第44話 魔物の王の影響

「最近魔物が強くなってるっつう話は聞いてるか?」


 この日、ギルドにまた鍛錬に行ったところで、ジンさんから聞かれたのであった。

 勇者組と鍛錬を始めて数日経っていた。


 たしかにここ数日怪我人が結構な数出ているという話を聞いた。

 なんでも、前は同ランクの魔物を難なく倒せていたが、ワンランク上の強さになっていて苦戦してしまうほどだとか。


「最近冒険者の間で噂になっているのを聞きました。なんでも、強さのランクが上がったとか……」


「あぁ、そうらしい。最近外に出てねぇだろう? 少し様子を見てきてくれねぇか?」


「わかりました」


 訓練所にいる皆に少し外に出てくる旨を告げる。

 そして、一応家に告げてから行こうと家によった。すると、アリーが出かけたとミリーさんが言う。


「どこに行ったんです?」


「少し薬味を取りに外に行くって。でも、自警団の人も一緒よ?」


「そうですか。少し様子を見てきます」


 そう返事をすると街の外へ向かって歩く。

 段々と歩くスピードが早くなり、走っていた。


 たしかに自警団の人がいれば大抵の敵は大丈夫だろう。

 けれど、何か胸騒ぎがした。


 出て少し森の方へ行くと薬味用の草を取っているアリーと周りを警戒している自警団の人を見つけた。


 少しホッとしたのもつかの間。

 アリーのいた傍の木の上から蛇のような魔物が飛びついてきたのが目に入った。

 動きがスローになる。


「アリー! 飛べ!」


 そう言っても何を言ってるのかと首を傾げるアリー。咄嗟にナイフを抜き投げる。

 ナイフが蛇を仕留めたのとアリーに噛み付いたのはほぼ同時であった。


「きゃっ!」


 アリーの元へ駆け寄ると右肩を噛まれたようで牙の後が付いている。


「アリーさん!? テツさんどうしました!?」


 自警団の人達が驚いていた。


「アリーが魔物に噛まれました」


 そう告げて直ぐに毒を吸いペッと捨てるように処置をするがアリーの顔は青くなり、傷口も紫になっていく。


 お姫様抱っこで抱えると街に走る。

 自警団の人達も一緒に付いてきた。


 ギルドに行くとサナさんを呼ぶ。


「サナさん! 治療お願いします!」


「えっ!? アリー!?」


「どうした!? 何があった!?」


 サナさんとジンさんが駆け寄ってきて状況を聞かれる。


「魔物に噛まれました」


 俺が悲痛な顔をしていたのだろう。

 二人とも深刻な顔をしている。


「医務室に寝かせて」


 寝かせると回復魔法をかけてくれる冒険者を連れてきて治療する。顔色は少し良くなったが、目を覚まさない。


「なんで目を覚まさないんだ?」


 治療してくれた冒険者に聞くが「分からないです」と言って首を振る。

 もしかして、魔物の力が上がっている影響なのだろうか。


「テツさん……本当にすみません! 俺達が居ながら……」


「あの状況だと仕方ないですよ。それに、魔物が強くなっているのを伝えていませんでしたし……」


 そう。落ち度はこちらにもある。自警団の人達だけを責めることは出来ない。

 何より、アリーのワガママを聞いて外に一緒に出てくれたんだ。

 有難いと思わなければ。


「それに、アリーのワガママに付き合っていただいてありがとうございました! 今日は様子を見ます」


「すみませんでした」


 肩を落として落ち込んだ様子で帰って行った自警団の人達。

 これは仕方がない。そう思うしか無かった。


 鍛錬していた暁組と勇者組も様子を見に来て驚いていた。

 そしてヒロは俺の顔を見て心配そうな顔をしていた。そんなに酷い顔をしていたんであろうか。


 その日はアリーを家に連れていき様子をみることになった。


「ミリーさんすみません。俺が間に合っていれば、こんな事には……」


「テツさん? また悪い所が出てるわよ? 今回はアリーがワガママ言って外に出たんでしょ? 危険は承知の上で出て、それで結果がこうなったんだもの。仕方がないわ。様子を見ましょ?」


 その日から俺はずっと飯も食わずにアリーのそばに居続けた。

 三日が経過した頃。

 ジンさんが尋ねてきた。


「アリーはどうだ?」


「目を覚まさないんです……」


  そういう俺をジンさんは悲しそうな目で見てしばらくすると意を決した顔になった。


「テツ! お前はまず飯を食え! お前が倒れるぞ!?」


「でも、アリーが目を覚ますかもしれません」

 

「いつアリーが目を覚ますかなんか分からねぇ! 現実を見ろ!」


 バシッと平手打ちを左頬にされる。

 なぜ殴られたのか分からなかった。

 頬に手を当てると頬が痩けているのがわかった。


「お前、裏で水浴びて目を覚ませ。話がある」


 フラァと裏に行き水を汲む。

 桶にためた水に映る自分の顔を見て驚いた。

 死にそうな憔悴した顔をしていた。


 俺はアリーがいないと生きていけないんだ。

 それは分かってる。

 アリーをこのままにしておいていいのか。


 バシャアと頭から水を被った。

 頭が体が冷えていく。

 俺は三日も無駄にしてしまった。


 パァンッと顔を叩くと再び水を汲んで顔を洗った。水浴びもして体を綺麗に拭いた。

 家に戻ると心配そうな顔をしたミリーさん。

 少し怒った顔をしたジンさんがいた。

 フルルも心配そうな顔をしている。


「ご心配お掛けしました。目が覚めました。ジンさん。感謝します。それで、話というのは?」


「良かったぜ。お前がしっかりしてくれねぇと困るからよぉ。それで、話はアリーのことについてだ」


 そう聞くと体が強ばってしまう。

 この状況をどうしたらいいか分からない。


「テツ、魔物の王の討伐、お前も行ってこい」


「はっ!?」


 ジンさんの突然の申し出。

 真意とは。

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