第19話 ゴブリンの村落とし
「じゃあ、ここで待ってろよ!?」
「「「はい!」」」
ジンさんが暁の三人組に釘を刺す。
そして、二人で身をかがめて進む。
音がほぼしない。
やっぱり普段はあれだけど、ジンさんの実力は本物だ。一流の戦士の動きをしている。
徐々に近付いて行く。
見張りがいる。
ジンさんに指を二本立てて見張りにを指す。
コクリと頷いた。
流石ジンさん。俺の言いたいことを理解してくれたようだ。
俺は外側から攫われた人がいる所を探す。
どれも藁か何かでできている。
似たような作りの家が並んでいる。
判別のつけようがない。
音から探る。
五感を研ぎ澄ませる。
「やめてぇー!」
悲鳴で、位置が特定できた。
ジンさんを見るとコチラの様子を伺っている。
進む様に手を振って伝える。
ジンさんが動き出した。
俺も動くぞ。
魔力器官から魔力を出力して体に纏わせる。
闇が体を包む。次に移動する場所をイメージする。トプンッと闇に沈む。
そして、イメージした場所の闇から出てきた。
前に使った時と使い方は違うようだ。
今の俺はこっちの方がイメージしやすい。
「グゲゲッ!」
入口の方が騒がしい。
ジンさんが上手くやってくれたようだ。
「グゲッ?」
藁の家から出てきたのは二回り大きなゴブリンであった。
コイツがゴブリンキングか?
中を確認するとほぼ服を剥がされた女性。
体を丸めて震えている。
戻ってくるゴブリンキングに脅えているのだろう。来たらされる事が想像できるからなお恐ろしいのだろうな。
Gみたいな繁殖力があるというゴブリン。
虫唾が走る。
後ろからザシュッと首に切り付ける。
赤い線が走る。
「浅い!」
思わず声が出てしまった。
最早気付かれたので関係ないが。
「グギィィ!」
大きな体を怒らせてコチラを振り返る。
いきなり切りつけたから怒ったようだ。
「グギャー!」
大きく振り上げた拳を振り下ろしてくる。
スライディングで懐に潜り込む。
ズシュッと胸に突き刺すが、刃が入っていかない。
一旦離脱する。
なるほど。
人間とは全然違う。
こんなに密度の高い筋肉など人間では無理だろう。
ナイフでは無理か。
ナイフを鞘に入れ、刀を腰だめに構える。
「ふぅ」
集中力を高める。
「グギャギャー!」
両手を組んで潰しにかかってきた。
集中力が高まった今、動きがスローモーションで見える。
「ふっっ!」
合わせた拳を振り下ろす前に、居合を放つ。
手応えはあった。
振り返ると、片腕が飛んでいるが首は避けたようだ。
「グゲゲゲゲェ!」
怒り狂っているようで家に立てかけてあった大きな棍棒を手に取った。
ドスンッドスンッ
棍棒で地面をぶん殴っている。
「ほぉ。武器を持って強くなった気になったか?」
たしかに今のままでは勝てないのかもしれない。それだけ圧倒的に身体的能力が高い。
しかし、この世界には魔法がある。
俺の闇で全てを飲み込む。
体に闇を纏う。
刀も体の一部だ。
そうイメージすることで刀も闇を纏った。
再び居合の構えをして迎え撃つ。
左足半歩出して右足を下げて腰を低くする。
頭を低くし、時を待つ。
地面を叩いて怒りを顕にし、威嚇している。
静かになったと思うと。
「グゲゲェーー!」
ドスドスと駆けてきた。
その勢いのまま巨大な棍棒を振り下ろしてくる。
「はぁぁぁぁぁぁぁ……ふっ!」
ゴブリンキングに闇の一閃が走る。
「グゲッ?」
振り返ろうとした瞬間。
ズルリと体がズレる。
そのまま上下に別れた。
魔石を回収し、女性の元へ向かう。
念の為持ってきていた着替えを渡して着替えてもらおう。
動けないと言うのでお姫様抱っこで外に出る。
「おう。ゴブリンキングを、まさか一人で討伐しちまうなんてな」
「後は片付きました?」
「あぁ、テツが一人で気張ってんだ。ゴブリン如き、一人でどうにかすらぁ」
言葉は汚いが、いつもこちらを気遣ってくれている。ジンさんはそういう所で好かれてるんだろうな。
ジンさんにお願いして村に火を放ってもらう。
こんなの残しておいたら再利用されかねない。
燃え広がったあたりで女性を抱えながら村から出る。
暁の三人組の所までたどり着くと歓声が上がる。
「ジンさんもテツさんもやっぱすげぇ!」
「冒険者はそうでなくちゃっすよね!」
「さすが……強い」
今回は俺達が居たから助けることができたが、自分達だけの時はちゃんと撤退するように言いつけないとな。
「その人が助け出した人ですか?」
「あぁ。腰が抜けちゃったみたいでな」
抱き抱えている女性を見ると顔を真っ赤にしている。
「あ、あのっ! 自分で歩けます!」
そう言うので下ろしてみる。
「キャッ!」
よく見ると足首を捻挫しているようだ。
右左に捻ると「イタッ」と言って顔を歪める。
これでは歩けないな。
もう一度抱えると歩き出した。
「とりあえず街に行こう」
「だな。色々と報告しねぇとなぁ。めんどくせぇ」
頭を掻きながら面倒くさそうにため息をついている。
ジンさんそういう細かい報告とか苦手そうだ。
けど、嫌々でもやるから凄い。
「そういえば、いつ攫われたんですか? もしかしてギルドに捜索依頼出てたりするんじゃないですか?」
「私は、今日の早朝、薬草をとっていたら襲われまして……」
「で、たまたま俺達が来たと。それは、まだ捜索依頼出てないかな? まぁ、どっちでもいいか」
「良かぁねぇ。ちゃんと説明して報酬は貰うようにしねぇと」
ジンさんはやはりこういう時にしっかりしてる。俺なんて面倒臭いからついでに救っただけだし、報酬はいらないと思っていた。
そんな話をしていたら、もう街についていた。
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