第35話 五層へ
「今日は依頼を受けに行ってくる」
ここ数日は鍛錬に時間を費やしていたが、そろそろ五層に行ってみようと思い、今日行くことを決めたのであった。
アリーは少し心配そうな顔を浮かべた。
「はい。気を付けてくださいね? 五層に行くんですね?」
「……よく分かるな? そうだ」
「お父さんも五層に行ってましたから……」
ガイさんもAランクだったんだもんな。
五層にはよく行ってただろう。
ただ、何処で亡くなったのかまでは、詳しいことは聞いた事がなかったな。
「危ないと感じたら撤退する」
「はい。気を付けて」
アリーの顔はやはりいつもの明るさはなかった。しかし、いつまでも行かない訳にも行かないのだ。
ランクを上げるのは、やはりメインの目的である。それに、Aランクの魔物がどの程度強いのか確認しておきたい気持ちがある。
「あぁ。行ってくる」
「「「行ってらっしゃい」」」
ギルドに行くといつも通りサナさんのところに行く。
「サナさん、Bランクでも受けれる討伐でAランクの魔物の依頼はあるか?」
「えぇ。あるけど、遂に受けるのね?」
「あぁ。一度強さを確認してきたい」
「そう。今は五層の依頼はライガーの髭が欲しいという依頼があるわ。薬に使うらしいわね。姿を写したものがこれよ」
タブレットみたいな物にライガーの姿が描かれたものが写っている。
髭が長い襟巻きがあるホワイトタイガーといった感じの姿であった。
「なるほど。わかった」
「気を付けてね。Sランクには気をつけるのよ?」
「あぁ」
Sランクもいる層ということで、かなり心配されている。
Sランクは段違いに強いんだそうだ。
そう言われると戦ってみたくなってしまうが。
街を出ると東に向かう。
無駄な時間は使いたくないので、走っていくことにした。
颯爽と駆ける。
道すがら察知した敵は接敵しないように避けて通る。
Aランクを相手にする前は無駄なことはしないことにした。
もうすぐ五層だ。
明確な境目は無いはずだが、足を踏み入れた瞬間空気が変わった。
なるほど。この濃密な空気が五層か。
強い気が充満している。
ゴクリッと唾を飲み込み、慎重に移動する。
すぐに目的のライガーが居るとは限らない。
一応以前にジンさんからアドバイスを貰っていた。
ジンさんいわく。
5層の中にもそれぞれ縄張りのようなものがあり、牽制し合いながら生息しているんだとか。
その中でもSランクは中心部を陣取っているらしく滅多に外側には出てこないんだそう。
たまに腹を空かして出てきてはAランクの魔物を食っているんだそうだ。
そのたまたまに出会わなければいいのだが。
そう思いながら進むんでいると。
移動している音がしてきた。
ズズゥンッズズゥンッ
林に身を潜めて観察する。
木漏れ日に現れたのはデカいサイのような魔物。角が異様に大きい。そして、背びれのようなものがついていて恐竜のようにも見える。
地面を震わせながら近くまで来ると、何かを探るように首を左右に振り警戒する素振りを見せている。
ヤバいな。バレるか?
標的ではないがバレたらやるしかない。
ナイフに手をかけ固唾を飲んで様子を見る。
「ブルルッ」
こちらに向かってきている。
バレたか!?
ナイフを────
「ガァァァァ!」
すぐ横から飛び出したのは白いバチバチと電気を纏ったトラのような魔物。
あれがライガーか!
サイのような魔物はあいつに向かって来たのか。
「ガルァァァ!」
「ブォォォ!」
二体が激突する。
ライガーは噛み付くと電気を流す。
バリバリいっているがサイの方も負けじとでかい角を振るう。
すると角から風の刃が飛び出してライガーに傷を負わせている。
ライガーは再び飛びかかり雷撃の付与された爪で攻撃して負傷させる。
すると、サイは少しずつ後退し、戻って行った。ここはライガーの縄張りだったようだ。
「グルルル」
まだサイを威嚇している。
攻撃のパターンは何となくわかった。
やれる。
まだこちらに意識が向いていない今が攻め時か。
バッと林から躍り出る。
ナイフを抜き放ち疾走する。
まだライガーは気付いていない。
まずは、機動力を奪う。
闇を纏う。
最初から全力で行く。
二撃を連続で後ろ足に加える。
深く入ったが、切り飛ばすまでには至らなかった。
「ガルルアァァ」
こちらを向いて威嚇する。
突然の登場で驚いたことだろう。
ビッコを引きながらクルリと回る。
だが、遅い。
攻撃される前にもう一本の後ろ足もいく。
ズバンッと今度は切り飛ばした。
「グルァァァ」
ズズゥンッッ
腹をつけ前足だけ地面に着いた状態でもこちらを睨みつける。
だが、こうなってしまえば後はこちらのもの。
ナイフに纏わせてた闇を伸ばす。
背中から後頭部まで登る。
そして、二本のナイフをハサミのように使い首を切り飛ばした。
ズズゥンッ
身体も地面に沈み絶命する。
頭は持って帰る。
牙とかも使い道があるんだそうだ。
だが、爪もいるらしい。
少しずつ必要なところだけ切り離して持っていくことにした。
魔石はもちろん取り出して売る。
もうこれだけで大荷物だ。
何せ頭は背負い袋に入らないためロープでそのまま背負っている。
後は、そのままにして戻ることにした。
道中どの魔物にも襲われずに森をぬけた。
やはりライガーの頭のインパクトはデカかったようだ。
今回はライガーがサイに気を取られていたことと、負傷していたことで先手が取れた。
次は上手くいくかわからない。
だが、Aランク相手でもやりようがある事がわかった。
それは、大きな収穫だ。
まずは、この戦利品を換金しよう。
アリーに何か買ってあげたいものだ。
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