第6話 服屋で買い物

「まずは、服屋ですね!」


 ルンルンで店の中に入っていくアリー。

 女の子にとって服屋さんでの買い物は楽しいものなのだ。

 恐らく、俺の服を選びながらも自分の服も見たりするのだろうな。


「これなんていいんじゃないですか? 今の服より身体にフィットして動きやすいと思いますよ?」


 今来ているものより確かにいいもののようだ。

 何やら鉄の糸が仕込まれてるのではないか?

 こんないいもの金がかかるに違いないが。


「アリー、嬉しいが、こんなにいい物だからな。かなりいい値だと思うぞ?」


「いいんです! お父さんと同じ冒険者にテツさんがなるなら、無事に帰ってきてくれるように少しでも安全なものを身につけて欲しいんです!」


 アリーの熱意に胸を打たれる。

 そんなにも俺の事を?

 俺の事というより、父親と同じ冒険者になる人に死なれては目覚めが悪いということかもな。


「でも、俺なんかにいいのか?」


「はい! 一緒に暮らすんですから! 遠慮しないでください!」


「まぁまぁ、アリー、この人と暮らすのかい? お父さんはさぞ喜ぶだろうねぇ」


 声が大きくて聞かれていたのだろう。

 奥から服屋の奥さんが出てきて会話に入ってきた。

 アリーは顔を真っ赤にして慌てた。


「ちょっと! そんなんじゃなくて、行くとこがないって言うし、助けて貰ったお礼にと思ってだから……マーナさんの言ってる意味は違う意味でしょ!?」


「それはそうよ! でも、良いじゃない? 逃がさないようにするのよ? いい男だし!」


「ちょっと! マーニさんはあっち行っててよぉ!」


 シッシッと追い払うようにマーニさんを撤退させる。

 アリーの選んでくれたこの服は戦闘用にはもうし分ない。

 ただ、普段着に着れるものも欲しい。


「なぁ、こっちのも二着いいか?」


 一番安い上下セットを指さす。

 これなら、汚れても破れてもいいし、すぐに稼いで返せるだろう。

 その考えが読まれていたのか。、


「なんか、遠慮してません!? いいって言ったのに! お父さん、A級冒険者だったんですよ? だから、こう言ってはなんですけど、財産はあるんです!」


「アリー、あまりそういう事は大きな声で言わない方がいいぞ? 誰が聞いてるか分からないからな。用心に越したことはない」


 すぐにシュンとした顔になり下を向く。

 心無しか耳としっぽか垂れ下がったようなそんな印象さえ受ける。


「まぁ、俺が一緒に住む。牽制にはなるだろう」


「ふふふっ! そうですよね! 頼りにしてますよ!」


 子供のような無邪気な笑顔で俺の心を揺さぶってくる。

 こんなに可愛らしい笑顔をされたら、俺はもう離れられないかもしれないな。

 アリーのいない生活なんて考えられ無くなりそうだ。

 まだ一日目なんだが。


「あぁ。じゃあ、これも買ってもらえるか? 資産家さん?」


 俺の下着だ。

 これもないと困る。


「はい! 任せなさい!」


 マーニさんの所へ持っていき、会計は冒険者カードのような物で会計をしている。

 父親の物だろうか。

 電子マネーのような感じになってるようだが。


 大きな袋に入れてもらい抱えて持つ。

 紙袋のようなものはないようで、粗袋にズボッと入れて持っていく感じのようだ。

 これがこの世界の買い物か。


「あとなんか欲しいのありますか?」


 何か欲しいかと聞かれると武器が欲しいんだが、武器となると俺も妥協はできない気がしている。

 果たして気に入る武器があるかどうか。


「あるにはあるが……」


「まぁた、お金気にしてるんですか?」


「それもある。今度は妥協できないかもしれん」


 真剣な表情を浮かべてアリーを見つめる。

 アリーも真剣な表情で見つめてくる。


「武器……ですか?」


「わかるのか?」


「お父さんも武器と防具は妥協できない。と昔言ってました」


 Aランク冒険者とは戦いに身を置く最前線の戦士のようなものだろう。

 やはり、一流の戦士は武器と防具に妥協はしないのだ。

 

 自分の納得したものしか装備しない。

 そうでなければ、自分の命の方が危うい。

 戦場はそんな紙一重の世界だ。


「いいですよ。出世払いで」


 ニカッと笑いながらこちらを見つめてくる。

 そんな目で見られたら、期待に応えるしかないな。

 アリーの目は、俺が必ず高ランクの冒険者になることを信じている。

 そういう目をしていた。


「すまないな。では、武器屋に」


「はい!」


 武器屋に向けて横並びで歩く。


「そういえば、テツさんは丸腰でしたけど、普段は何を武器に使うんですか?」


 何も持ってないで森の中にいたのだ。

 それは気になることであろう。

 この世界で森の中で丸腰というのは自殺することを意味するのだから。


「俺は、良く使うのはナイフだ。剣というのは使ったことがないからな。あとは、刀だな」


「カタナですか? あれって扱いが難しいんですよね?」


 ニュアンスが少し違う。

 イントネーションが違うようだが、ある事にはあるのか? 刀?


「刀あるのか?」


「カタナは、隣国の勇者様から広がったと言われています。作るのがとても、難しいらしくてとっても高いんです。その割にすぐ折れるとか」


 あれは扱いがかなりシビアなものだからな。

 素人が使えばすぐに曲がったり折れたりする。

 この世界の剣とかは叩ききる感じだろう。

 刀は引き切る感じだから扱い方が全然違う。


「あぁ。おれは、扱えるが、今はナイフで十分だ」


「カタナでもいいですよ?」


「いや、そこまでは甘える訳には行かない。これは譲れないんだ。刀はこだわったらキリがないからな」


「そうですか」


 少し拗ねたようだ。

 そのうちコロッと機嫌が直るだろう。


「ここですよ。武器屋です!」


 またルンルンと入っていく。


 女性とは中々に起伏の激しい生き物なのだな。

 中々に難しい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る