第89話 結末
「アジトの場所は王都のど真ん中。廃屋でした」
目を見開いて驚くガイさん。
王都の中にあったなんて俺も驚いたからな。
「そんな隠れられる所があったのか?」
「はい。小屋の裏に通じる道がありました。裏側にアジトがあるのでしょう」
ガイさんの問いに俺も苦笑いで答える。
そんなど真ん中にあったなんて盲点だったようで、大地の剣でも調べていなかったそうだ。
調べていたのは辺境とか周りの街を調べていたと。
俺に任せっきりも良くないと言うことで別で動いてくれていたそうな。
「どうします? 直ぐに突入しますか?」
「いや、まだバレてない。なら、明日の深夜に突入にしよう。それまでに人を集める」
「分かりました」
ガイさんの兄とご対面である。
一体どんな悪党なのか。
◇◆◇
「準備はいいか!?」
「「「おぉす!」」」
深夜に大地の剣のほとんどと俺、アリー、暁、騎士団が集まっていた。
ルリーと姫様は残りの大地の剣の面々とお留守番である。
「まず、班ごとに散らばる。そして、取り囲むように範囲をせばめていき、真ん中を封鎖して突入だ。いいか?」
「「「おぉす!」」」
「行くぞ!」
王都の外れにある小屋からゾロゾロと出ていくが、固まらずにバラバラに王都に入っていく。
周りから徐々に範囲を狭めていき真ん中に迫っていく。
まだ、気づかれた様子はない。
囲ってみてわかった。
ど真ん中を囲うように建物がみんな外側を向いて囲んでいるのだ。
住んでいる人は気にしないだろう。
何処が出口になっているか分からない。
少人数が突入する組として、残りは逃げてくる奴らがいたら始末する手筈となっている。
「テツ、頼む」
コクリとうなづくと小屋の中へと入る。
あの男達がしていたように本を引き抜く。
すると、奥にドアノブのようなものがある。
それを捻ると。
悲鳴のような音をさせながら本棚が手前に動き、中の薄暗闇の通路が現れた。
「俺が先に入ります」
ガイさんを見るとコクリと頷いた。
闇を纏わせて刃の厚いナイフを両手に持ち前に構える。
そのままゆっくりと歩いていく。
少し歩くと明るい通路に出た。
部屋がいくつかあるみたいだ。
手前の扉を静かに開ける。
ベッドがあり寝ている。
手を縛りあげて拘束する。
順番に拘束していけば大丈夫そうだ。
と考えたのが甘かった。
拘束した男が暴れだした。
壁やベット、棚にゴンゴン当たるものだから音が響いてしまった。
やむを得なく動けなくしたが。
「なぁんだぁ? うるせぇな!」
部屋から「なんだ?」と人が出てきてしまったのだ。
「てき────」
その男の首は体から離れた。
バレたら仕方ない。
始末していくしかない。
部屋から出てくる人の胸を突き、首をはね、静かに処理しようとするが。
「敵襲だァァァァァ!」
声をあげられてしまった。
奥からワラワラと人が出てくる。
こうなったら総力戦だ。
俺は、前に出て片っ端から切り伏せていく。
時には壁に押付け。
時には投げ飛ばし。
味方が危ないと分かるとナイフを投げて援護する。切りかかろうとしている者には瞬時に駆けつけては切り裂いた。
通路は死体で埋め尽くされ、奥に部屋がある。
扉を開けるとガイさんと瓜二つの男が椅子に深く座っていた。
そいつは余裕そうに手を挙げて挨拶してきた。
「よう! よく見つけたな。いやー。見つかんないようにしてたのになぁ」
「お前が俺の兄だな? 何故この国を貶めようとする?」
「俺はな、引き取られた親に売られたんだよ! なんで俺だけ売られてお前は売られなかったんだ!? まぁ、いい。だからだ。買われた人の思惑がこの国を落とすことだったからだ。ただ、それだけ」
何も難しいことは無いと言うように、その男は淡々と語った。
「この国も一枚岩じゃねぇ。それだけの事」
「なにぃ!?」
シーダが驚きを声を上げる。
まさか身内に?
そう思っているのだろう。
憤った顔をしている。
前にいる男は何処吹く風。
「それに、子供を育てるのに忙しくて、俺を見つけるのが遅くなっただろう?」
村にどこからとも無く置かれた子供。
話を聞く限り育てるのに困った人が捨てて行ったのだろうとばかり思っていた。
はぁ。本当にクズ野郎だな。
「ちょうど俺が孕ませた子が生まれちまってよぉ。どうせなら有効活用しようと思ったわけ」
ガイさんは手をプルプルと震わせている。
このゲスの子を一生懸命育てていたことに対する憤りだろうか。
それとも、子をそんな扱いにした怒りか。
ガイさんが考えるのは後者だろうな。
「貴様ァァァァ! 子供をなんだと思っているぅぅ!」
ガイさんの体から赤いオーラが迸る。
熱気が来る。
「俺はなぁ。見つかったら終わりだと思ってた。だから、抵抗したりしねぇ。捕まっても反逆罪で死刑だ。いっそ殺せ」
自分の都合のいいように進めようとしていて腹が立つ。
しかし、言っていることは間違ってない。
たしかに捕まっても死ぬ運命だろう。
「お前と言うやつはァァァ!」
怒っているガイさんをアリーは静かな目で見ている。
どういう選択でも任せる気でいるんだろう。
顔面を一発殴った。
椅子から転げ落ちるが抵抗する気は無いようだ。
「お前は罪を償うべきだ。刑が執行されるまでの少しの間反省しろ」
見下ろしていたガイさんはそう告げる。
クルッと背を向けた瞬間。
その男はどこからとも無く出したナイフで自分の首を切り裂いたのだった。
「なっ!?」
俺がおもわず声を出すとガイさんも、振り返りボーゼンとしている。
自分で幕を引いたということか。
好き勝手にやりやがって。
「…………を…………む」
何か呟いて倒れ、息を引き取った。
「クソッ!」
ガイさんは机をダンッと強く叩く。
「なんて言ったんですか?」
「ルリーを頼むとそう言ったんだ………………調べて発覚した事だがこの男が街に姿を現したのは一度だけ。そして、関係を持ったと思われる女性の家付近で目撃されている。それがルリーが捨てられる一週間前だ」
ガイさんは涙を堪えながら話した。
そういう事だったのか。
最初から───。
「────奴は、ちょうどこの国にやってきた俺に、最初から子供を託す気だったんじゃないだろうか」
「一度だけ街に来たのは……」
「あぁ。子供の顔を見るためだろう」
「でも何で……」
「何となくわかる。奴の状況では子供が悪いことに使われる。組織の中では育てたくなかったのかもしれないな。名前を知っていたということは定期的に監視していたのかもな」
「俺達は掌の上で転がされたということですか」
「そうだな……」
ガイさんの兄を止めるための作戦だったが、何とも悲しい終わりを迎えてしまったのだった。
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