第22話 弟子入り

 会議室で報告が終わったあと、少し話をしようということになった。


「俺は暁が危ういと思っている」


 俺がそう告げると怪訝な顔をする暁の三人組。

 なんでそんなこと言われなきゃいけないのかといった少し反抗的な態度に見える。


 ジンさんが優しく諭すように言う。


「ダン、ウィン、フルル……今まで聞いたことがなかったがお前達に、昔何があった? あのゴブリンに対する執着は異常だぞ?」


 そこから三人の過去が語られた。

 ゴブリンに対する執着。そして、冒険者のあり方に固執する姿勢も納得がいった。


 三人が話終えるとしばらく沈黙する。

 そこまでの過去をこの子達が背負っているとは、想像もできなかった。

 それくらいこの子達は力強く生きているから。


「今は……宿で暮らしてるのか?」


「はい。三人で一部屋で生活してます。それでも生活がギリギリで」


 そこで、ジンさんが口を挟んできた。


「なに!? それだとフルルが居ずらいだろう? 色々とお前達の年頃だとあるだろう?」


「でも、俺達は生きていかなきゃいけないから、そんな事言ってられないんですよ」


 俺は、少なからず衝撃を受けていた。

 親を亡くしてこんなに強く生きれることができるんだな。

 

 俺は物心着いた頃から組織の人間の言いなりだった。親の記憶があるのとないのとでこんなに生き方が変わるものなのだな。


 俺は、殺しばかりして来た。

 この子達の親ではないが親を殺していたということが多々あった事だろう。

 物心着く前の子供の親も居たかもしれない。


 心が暗くなっていく。


「だから、強くなりたいんです! お願いです! 今日、俺は理想の冒険者を見つけました! テツさん、ジンさん、俺達を弟子にしてください! 雑用でも何でもします! 戦う術を教えてください! お願いします!」


 ダンが頭を下げる。

 すると、ウィンも頭を下げた。


「俺も強くなりたいっす! 今日悔しかったっす! 自分の実力が足らないことが嫌でしょうがなかったっす! 強くなりたいっす!」


 フルルも、頭を下げた。

 机に水滴がポタポタと落ちる。


「私は……もうあんな思いをするのは嫌……少しでも強くなりたい……お願いします」


 こんな俺を必要としてくれるのか?

 こんな殺す事しかしたことがない俺を?


 これがこの世界での償いになるのかもしれない。俺がこの子達を育てることで世界を救う事にもなるかもしれない。

 

 何より、この子達の為に強くしてやりたい。

 殺す事しか知らなかった俺が生きる術を教えれるかは分からない。

 俺が教えれることは教えよう。


「……俺に教えられることがあるならば、教えよう」


「有難う御座います!」


「しかし、知っておいて欲しいことがある」


「はい?」


 ダンが目をパチパチさせながら聞き返してきた。


「俺は、これまで人を殺す仕事をしていたんだ。何人もの親を殺してきた事だろう。そんな罪深い男なんだ俺は……そんな俺に教えを受けられるか?」


 俺のこんな話を聞きたくはなかっただろう。

 これは俺のわがままだ。

 俺の過去も知っておいて欲しいというエゴ。


 気付くと俺も下を向いていたことに気づいた。

 顔を上げるとジンさんは納得した顔をダン達は覚悟した顔をしていた。


「俺が言えたことじゃないですが、過去は過去です! 今日、テツさんは俺達の希望を聞いて、ゴブリン村に女性を助けるために、一人でゴブリンキングに立ち向かってくれました! それが、今です!」


 ダンの、真っ直ぐな言葉が俺の胸を貫いていく。一呼吸置いて再び口を開いた。


「どうか、俺達を弟子にしてください! 生きる術を! 戦い方を! 教えて欲しいです!」


 三人で頭を下げる。

 ウィンもフルルも同じ考えだということなのだろう。

 俺は、この世界の人達に助けられてばかりだ。


 真っ直ぐな気持ちで俺の暗い心を照らしてくれる。俺の中での暁はこの子達なのかもしれない。

 この子達の暁も今なのかもしれない。


 今までどうにか自分達でやってきたんだろうな。でも、どこかで色々と限界を迎えていたのだろう。

 今回、ジンさんが声をかけなければこの子達は潰れていたかもしれない。


「うむ。俺に出来ることはしよう」


 今まで黙っていたジンさんが口を開いた。


「暁の過去は衝撃だったが、テツの過去は聞いて納得した。そりゃそんな目にならぁな!」


 そんなことを言われても困るが。


「俺もお前達に自分の培ってきたノウハウを教えてやる。覚悟しておけ」


「「「はい!」」」


 正式に弟子になったが、そうなると気になることが一つある。


「フルル、アリーの家に俺の部屋がある。そこに住まないか? アリーからは俺が許可をとる。男二人と同じ部屋だと何かと不便だろう?」


「なっ!? 俺とウィンは何もしないですよ!?」


「そうかもしれないが。着替えとかどうしてるんだ?」


 フルルに問いかける。


「二人が……後ろを向いて……着替える」


「ダンはたまに振り返って怒られてるっすよね?」


「なっ!? お前! 今言わなくてもいいだろ!?」


 あぁ。それが青春というものだろうか。

 若いうちのそんなにときめく様な場面は俺にはなかった。これから……あるか?


「……変態」


 フルルが睨みつけている。


「それが原因でバラバラになったりしたら嫌だろ?」


 ダンに向けて問いかける。


 前世の時に男女でチームを組んでいた奴らがそういうギクシャクした関係になり、チームが上手く機能せず。結果、全滅したんだ。


「それは……嫌です」


「そうだろ? アリーに話つけるが、フルルも荷物を持って来てくれ。ダンとウィンは今日はゆっくり休め。明日から訓練は開始するぞ」


「「「はい!」」」


 これから師匠としての生活が始まる。


 が、まずはアリーの説得だ。

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