第92話 侵略の理由

「くっ! 今日は数が多いな!」


 何やら大きな闇の気配が近づいて来た。

 そちらを注視する。


「なにか来るぞ!」


 そう味方に警告する。

 皆は身構えた。

 一人の男がやってきたのだ。


「何やら大勢でご苦労さん」


 皆が騎士のような格好の中、一人だけローブを着ている。ローブということは……。


「そしてさいならぁ。サンダーランス」


 雷で形成された矢がイフト達三人に襲いかかる。一瞬のことで三人は反応できていない。反応できたのは────。


「絶対防御!」


 バリバリバリィと透明な壁が行く手を阻む。

 俺の防御が、何とか間に合ったようだ。


「へぇ。こっちにも固有能力を持ってる奴がいたんかぁ」


 ん?

 固有能力のことを知ってる?

 何者だ?


「ウチにもいるよぉ。空間転移っていう希少な固有能力をもった奴。たまに異世界人にはあるんやってなぁ?」


 異世界の話を知ってる?

 こいつも俺と同じか?


「あいつは今頃王都で楽しくやってるやろうなぁ」


「何? 聖ドルフ国の王都の事か?」


「それ以外にあるんか? 転移してったわ。ワイは徒歩やけどなぁ」


 咄嗟に振り返って向かおうとする。


「おっと行かせんで。サンダーバレット」


 ドドドドッと足元に雷の弾が打ち出される。

 魔法勝負をしたいのだろうな。

 しかし、それにはのらない。


 身体を倒して地面を蹴り飛ばして肉薄する。

 一瞬でローブ男の目の前だ。

 ナイフを叩きつける。


ギィィィンッ


 鈍い金属のぶつかる音。

 目の前で同じようなナイフに受け止められていた。


「退屈はさせんから、逃げんといてや。ワイはなぁ、異世界人よりも強いでぇ!」


 蹴りを放ってくる。

 ナイフで受け止めると距離をとった。

 と思ったら雷の矢を飛ばしてくる。


 こいつ。

 無詠唱もできるのか。

 油断出来ないな。


 駆ける。

 両手を広げ、近づいて縦に回転する。


「車輪」


ギャリギャリギャリ


 耳障りな音をさせながらナイフ同士がぶつかり合う。ガードされてしまったようだ。なかなか一筋縄ではいかない。


 回転している回転力を活かしてそのまま回し蹴りを放っていく。

 腕を狙ったためナイフでは受け止められなかったようだ。


「ぐっ。サンダーランス」


「ダークランス」


  サンダーランスを瞬時に闇魔法で相殺する。魔法は何もお前だけのものでは無い。俺も使えるからな。


「ダークバレット」


「ダークキャノン」

 

 闇魔法を詠唱破棄で放った後に無詠唱の弾丸を指にためる。

 指に黒い弾丸ができる。


「ファイア」


 ドンッと衝撃波を放ちながら弾丸が進む。

 これで終わったなと、後ろを向いて王都に向かおうとする。


「サンダーエレメント」


 その男は身体が雷になった。

 物理的な攻撃は効かないのだろう。

 闇魔法が体を通り抜けていく。


 いや、通り抜けている訳では無い。ダメージを受けないように的確に来る場所に穴を空けて通しているようだ。なんという技術。

 隣の国はこんなに魔法技術が発達しているのか?


 けど、俺は諦めない。

 闇で身を固めながら。

 突進する。


 闇をナイフにも付加し、切り裂く。

 切り裂かれるがすぐに修復される。


 ふむ。

 どうしたものか。

 物体化させると効かないし。


 かといってブラックホールの魔法を使えば周りを巻き込んでしまう。


「そらそら!」


 雷撃や雷の矢が飛んでくる。

 避けながら思考を巡らせる。

 体を動かしながら思考を巡らせるのは、いつからできるようになったんだったか。


 たしか、不器用な俺は上手く出来ずに指導されてばかりだった気がする。誰が教えてくれたんだったか。


「避けるのは訓練していれば身体が勝手に動くやん! だったら、後は頭を回転させるだけやないか!」


 頭に響いた声は何だか懐かしいような言葉使いだ。

 関西弁のような。

 あれ? 今いるこいつは……。


 いや、自分は異世界人じゃないと言っていた。という事は話している内に言葉がうつったのか?だとしても、その人だとは限らない。


「なぁ、その言葉使いは元からのものなのか?」


 直接聞いてみることにした。

 怪訝な顔をする男。

 何を聞きたいのか分からないと言った様子。


「なんでや? こうなってしまったのは最近やけど……」


「そうか」


「何かあんたに関係があるのか?」


「いや、別にない」


 そう言いながらも闇の弾丸を放っていく。

 頭を回転させて。

 次々と弾丸やら矢を放っていく。


 ボッボッと身体に穴は空くがこの攻撃を何時までやっても、意味が無いようだ。

 こんなの無敵じゃないかと。

 そう思ってしまう。


 何かあるはずだ。


「殺し屋って闇に溶け込むんが一番ええよなぁ。その方が気づかれんし、やりたい放題や」


 再びその人が言っていた言葉が思い出される。

 微かに浮かぶ顔。

 そう。溶け込めば……見つかり……に……くい。


 そうだよな。

 闇の真髄は何でも黒に染める侵食。

 俺自身を黒に溶かすんだ。


 身体に纏っていた闇が黒さを増し。

 身体に溶け込んでいく。

 ズズズズッと俺自身を飲み込む。


「なんや? エレメント化できるのはまだうちの国の魔法士だけのはずやのに!?」


「人ってのは、成長するものだろ?」


 人か型の真っ黒が話す。


「うっさいわ! サンダーランス!」


 俺はよけもしない。

 雷の矢が身体にあたるが、そのまま侵食して飲み込む。

 次々放ってくるが、なんてことはない。


「こんなの割に合わん! こんな話聞いてないで! あんなクソ王子の命令なんて聞いてられるか!」


「どんな命令だったんだ?」


「聖ドルフ国の王女を連れて来いって言われたんや! けど、ワイは命をかけるつもりは無い!」


「ならどうする?」


「撤退や! お前達帰るぞ!」


 兵士達は混乱しながら自分の国へと戻って行った。

 王都に居るやつを止めなければ。

 あっちにはヒロがいるから大丈夫だと思うが。


「イフト達は休んでろ! 俺は王都に向かう!」


「わかった! 少し休んだら後を追うぜ!」


 イフト達、紅蓮の炎に見送られながら俺は王都へと急いだ。

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