第21話 暁の過去

「今日の訓練はここまでにしよう」


「「「有難う御座いました!」」」


 剣術教室が終わったようで、挨拶をして皆帰路に着く。

 この村には定期的に剣術や魔法を教えてくれる先生冒険者が来て技術を教えてくれていた。


 本日は剣術の日であったため、ダンとウィンは切磋琢磨して訓練に励んでいた。

 夕方になり夕食時だ。

 それぞれを家からはいい匂いが漂っている。


 そんな中帰路に着いていたダンとウィンに話しかける者がいた。


「お疲れー! 今日剣術の日だもんね!」


「あぁ! 日々強くなってるって実感できるってすげぇ良いよな!」


「自分も強くなってるっすよ! 見てて欲しいっす!」


「うん! 今度訓練見に行くね!」


 この明るい子がフルルである。

 今と大分雰囲気が違う。

 別人かと疑うほどだ。


「うっす! 楽しみにしてるっす!」


「俺の事も見てくれよ!?」


「分かった分かった! 見てあげるから頑張ってね!」


 暁の三人組生まれてから一緒に育ってきた幼馴染であった。

 ダンとウィンはどちらもフルルが好きでライバル視していた。


 衝突する日も少なくなかったが、剣術訓練も適度にライバルとして実力を伸ばし合いながら訓練してきた。

 この村では剣術訓練を受けている村人の中ではダンとウィンが一番の腕前だった。


「ただいま!」


「おかえり! どうせ汚いんでしょ? 着替えてきな!」


 ダンは裏に行くと井戸から水を汲みその中に脱いだ服を入れる。

 そして踏みながら洗うのだ。

 汚れが落ちたら絞って干す。


 ダンの母親の着替えて来なというのはここまでする意味らしい。

 凄く深い意味なんだ。


「ご飯できてるから盛って食べな」


 自ら席を立ち皿に夕食を盛りバクバク食べ始める。食べ盛りの十五歳だ。


 食べ終える頃、外が騒がしかった。


カァンカァンカァンカァン


「母ちゃんこれって!?」


「あんたはここに居な!」


 家を出て外を確認しに行く母親。

 胸の中は不安でいっぱいになっている。

 こんな鐘が鳴ることなんて今まで無かった。


 しかし、教えとしては金が鳴ったら村の緊急事態だと言われていた。

 まさに今、村は緊急事態を迎えているんだ。


 徐ろに剣を手に取る。

 訓練用に刃引きされているが鈍器としては使える。剣の腕には自信があった。ウィンと並んでこの村一番と言われていたから。


 でも、それは訓練を受けている子供の中での話。魔物が相手となれば話は全然違うのだ。子供が太刀打ちできるほど甘くはない。


 バタンッと入ってきた母親親は腕から血を流していた。


「母ちゃん!?」


「あんたはウィンとフルル連れて村の外に逃げな! 振り返るんじゃないよ!?」


「大丈夫!?」


「あんたに心配されるほど落ちぶれちゃいないよ。」


 奥に行くとショートソードを手にする。


「それ、父ちゃんの……」


 俺の父ちゃんはしがない冒険者でずっと別の街に出稼ぎに行っている。いい依頼がそこにしかないんだとか。

 現実は甘くないと自分でも実感していた。

 父ちゃんは冒険者としては強くない。

 もちろん、母ちゃんは冒険者でさえない。


 母ちゃんは剣を手に取り玄関に行く。

 手が震えていた。


「ダン。あんたは、生きるんだ。いいね?」


 その言葉を残して出ていった。

 外に出るとゴブリンが村を襲っていた。

 男達が懸命に戦っているが冒険者でもない者達が戦ってもたかが知れている。


 ゴブリンはDランクだ。初心者では倒すのがなかなか難しい魔物である。

 そして、ゴブリンは人型なだけあって少し知恵が回るのだ。知恵が回る魔物というのは恐ろしい。


 遠くに、村の女を人質にとって男を切りつけている光景を見てしまった。


 助けに行こうとするが足が震える。

 そして、母の言葉が頭に浮かぶ。

『あんたは生きるんだ。いいね?』

 その思いを無駄にする訳にはいかない。


 村の裏へ向かって逃げる。

 途中ウィンとフルルにあった。

 フルルは何叫んでいたが無理矢理連れていった。


 一緒に逃げている人がいてふっと見ると、剣術を教えてくれていた冒険者であった。

 ゴブリンの数を見て勝てないと思い逃げ出したのだ。


 その姿を見た時、心にモヤモヤしたものが浮かんできた。

 冒険者なのになぜ逃げるんだ?

 冒険者は強いんじゃないのか?

 村の人達は戦って死んでいってるのに。


 こんなのおかしい。

 こんな冒険者には俺はならない!

 絶対に人を助けることのできる冒険者になる!


 それは、俺の中にずっと存在する気持ちだった。けど、才能があった訳ではなく。


 村から離れた街でウィンとフルルと冒険者になり、少しずつ強くなっていった。


 フルルはあの襲撃いらい、話すのが片言で、以前の明るいフルルは見る影もない。

 俺達は自分達の理想の冒険者を目指して頑張っていたんだ。


 ジンさんは少し前から色々と気にしてくれて、必要なことや注意すること、沢山教えてくれたんだ。とても感謝している。


 そして、今日同じゴブリンに攫われた女性がいた。一緒に行ったジンさんとテツさんは撤退した方がいいと言った。

 俺には、その選択は出来なかった。

 その選択はあの時の最低な冒険者と、同じだから。


 そしたら、二人だけでゴブリンの村を落としてきた。凄い。冒険者ってこんなに強いんだ。

 教えられたことがある。

 自分のわがままを通すなら強くならないといけないんだということ。


 俺達の理想の冒険者がこの二人だった。

 あの時にこの二人が居てくれたら村は無事だったのではないだろうか。


 そんな事を今考えてもしょうがないな。

 俺達はこの人達について行こう。

 そう決めた。

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