第45話 組手訓練

「はっ!?」


 いきなり魔物の王の討伐に行けと言われても。

 それとアリーとなんの関係があるのか。


「まぁ、落ち着け。魔物の王の血には魔物の影響を打ち消す力があるらしい。恐らく今のアリーの状態は魔物の影響のせいだ」


「なるほど。魔物の王を倒せばアリーが助かると。けど、血を持ち帰ってきて貰えばいいんじゃないですか? 俺に他にやれる事があるかもしれない」


 俺は、アリーの元を離れたくはなかった。

 ジンさんが顔を険しくした。


「それがな。魔物の王を倒した後は、すぐに隣国の物になる様なんだ。勇者の取得したものも全て回収されるそうだ。ただ、今回事情を説明すれば……」


「血は貰えるかもしれないと」


「そう。テツが言ってお願いしないと行けないだろう。そして、一緒に討伐することが望ましいと思うんだわ」


 アリーから離れるのは本当に嫌だが、アリーが目を覚ます為だと言うならば仕方がない。

 もう一度俺に笑いかけて欲しい。

 このまま寝たきりで死んでいくなんて。

 そんな悲しい事させない。


「わかりました。行きます。すぐにでも行きましょう」


「まぁ、落ち着け。テツだけ強くても意味ねぇだろ? しっかり勇者組を育てねぇとよ」


「はい。キッチリと育て上げます」


「来月には出発出来るんじゃねぇか?」


「はい! それを目標に!」


「あぁ。頼んだぞ!」


「はい!」


 ジンさんもアリーがやられて相当心配したことだろう。何せお父さん代わりとして接しているのだから。


◇◆◇


 三日ぶりの飯を食い体に力が戻ってきた為、訓練所に来ていた。


 中に入ると思苦しい空気が漂っていた。

 俺が入ると皆驚いたように駆け寄ってきた。


「テツ!? アリーさんは目を覚ましたの?」


「いや……すまなかった。三日間正気を失っていたようだ……ジンさんに殴られた」


「ふふふっ。そう。あぁなったテツは殴らないと戻らないからね」


「お前あえて放っておいたのか?」


「ボクが言うより、そばに居る人の方が効くでしょ?」


「たしかにな」


 頭を掻きながら照れくさそうにすると、周りの皆も徐々に笑いだした。


「それで、頼みがある。俺も魔物の王の討伐に加えてくれ。頼む」


 ヒロ達に頭を下げる。

 しばらくすると。


「ボク達としては願ってもない事だからいいんだけど……」


「聖ドルフ国が許すかどうか分かんねぇんだ……あいつら頭がかてぇし」


「なんか神聖な任務ーとか言ってるからねぇー」


「一度交渉してみるしかないんじゃないかしら?」


 中々に隣国の聖ドルフ国というのは難しいお国らしい。

 しかし、魔物の王の討伐に行くならどうせ通る。お願いしてから行ってもあまり変わらないだろう。


「交渉してみるか……」


「テツの目的は魔物の王の血清?」


「そうだ」


「ボク達も血清を持ち帰ってくるように言われているんだ。なんでも、不治の病にも効くそうでね。聖ドルフ国の王女様が不治の病みたいなんだ」


 そうであるならば、話が早いんじゃないだろうか。こちらも不治の病を治すために必要なので取らせて欲しいと言えば、ついて行ってもいいということになりそうだが。


「それなら、頼んでみる価値はありそうだな」


「そうだね」


 そうと決まれば、後は戦う力があればいいということになる。


「一人一人の実力が伸びたか戦ってみるか」


「それがいいね。まず、レイからにしようか」


「分かりましたわ」


 両者構えて。

 攻めてくる様子はない。

 受けに回るようだ。


 ならばと、ジャブを出すと見せかけて前蹴りを放った。

 一瞬手が動いたが咄嗟にしゃがんで躱して足を払いにくる。


 前蹴りから軸足のみでジャンプし宙返りをして着地する。

 仕切り直し。

 次はちゃんとジャブを出す。


 教えた通りに引き倒しに来る。

