……」
「おう。かまわねぇよ。丁度いい、身体あったまったら試合稽古してくれや」
「はい!」
「フルル達は……あっちで……トレーニング……してる」
フルル達は気を使って三人でトレーニングする事にしたらしい。
まぁ、見るだけでも見取り稽古になるからな。
見せるだけでもいいだろう。
「フルル、ダン、ウィン、試合稽古が始まったら見ることに集中するんだ。見て学ぶことも大事だからな」
「「おっす!」」
ダンとウィンは返事をすると端にいく。
フルルはコクリと頷くと端の方に歩いていった。
分かってくれたんだよな?
フルルはちょっと感情が読みにくいところがあるからな。
三人は教えた通り、柔軟から始めるようだ。
さぁ、俺も柔軟から始めるか。
いつもの様に地べたにベターッと両足を開いて上半身もベタッと付けて股割りをする。
これは、毎日の日課である。
物珍しそうな顔でジンさんがみていた。
離れたところで真似をしようとするが、「いててて」といって真似はできなかったようだ。
「テツよ。お前それすげぇな」
「これやると怪我をしにくい上に奇襲をしやすいんですよ」
「はぁ。なるほどな。だからこの前のデタラメな動きができたわけだなぁ」
デタラメだっただろうか?
自分ではよく分からないが、あの時はこうすれば攻撃が入ると思ってやったものだから。
あまりどんな動きをしたか覚えていない。
入念に柔軟をするとナイフを鞘付けたまま持ち、シャドーを始めた。
標的の首を切り裂き、胸を突き、蹴り飛ばす。
攻撃を受け流し、反撃の一撃を放つ。
しゃがみこみ攻撃をかわし、死角からのハイキックを放つ。
イメージした敵を倒すために最低限の動きで躱し、攻撃する。
その動きは洗練されたものであった。
見る人の視線を釘付けにした。
「っ……はぁ……はぁ。ふぅー」
身体が温まってきた。
いい感じにエンジンがかかっている。
ジンさんの方をむくと凄く獰猛な顔をしていた。とても好戦的な、攻撃的な顔をしてこちらに歩み寄ってくる。
「テツ。俺とやり合おうぜ!」
「分かりました。手加減しませんよ」
「クククッ。上等だ! 行ってやらぁ! 行くぞ!」
刃引きした剣で袈裟斬り放ってくる。
これは様子見だろう。
少し後ろに下がり最小限で避ける。
振り下ろしたタイミングを狙ってナイフで胸を突きに行く。
切っ先を正確に剣の根元で受け止められる。
流石だ。読まれていたか。
ナイフごと弾かれる。
だが、その衝撃を上に受け流し、ムーンサルトキックをお見舞する。
「うおっ!」
咄嗟に避けられ、顎を掠めた。
すると、着地点を予測され、剣を突き出してくる。それは、予測できている。
あえて足からの着地をせず、地べたにうつ伏せで着地し、足払いを放つ。
虚をつかれたのだろう。
見事に足にかかり、身体が浮き上がった。
苦し紛れに剣を振ってくるが、無駄だ。
下から剣を蹴りあげて剣を遠くに飛ばす。
そのまま上げた足でジンさんの身体を地面に叩きつけ、ナイフを首にあてる。
「はぁ……はぁ。クソッ! 負けたよ!」
「有難う御座いました」
立ち上がってジンさんにも手を貸して起こす。
「あーーー。強ぇ強ぇ。テツが相手はホントに嫌だね! 自分の弱さを痛感するぜ! 俺も強い自信マンマンだったんだがなぁ。まだまだだな。よしっ! 休憩したらもう一本頼む!」
「はい! 何本でも付き合いますよ」
「余裕だねぇ。ぜってぇ一本獲る!」
そこからは、激しい攻防が続き、何試合もしたのであった。
三人が食い入る様に端で見ていた。
この街の最強が世代交代する瞬間を目撃したことになった。
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