第29話 鮮血の月との衝突

「それじゃあ、行ってくる」


「気をつけて。無事に帰ってきて下さいね」


「あぁ。もちろんだ」


 俺とアリーのやり取りを聞いてミリーさんがニヤニヤしている。


「何よ! お母さん!」


「いえいえ、何だが新婚夫婦みたいだと思ったのよ。邪魔してごめんなさいね?」


「なっ!?」


 顔が真っ赤になるアリー。

 最近わかったのだが、この赤くなるのは怒っているのではなく、恥ずかしくて赤くなっているのだそうだ。


 フルルに聞いたら教えてくれたのであった。

 それまでは怒っているものだと思ってビクビクしたものだった。恥ずかしがってると思えば可愛く見えてくる。


「それじゃあ」


「「「行ってらっしゃい!」」」


 フルルは今回の討伐隊には入れないので家で警護を兼ねて残る。

 最近、フルルは俺との訓練をしている中で柔術が覚醒しつつある。


 もうそこらのDランクには素手でも負けないだろう。そこに魔法が加わるからフルルは恐いのだ。風のイメージを俺が伝えるとそのまま魔法になる。


 新たな魔法がかなり生み出されていた。

 そういう俺も自分の中での闇のイメージを広げる為にフルルにイメージを聞いたりしており、種類を広げている所だ。


 ギルド前は人集りができていた。


「おう! 来たか! 待ってたぜ? お前がいねぇと始まらねぇからな」


 ジンさんが声をかけてきた。

 そう。ジンさんも出陣するんだそうな。

 奇襲を仕掛けるから余剰戦力を置いておかなくてもいいと言う考えなんだとか。


 だから、ジンさんに護衛を頼むのを目論んでいたのだが、それは失敗に終わった。

 フルルに頑張ってもらうしかない。

 まぁ、賊を街に入れる気は一ミリも無いが。


「よしっ! 行くぞお前らぁー!」


 ジンさんが先陣を切って進む。

 街中なのでまだ抜剣していないが、いつでも抜けるように構えている。


 そして、集まった人数は三十二人。

 半分より多いから上々だろう。

 この人数で五百を相手にしようっていうのだから、冒険者とは杞憂な者だな。


 俺もこの街を守りたい杞憂な者の一人だからな。嫌いじゃないがな。そういう戦士達。


 街を出たところで矢が飛んできてジンさんが切り落とす。


「おい! 賊が先にこっちに襲撃に来てるぞ!」


「探ってるのがバレたか!」


 冒険者達が狼狽える。

 そこで、ジンさんが喝を飛ばした。


「狼狽えるんじゃねぇ! どうせ皆殺ししなきゃいけねぇんだ! 来てくれてありがてぇじゃねぇか! 腹くくれよぉ!」


「「「おぉ!」」」


 冒険者達がひとつになった。

 こちらを振り返って怒鳴る。


「テツ! ケツはお前に任せる! 一人足りとも通すな!?」


「任せろ」


 体から闇が吹き出す。

 街をドーム状に覆っていく。


 ダークウォールってとこか。

 これで街の中に賊は入らない。

 けど、魔法の維持に魔力を使う。

 戦闘では魔力を使えない。


 上等だ。

 こんな修羅場何度も乗り越えてきた。

 今の俺には守りたいものがある。

 今の俺は、強いぞ?


 盗賊達はこの時、街の前に鬼を見たそうだ。


「うらぁぁぁ!」


「殺れぇぇぇ!」


 冒険者達と鮮血の月が激突する。

 賊は先遣部隊なのだろう。

 冒険者の方が強さは勝っていた。


 また人を殺めてしまう。

 しかし、意味無く殺していたあの時とは違う。

 俺は、守りたい人が、守りたい街ができたんだ。


 それを邪魔しようとしたお前達が悪い。

 邪魔する奴は排除する。


 一人が冒険者の包囲網を抜けてきた。

 剣を振りかぶってくる。

 鞘から抜くとナイフを投げた。


 ストッと胸に刺さる。

 倒れ込んだ男からナイフを抜き。

 血を払う。


 両手を開き通さないという意思表示をする。

 二人抜けてきたが、一瞬ですれ違いざまに首をはねた。


「ここにいる奴らは始末した! 被害は!?」


「二人腕を負傷!」


「下がらせろ!」


 怪我をした二人が被りを振った。

 拒否の念を表した。


「嫌です! まだ行けます!」


「怪我人は足でまといだ! 置いていくぞ!」


「「「おす!」」」


 ジンさんの判断は的確だ。

 怪我人は足でまといになる。


 怪我人の肩をポンッポンッと皆が叩きながら行く。俺はこんなにいいチームにあった事がなかった。この街のチームはいいチームだ。


 俺も肩に手を置き、声をかけた。


「守りを頼む」


「くっ! すまねぇ! ここで守る!」


「頼んだぞ!」


 二人の意思を継いでいく。


 前世では殆どの任務が一人での任務であった。

 チームでの任務であっても皆がライバル。

 怪我をしたら見捨てるのは当たり前。


 そんな環境で過ごしてきた俺としてはこの光景はとても眩しく感じた。

 そして、俺も混じりたいと思ったから先程の行動になったんだろう。


 自分の胸にも何やら熱いものが湧いてくる。

 この熱いものは何なのだろうか。

 今まではなかった感情だ。


 だから、思った以上に熱い言葉が出てしまったかもしれない。


「心は一つだ! 絶対、街を守るぞ!」


「「おぉ!」」


 拳を握りしめ、突き合って健闘を称える。


 先陣の後を追う。

 この森を抜けた先の洞窟に陣取っている様なのだ。まだ、先遣部隊が壊滅したことは知らない。


 情報通りのところに着くと洞窟の前は人が溢れていた。

 火を炊き酒盛りをしてどんちゃん騒ぎ。


 コイツら……なめてるな。

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