第53話 野営

「いよーしっ! ここはどうだ!?」


 街道から少し入った所に開けた所があった。

 もう少し奥の方がいい様な気がするが、騎士団が良いならば、良いという事にしよう。


「「「いいです!」」」


 騎士達は了承の声を上げる。

 ヒロが少し怪訝な顔をしている。

 こちらを見る。


「ねぇ、ここ大丈夫かな? 街道から見え過ぎないかな?」


「俺もそれは気になった。けど、それで何か問題があるんだろうか? 実は俺もこの世界では野営はしたことが無いんだ」


「そっか。ボクは何回かやったことあるけど……大丈夫……かな?」


 ヒロも自信が無いみたいでハッキリとした反論はできないでいた。

 そうこうしているうちに野営の準備を始めた。


 ここまで来てしまってはもう仕方がない。

 テントを張り始めた。

 俺とヒロ達もそれぞれテントを張る。


 テントを張り終わると、次は飯の用意だ。

 騎士達には料理番が居るらしいので気にしなくていいらしい。

 ヒロ達はヒロができるので、お任せなんだとか。


 俺は、自分でマノシシの肉を捌いて鉄鍋で焼く。この世界の野営は鉄鍋で全て済ませるんだとか。持っていく荷物が減るからそれが一般的とのこと。


 たしかに、焼く、煮る、炒める。

 鉄鍋一つでできるということを教えて貰った時に初めて気づいた。

 ちなみに、教えてくれたのはジンさんだ。


 その辺の石を丸く並べて薪を真ん中において火をつける。

 石が台代わりになってやりやすいのだ。

 このやり方もジンさんから教わった。


 魔物の王の討伐に行くとなった後に、俺がこの世界で野営をしたことがないを思い出し、ジンさんに慌てて聞いたのだ。


 ジンさんも慌てて教えてくれた。

 火の付け方から石の並べ方、鍋の置き方。

 全て教えてくれた。


 前世で山篭りした時は全部道具が揃った状態でだったので、楽だったのだが。

 こう何も道具が無い世界で野営となるとどうしていいのかイマイチ分からなかったのだ。


「テツ、やり方が上手いじゃん!」


「師匠、様になってます!」


 ショウがサムズアップしてくる。

 彼奴は楽しそうだな。

 やっぱり外が好きなんだろうな。

 野生児みたいな奴だから。


「ジンさん直伝だからな。料理は、自己流だが」


 ジューという音をさせて鉄鍋でマノシシの肉を焼く。道中拾ったハーブのような物を入れる。

 良い感じの焼き加減になったら家から持ってきた塩とコショウを振る。


 異世界なのに不思議に思うだろうが、なんと歴代勇者の力は凄まじく、調味料まで異世界で再現されていたのだ。


 此方としては凄い助かっている。

 凄いな。歴代勇者達。


「テツ!? 何その葉っぱ!?」


「ん? ハーブみたいな葉だ。これを入れるとサッパリして美味い」


「ずるい!」


「あげてもいいが、みんな食えるのか?」


 俺がショウ、レイ、アケミを見ると。

 アケミとショウは明らかに嫌そうな顔をしていた。お前達……ちゃんと野菜も食べないと身体に良くないぞ。


「くっ! じゃあ、ちょっと頂戴!」


 苦し紛れに放ったのはアリーの言うような言葉であった。

 出かけて外食する際に、アリーがよくフルルに言っているのを聞く。


「いいが……お前は女か?」


「なんで? いいでしょ?」


 ワザとクネクネしている。

 やめろ。


「やるから、そっちのはちゃんと作れよ? 皆にあげてたら俺のがなくなる」


「分かってるよ!」


 ヒロは勇者組用の夕食を作っている。

 もう少しでいい感じかなぁと思っていると。


「何やらいい匂いだな! テツ殿の飯は!」


「あぁ。少しサッパリした葉を一緒にいれててな。その匂いだろう」


 目を見れば言いたいことは分かる。

 きっと目的はヒロと同じだろう。


「その……テツ殿。毒味をして差し上げます!」


 堂々と毒味と言い放った。

 自分で作るのに毒を入れるわけがなかろう。

 そして、俺の体は毒耐性が付いている。


 あの時は辛かったな。

 少しの毒を盛られて意識が混濁したり、熱にうなされたり、意識を失ったり。

 今思い出しても寒気がする。


 前世のあの時はもうそれをするしか無かったから生き残るのに必死だった。

 良くぞ生き残ったと思っている。

 まぁ、結果的には死んだんだが。


 だが、神様が俺の二十歳の体を再現してくれたのだから、毒耐性まで再現されていることだろう。いや、そうでなくては困る。


 確認するために毒を飲む気も無いのだが。

 もうあんな思いはこりごりだ。


「毒は入ってないと思いますが……どうぞ」


 少し肉をナイフで切って鉄串に刺して渡す。


「有難い!」


 パクッと食べ肉を噛むにつれて目がトローンとタレ目になっていく錯覚に陥った。


「美味い!」


 目をシャキッとさせて味の報告をしてくれる。

 美味いなら良かった。

 ヒロにも一切れ渡す。


「食うだろ?」


「有難う!」


 ヒロも飛びついてきて食べ始めた。

 すると、美味そうに見えたのだろうな。

 後ろでショウがヨダレを垂らしてこちらを見ている。


「食べるか?」


 また一切れ切って渡すと、シッポを振っている犬のようにハッハッハッと言いながら寄ってきた。

 そして、パクッと俺が差し出した肉をそのまま口で迎え入れた。


「「美味い!」」


 ヒロとショウの言葉が重なった。

 ショウにも合う味付けだったようだ。


 そうなるともう止まらない。

 レイもアケミも騎士団もみんな俺の調理した肉を食べに来た。

 結局俺は、ヒロの調理した肉を食べることになったのだった。


 美味かったが、俺は何故自分の分を食べられなかったのか。

 自分でわかる。少し不機嫌になってしまっているのだった。


 遠くで影が蠢いていた事には誰も気づかなかった。

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