第28話 盗賊の噂

 ある朝四人で食卓を囲んでいるとミリーさんから物騒な話が出た。


「ねぇ、テツさん、そういえば隣の奥さんに聞いたんだけど、この近くに盗賊団が拠点を移したって聞いたけど。何か聞いてる? 恐いわねぇ」


「あぁ。昨日話してたな」


◇◆◇


「大変だ! 盗賊団が近くまで来てるって!」


 ギルドに駆け込んできた冒険者が騒いでいた。

 盗賊団か。穏やかじゃないな。


「それぁ、本当か? どこから来た賊か分かるか?」


「南の方から来たみたいですけど……」


「南か……そいつぁ、ヤベぇかもな」


 ジンさんの顔が曇っている。

 何がそんなに問題なのか。

 賊がそんなに強いとは思えない。


「そんなにヤバいんですか?」


 冒険者の男がジンさんに聞いている。


「南の盗賊っていやぁ鮮血の月っつう盗賊がはばを聞かせてたはずだ。なんでこっちに移ってきたのかがわからねぇ。ちょっと情報を集めるか」


 ジンさんはいそいそと奥に消えて行った。


◇◆◇


「ってことがあった」


「恐いわねぇ」


 ミリーさんが体を震わせている。

 アリーが背中をさすり「大丈夫だよ。テツさんがいるもん」と言っている。

 そこまで信頼されているのは、素直に嬉しかった。


 絶対アリーとミリーさんには危害が加わらない様にすると誓う。

 少しでも触れたら触れた者はこの世には居ないだろう。


「テツさんは、かり出されると思う。気をつけてね」


「あぁ。その間は自警団だな」


「ううん」


 急に首を振った。

 どうして、拒否したのだろうか。


「私達だけを守ってもしょうがないですよ。自警団の人達は街を守るんです。こうなった以上、私達だけが自警団に警護してもらう訳にもいかないですよ」


 アリーの言っていることが正しいのは分かっている。分かってはいるが、俺はそれだと安心できない。


「そうか。わかった」


 密かにジンさんに警護しててもらおう。

 どうせあの人は残ってるだろうからお願いしておこう。


「テツさん?」


「ん? なんだ?」


「今、何か別の案を考えましたね?」


「な、なんの事だ?」


「人に迷惑かけちゃダメですからね?」


 なぜ俺が人に頼むとわかったのだ。

 そんなに分かりやすいのか?


「あ、あぁ。大丈夫だ」


 ジィッとジト目でアリーに見られるが平静を装う。うむ。本当にバレないように遂行せねば。


「じゃあ、情報が集まったかギルドに聞きに行ってみるかな」


 食器を片付けて家を出る。


「「行ってらっしゃい」」


 フルルもついてきた。

 フルルも今の生活を楽しんでいるようで、もう俺を含めた三人を家族のように思っているようなのだ。

 過去に村をゴブリンに襲われている記憶がある為に盗賊の問題も放ってはおけないのだろう。


「テツさん……動く?」


「ん? 俺が討伐に出るのかって事か? そうだなぁ。この街に危害が加わるかもしれない場合は……全滅……させないとな」


 頭が冷えていく。

 体から僅かに闇が吹き出す。

 すぐに収めたが、フルルには見られたようだ。


「テツさん……出れば……安心」


「そうか? まぁ、どうなるかはジンさん次第だな」


 ギルドに行くと騒がしかった。

 人が走り回っている。


「サナさん、この慌ただしいのはまさか」


「そうよ。昨日知らされた盗賊に関しての情報が集まってきているのよ。もうすぐジンから発表があるわ」


 少しすると奥からジンさんが出てきた。

 かなり険しい顔をしている。

 ホールが見渡せる位置に立つ。


 冒険者達が固唾を飲んで見守る。

 かなり、厳しい状況のようだ。


「みんなが気になってると思うが、昨日もたらされた盗賊の情報だ! 盗賊は鮮血の月という凶悪な盗賊団だ。殺人、強盗、強姦、人身売買なんでもやる盗賊団だ。そんなヤツらは南の国にいたんだ。だが、食いつくしたらしい」


 そこでザワついた。

 一国を落としたも同然ということか?


 前世でも相当やばい窃盗団を壊滅させたことがあったが、それ以上にやばいだろうか。

 あの時は、マシンガンの嵐とランチャーを相手にナイフで挑んだんだったか。

 こっちは弾切れだったんだよな。


「そんなヤツらがなぜここに拠点を!?」


「詳しいことはわからねぇが、この街を拠点に勇者のいる隣国を狙うつもりじゃねぇかなと思ってんだよなぁ。隣国は勇者の影響もあり発展してる。財力も申し分ない」


 たしかに、隣国をターゲットにするならこの街は拠点には最適だろう。

 だが、それは無理だな。

 この街にはアリーがいる。

 傷つけようとするやつは許さない。


「問題はあっちの戦力だが、かなり大きい。規模はおそらく五百。小国の兵力に相当する! 対してこの街にいる戦力は二百! しかし、今回はCランク以上で事にあたる! そうなると戦力は五十だ! こちらは少数精鋭であたる!」


「マジかよ!? そんなの勝てっこねぇよ!」


「俺はこの街を出る」


「私も北に行こうっと」


 冒険者はどこに居ようが自由だ。

 別にこの街の為に命をかけることも無いだろう。

 そういう奴らは放っておけばいい。


 この街に害をなすとなれば、俺が全力を持って排除しよう。


 またブワッと体から闇が吹き出すが、すぐに抑えた。

 だが、ジンさんには見られてしまったようで。


「まぁ、戦う意思がある奴らで討伐隊を組む。動くなら早い方がいい。今夜仕掛けるぞ!」

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