第26話 アリーナイトの噂
「すみません。片付いてしまいました」
その惨状を見た冒険者は何が起きたのか理解できなかった。
そして、ゴブリンの村があったのは嘘ではないかと、そう言い出したのだった。
頭を下げてスタスタと街に戻る。
肩を掴まれた。
「おい! ちょっと待て! 俺達はゴブリンの集落があるかもって言うから急いできたんだぞ?」
「もう片付けてしまいました。報酬をお渡しすればいいですか?」
そんなつもりはなかったようだが、俺のその言葉にシメシメと思ったのだろう。
ニヤリとすると、怒鳴り散らした。
「そうだな! それなりに大きな集落かもしれないという話だった! だから、ゴブリンの数をこの人数で一人頭二、三体は倒すことだろう。それにここまでやってきたんだ。俺達に一人頭二十万バル渡しな!」
ダン達は信じられないといった風な目で三人組をみている。
三人で六十万か……赤字にはならないからいいとするか。
「わかった。それでいいなら戻ってから払う。今は現金の持ち合わせがない」
「ケッ! 最後まで着いていくからな! 逃げるんじゃねぇぞ? 逃げたとしても俺達はDランクだ。痛い目見てもらうぞ?」
怒鳴り散らすのを無視して街へ戻ることにした。イライラしながらもあとを着いてくる。
Dランクとはそんなに強いのだろうか?
ちょぅと手合わせしてみたくもなってしまうが。
ダメだ。危害を加えたらアリーになんて言われるか分からない。
大人しく、揉めないように過ごすんだ。
その姿を見ていたダン達は言いなりになる俺を軽蔑するかもな。
まぁ、それならそれまでだ。
仕方がないな。
考えているとアビットが二体襲いかかってきた。左右から。
助けに来た男達は狼狽えている。
「油断してた!」「やべぇって」といってアタフタしている。
両手のナイフを抜くなり真っ二つにする。
ナイフをクルクル回して血糊を払う。
鞘に収めてダン達に指示を出す。
「それ、アリーに今日の夕食にしてもらおう」
「あっ、はい!」
アビットを回収して再び歩く。
男達は首を傾げていた。
「奥さんがいるのか?」「アリーだってよ」と言っているのが聞こえるが、無視して歩く。
街に着くとギルドに入り、サナさんの所へ行った。
「サナさん、現金で六十万バルちょうだい」
「テツくん、そんな大金どうするの!?」
「コイツらがゴブリンの集落の為に出動した手間賃が欲しいんだと」
「はぁ!?」
サナさんのその剣幕に男達は慌てた。
カウンターの前を陣取る。
「いや、お前の言い方がわりいよ! 俺達はゴブリンの集落があるかもって言うから急いで行ったんだよ! そしたら、更地だったんだ。で、もう片付けたとか訳わかんねぇこと言うから、デタラメ言ってんじゃねえよって言ったわけ。そしたら、報酬を出しますか? ときたから、じゃあ貰うかいって話でさぁ」
長々話していたのでグンじいに換金をお願いする。
「お前さん! またBランクの魔石を持ってきたのか!? そんな事では、命が幾つ会っても足らんぞ!?」
横でギョッとした目で見てきたのは長々話してた男達。
「ちょっ!」と慌てた様子で魔石を確認する。
色や大きさが正しくBランクのものであった。
「またおめぇこんなのどこで拾ったんだ?」
怪訝な顔で見てくる。
こちらも言っても信じて貰えないから何も言うつもりは無い。
「なぁ、黙っててやるからアリーちゃんだっけ? 紹介しろよ? 俺達が可愛がってやるからさぁ」
サナさんは頭を抱えている。
なんで頭を抱えてるんです?
男の首元にはナイフが浅く刺さっていた。
「なっ!?」
「アリーに手を出すならお前はここで殺す」
体から闇が吹き出す。
魔力圧により大概の冒険者が倒れてしまった。
当の本人達も泡を吹いて倒れている。
「テツくん! 抑えて!」
声が聞こえたので魔力を抑える。
割りと冷静だった様だ。
「何を言う。ちょっと懲らしめただけだぞ?」
「イヤイヤイヤ! 本気だったね! 今のは!」
「イヤ! 本気では決してない! 怪我をさせるつもりも無かったんだ!」
俺は必死に弁明する。
サナさんはアリーと食事に行くほど仲がいいのだ。今のやりとりが知られたらたまったものでは無い。
「ふーーん」
サナさんの怪訝な態度をしている。俺が脅えていると。ダンが後ろでフルルに問いただしていた。一緒に暮らしているフルルに聞けば脅えている理由がわかると思ったんだろう。
「なぁ? なんでテツさん、あんなに怯えてるんだ?」
「人を……傷付けた……まずい……あと、……村を一人で壊滅させた……のもまずい」
「何でだ?」
「アリーさんが……テツさんを……心配してしまうから……あと、……また人と揉めると……周りに……迷惑がかかる」
「ふーん。テツさん強いからいい気がするけどなぁ。だから、アイツらの言いなりになってたんだ?」
「……そう」
「でもさ、なんかそれってカッコ悪くない?」
「ダン……お子ちゃま……」
「何でだよ!?」
フルルとダンが、なにやら言い合っているが、喧嘩はやめてくれ。俺は余計落ち込んでしまう。
「ねぇ? テツくん?」
「はい?」
「もうランク上げるからさ、偉そうにしてて」
「!? どういう……」
「よぉ! まぁたおもしれぇ事してんのか?」
「ジン! またテツくんが絡まれた! 早くランク上げて!」
何故にジンさんにそれを言うんだ?
「ギルドマスターでしょ!?」
えっ!?
目を見開いて驚く。
衝撃の一言だった。
だから、この前の報告の時はサナさんだけで良かったんだ。ジンさんが居たから。
「はぁ。アリーナイトの為だ。仕方がねぇか」
アリーナイトとはなんだ?
倒れている男共を蹴って起こすジンさん。
ちょっと雑じゃないか?
「おい! 貴様ら!」
めっちゃ偉そうだなジンさん。
ゲジゲジ蹴ってるし。
「はっ! あっ! テメェ! 何してくれてんだコラァ!?」
男が俺に詰め寄る。
刺されたことは忘れているようだ。
それなら、さっきのはナシだな。うん。
ドゴッと横から腹を蹴ったのはジンさんだった。喧嘩キックみたいなのを放った。
「いてぇ! なんだおめぇ!?」
「俺の顔が分からねぇのかぁ!? ギルドマスターだゴラァ!」
「えっ!? マジっすか!? 何ですかいきなり!」
「アリーナイトの噂知ってっか?」
「はい。アリーっていう子をさらったバカ共を皆殺しに……し……た…………って」
ギギギギと言わんばかりにカクカクと首をこっちに回している。
「あれー? さっき……アリーって言いました?」
「あぁ」
「すみませんでしたぁー! おい! お前ら帰るぞバカ野郎! いや、もぉーそう言ってくださいよ。なんでEランクなんですか? 失礼しましたぁー!」
そいつらはそれ以来この街では見なくなった。
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