 倒されるがままに受身を取り、安心して力が抜けたところで、逆に腕を引いてくるりと投げ飛ばした。


 ダンッと背中から着く。


「痛いですわー」


「ちゃんと受け身の練習をしろ。あと、投げた後に油断しては意味が無いぞ? ちゃんとトドメをさせ」


「分かりましたわ」


 次にやってきたのはアケミ。

 一応ちゃんとした構えにはなっている。


 こちらは、攻撃を仕掛けてきた。

 シュッシュとジャブ、ストレート、アッパーのワンツースリーを徐々に近付きながらずっとそれをやっている。


 ジャブが来た時に引き倒そうと腕を掴もうとした。すると、フッと腕が消え脇腹にドスッと蹴りが入る。


「「「おおぉぉ!」」」


 歓声が上がる。


「アケミ、凄いっしょー! やりー!」


「あぁ。やられたな。完全に油断してた」


「バカにしてたっしょー? それが狙いー」


 まさか、全てがフェイントだったとは思わなかった。

 あぁやって、腕を取りに来たところを狙っていたようだ。

 一杯食わされた。


「アケミ凄いじゃない」


「イェーイ」


 ヒロとアケミがハイタッチしている。

 少し悔しい気持ちになってしまった。


 次に出てきたのはショウである。


「師匠! お願いしゃす!」


「もうやらせないぞ」


「おっす! ビルドアップ!」


 自分なりに考えてビルドアップの形を生み出したようだ。


「行きます!」


 ビッと頬の横を拳が掠める。

 危なかった。

 ギリギリ見切れたが、これは速い。


 シッシッと次々に拳を繰り出してくる。

 確実に見切りながら時たま受け流したりして対処する。

 

 ボッと左から蹴りが飛んできた。

 咄嗟に左手でなんとかガードするが、威力がある為フラついてしまう。

 それを見逃さずトドメを刺しにきた。


 その状況判断は素晴らしいがまだやられる訳にはいかない。

 仰け反って拳を避けながらムーンサルトキックで顎を撃ち抜いた。


「グフッ」


 後ろに倒れるショウ。

 着地すると駆け寄る。


「大丈夫か?」


「あぁ。くそっ。いい線いったと思ったんだけど最後に油断した」


「だな。けど、俺も焦った。その速さは武器になるぞ。威力も申し分ない。フラついたのは囮でも何でもなかったからな」


「へへへっ。そうか。よかったぜ」


「あぁ。よくぞここまで仕上げたな」


「苦労したんだ」


 手を取って立ち上がらせ背中をポンポンッと叩いて健闘を称える。


 次に出てきたのはヒロ。

 対峙する。


 シッとジャブが飛んでくる。

 避けながら開脚してハイキック。

 ガキッと両者の足が激突する。


 足を引いた勢いを利用し、回し蹴りを放つ。

 読まれていたようで足を払われる。

 クルッと払われた方向に逆らわずに回り、着地する。


 ダンッと踏み込んでしゃがんでいる所に膝蹴りを放つ。

 腕でガードされ後ろにグルンと回りそのまま蹴りが後ろから襲う。


 こちらも前転して起き上がり回し蹴りを放つが、ヒロも起き上がってそのまま回し蹴りを放ってきていた。

 ガギッとまた両者の蹴りが激突する。


「っつう!」


 ヒロが悲鳴をあげるが、まだまだ行くぞ。


 ジャブを放つ。

 腕を取られて投げられる。

 自らジャンプしてグルンと回り、逆に投げ返す。


「ぐわっ!」


 首筋に寸止めで拳を止めて終わり。


「いててて。行けると思ったんだけどな」


「まだ負けん」


 ガシッと腕をとって立たせる。


「どう?」


「後は、魔物相手にどこまでやれるかだな」


「一先ずはオッケーなんだ?」


「あぁ。ここまでやれればな」


「「「おおぉぉ!」」」


 合格が出たことにそんなに驚くことだろうか。

 油断は大敵だぞ?

 次は実践だ。

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