第52話 魔王山へ出立

「では! 出陣じゃ!」


 騎士団長と十人の精鋭が一緒に行くことになった。騎士団長達は本来は馬で移動するのだが、俺達が徒歩なので、今回は徒歩での移動となる。


 別にいいと言ったのだが、騎士団長が勇者様達が徒歩なのに自分達が馬では申し訳ないと言って聞かなかった。


 着いてくるのはいいのだが、俺達は軽装備だから足取りは軽やかだ。

 だが、騎士たちは鎧を来ているため動き辛い上に重い為すぐバテるのではと心配になる。


「テツ。思ってることは分かるけど、今言っても聞かないと思うよ?」


 俺は、顔に出やすいタイプなのだろうか。

 顔に出てないつもりなのに思ったことを読まれることが多い。

 戦士としてはまだまだ未熟である。


 攻撃する場所なども悟られたりしたら目も当てられない。

 そうならないようにいつもポーカーフェイスのつもりでいる。


「あぁ。言うつもりは無い」


「うん。まずは、魔王山の麓まで行くんだけど、結構な距離があるらしいんだ」


「そうなのか? どのくらいかかる?」


「それが……」


「そんなに長いのか?」


「早くて一ヶ月」


 そんなにかかるのか。

 飯とかどうするつもりなんだ?


「ご飯とかは行くまでの街とかで買い溜めして行くみたい」


 また顔に出ていたか。


「なぁ、ヒロよぉ? 魔物出たら俺が戦って良いんだよなぁ?」


 でたな戦闘狂。

 ショウはホントに我慢というものを知らない。

 ワガママなガキと一緒だ。


「そんなこと言わずに騎士団長にも花を持たせてあげたらいかがかしら?」


「はいっ! そうするっす!」


 分かりやすいやつである。

 その分手懐けやすいということでもあるのだろうが。

 レイの言う事はなんでも聞く。


 極端に言うと、レイに言ってもらえばショウは何でもするのだ。

 そのくらいレイに従順になっている。


 騎士団長達が先頭になって進んでいく。

 雑魚は倒してくれるということで負担を減らすために着いてきてくれているんだとか。

 負担が増えなきゃいいがと思うが。

 それは、言わないであげた方がいいだろう。


 今はまだ街道を進んでいる。

 周りに森が広がっているが、街道は少し歩きやすいように整備されている道である。

 魔物が出ることはないことは無い。


 現に、横からマノシシの気配がする。

 騎士団は気付いていない。


「左から何か来るぞ!」


 俺が言うとようやく気付いたらしい。

 ハッとした顔で構える。

 訓練をしたように陣形を組んでいるんだろう。


 逆三角形のような形で迎え撃つようだ。

 一人が正面から盾で迎え撃つ。


「おぉ!」


 ズンッと盾で受け止めて少しさがりながら突進してきた威力を殺していく。

 そこに周りから剣を突き刺して仕留める。


 うむ。危なげないな。

 よく訓練されている騎士のようだ。

 少数精鋭も頷ける。


「どう? 結構ちゃんとしてるでしょ?」


 ヒロが小声で話しかけてきた。

 俺が心配していたのを分かっていたのだろう。

 心配ないよと言いたいのか。


「あぁ。チームとしてしっかり機能している。安心して任せられるな」


「うん。けど、群れとかが来て、乱戦になるとちょっと分からないけどね」


 仕留めたマノシシを解体しようとしているが上手くいかないようだ。


「俺がやろう」


 マノシシは何度も解体しているからお手の物だ。見本として一回見せておけばいいだろう。


「すまない。テツ殿」


「いえ。見た方が覚えられます。他の方達もその方が良いでしょう」


 ジッと俺が捌いてるのを見ている。

 魔石を取り出すと、歓声が上がった。


「おぉ。そこにあるのか。知らなかったな」


「俺達が実践で戦ったあとは置いて帰ったからな」


「そうやって裂いていけばいいのか」


 口々に捌き方やマノシシについての話をしている。少しいい息抜きになったんじゃないだろうか。

 俺が見てた感じだとかなり身体に力が入っている人達が多かったように思う。


「血抜きはこうです。逆さにして血を抜いておくと後で臭みがなく食べられます。そして、内臓も綺麗に取り、土に埋めます。マノシシの内臓はマズイです。後は、部位に分けます」


「ほほぉ」

「上手いもんだな」

「手馴れてるなぁ」


 見ていた騎士は感心してくれているようだ。

 こういうのは慣れだと思う。

 俺は前世で山篭りをしてた時に身につけたからな。


 まさか、異世界でその経験が役に立つとは夢にも思ってなかった訳だが。

 魔物もほぼ動物と構造が似ているのは意外だった。もう少し訳の分からないつくりをしているのかと思ったから。


「これは、慣れだと思います」


「その歳で相当狩りをしてきたんだな……」


「そうですね。結構一人で狩って捌いて売ってました」


「苦労したんだな。君は……」


 何だか涙ぐみながら肩を叩かれる。

 そんな風に思わせてしまったか。

 アリーに拾われて幸せだったからそこまで辛い思いはしてないんだけどな。


「終わったな? じゃあ、行くぞ! もう少ししたら野営地を探そう!」


 騎士団長が先頭で意気揚々と歩いていく。

 なんか張り切ってる?


「さっきの話聞いて団長、張り切っちゃったみたいだよ? なんでも、大切な女の人を助けるために一緒に討伐に行くんだろ?」


「はぁ。そうですが」


「健気な上にそんなに苦労してきたんだと思ったらいたたまれなかったんだろうな……グスッ」


 その流れはなんでか俺がかわいそうな子になっているのでは?

 なんかこれから大丈夫だろうか?

 

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