第20話 ギルドに報告

「サナさん! 医務室使いたい」


 ギルドに入るなり大声でお願いするとカウンターの奥から慌ててやってきた。


「な、なに!? どういう状況!?」


「この人、救出してきた」


「えぇ!?」


「早く医務室」


「あぁ! はいはぁい!」


 医務室へ小走りで行く。


「今先生呼んでくる!」


 ギルドの近くに町医者がいるので、その先生を呼びに行ったのだろう。

 ベッドに寝かせておく。


「あの……お金ってかかるんですかね?」


 人間、冷静になると随分と現実的になるもんだな。急にお金の話か。命を落とすかどうかっていう修羅場だったと思うんだが。


「救った責任がある。かかるなら俺が出す」


「えっ!?……そういう意味で言った訳じゃ……」


「いや、気にするな」


 しばらく待っていると先生を連れてサナさんが駆け込んできた。


「連れてきたよ!?」


「有難う」


 先生はベッドの前に椅子を持っていき、座ると腕やら足やらお腹やら痛いところを確認しながら診察している。


 あっ。そういえば俺の着替え着せたままだったな。まぁ、いいか。また報酬貰えるだろうし、また買い物に行こう。

 この前のアリー救出を見られたからマーニさんに絡まれるだろうがな。


「サナさん、この診察の費用がかかるなら俺の口座から引いておいてくれ」


「かかる訳ないじゃない。救出したのに費用を要求してたら助けなくなる冒険者も出てくるわ。助けたいと思わせないとね」


「そうか。ならいいが」


 不思議そうな顔をするサナさん。

 一体どうしたのか?


「なんか意外ね?」


「何がだ?」


「アリー以外はどうでもいいのかと思っていたわ」


 いや、間違ってはいない。

 俺は見捨てようとしていたからな。


「間違ってないぞ。助けたいと言ったのは暁の子達だからな」


「何があったの?」


 まぁ、疑問に思うだろうな。

 ただゴブリンを狩りに行っただけで、こんなボロボロの女性を救助して来たのだから。 


「それは、皆から話を聞いた方がいいんじゃないか? ジンさんが説明するって言っていたぞ?」


 めんどくせぇって言ってたけど、ジンさんの見解も交えて話を聞いた方がいいと思うからな。


「そう。じゃあ、会議室に行きましょ」


 医務室を出てホールにいたジンさんと暁三人組を呼ぶ。

 会議室に入るとサナさんが報告を聞くようだ。

 真正面にサナさんが座り、囲むように俺達が座る。


「じゃあ、報告だな。俺達はゴブリンを狩りに行った。最初は問題なかったんだが、南回りで隣国近くの深い所まで行ったんだが、ゴブリンの村があった」


 ガタッとサナさんが立ち上がる。

 焦った表情をしている。


「早く討伐隊をそし────」


「サナさん、落ち着いて」


 俺は落ち着くように言う。

 気持ちは分かる。

 普通はそういう対応になるだろうから。


「でも!」


「サナ! 落ち着け! 村は落とした!」


 目を見開いて固まっている。

 瞼をパチパチさせてポスッと椅子に座った。


「落とした?」


 呆然と言葉を紡ぐ。

 信じられないといった感じの表情だ。


「そうだ。俺と」


 おれの方を指さす。


「テツで」


「二人で?」


 今度は怒りを顔に浮かべている。

 喜怒哀楽の激しい人だ。


「そうだ」


「無謀過ぎよ!?」


 バンッと机を叩いてこちらを怒鳴る。

 まぁ、気持ちは分かるな。

 俺達だって撤退しようとしてたしな。


「俺達が悪いんです!」


 暁のリーダーのダンが机に手をついて頭を下げながら謝罪する。


「すみませんでした!」


「どういうことが説明して!」


「あの人を助けたかったんです! 攫われた女性が中に連れていかれるのを見ちゃったんです! 救わなきゃ俺達は冒険者になった意味が無いと思いました!」


 総合的に考えて判断は良くなかった。

 本来は撤退して討伐隊を組織して討伐するべきだったんだ。

 今回は上手くいったからよかったが。


 サナさんがジンさんとこちらを見る。


「俺達はもちろん、撤退すると指示したぞ?」


「だが、暁の熱い気持ちに負けた。だから二人で対処した。二人なら行けると思ったんだ」


 ジンさんと俺は暁を援護する発言をする。

 サナさんは顔を歪める。


「という事は、幸いにもゴブリンだけだったという事ね」


「それも報告しようと思ってたんだが、ゴブリンキングがいた」


「えっ!? 二人だけで狩ったの!?」


 驚愕の表情をしているが、ここから更に驚くことになる。


「いや……テツが一人でやった」


「はあぁ!?」


 目をこれ以上開かないというくらい目一杯開けて驚いている。口も半開き。

 いつもキリッとしてるサナさんもこんな呆けた顔をすることがあるんだな。


「ゴブリンキングはBランク推奨だし、パーティでの話よ? ソロではジンだって厳しいわよね!?」


「そうだな。厳しい戦いにはなるな。勝てるかどうかは五分五分だ。それをテツは、無傷」


 ジンさんも少し呆れ気味に話す。

 いやいや、そんなに呆れた感じで話さないでもらいたいんだが。

 今回、上手く立ち回れたと思うんだがな。

 魔法の使い方も何となく分かったし。


「ホントに、呆れる。今回は上手くいったから良かったものの、運が良かっただけだと思うわ。今後そのような状況になったら即座に報告して討伐隊を結成するわ。無謀に突っ込まないように! いい!? 特に暁三人組!」


「「「はい!」」」


 この子達ホントに分かってるかな?

 また同じ場面に遭遇したら突っ込みそうだが。


 心配そうにジンさんが暁の三人組を見つめていた。

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