第85話 ルリーの父

 宿を出て元気に歩いていた一行。

 王都まではまだ距離がある。

 しかし、段々と息があがってきた。


「君たち、大丈夫か?」


 チラッと見たのは暁の三人とアリーにミリーである。

 肩で息をしている。


「俺は大丈夫だが、他は大丈夫とは言えない。次の街で休憩させてくれないか?」


「あぁ。そうしよう」


 丁度見えてきた街に入ろうと────。


「止まれ!」


 いきなり止められた。

 武装している集団のようだ。

 身構える。


「テツ、待て」


 シーダが前に出る。

 話し合いをするようだ。


「俺は、ムルガ王国近衛師団師団長のシーダだ。なぜこのようなことをする!? リーダーと話をさせてくれ!」


「しばしまて!」


 声だけが聞こえるが回りを囲まれているようだ。

 矢や魔法が飛んで来ないとも限らないため、警戒は怠らない。


 時間が過ぎるのを長く感じた。

 それだけでもスタミナは消費する。


「はぁ。なんで騎士様がルリーを……」


「えっ!?」


 やって来たのは目に傷のある大男。

 その大男は目を見開いている。

 

 あれ? その特徴って……。

 驚いたのはアリーもだった。


「お父さん!?」


「アリー……なんでここに?」


 そこに来たのは紛れもなくガイさんらしかった。

 アリーの反応からも分かる。


「えっ? アリーちゃんのお父さんなの? あの人はあたいのお父ちゃんだよ?」


「「「えぇ!?」」」


 どういう事だ?

 こっちで子供ができていたのか?


「お父さん?」


 アリーからは強烈な気が出ている。

 それは有無を言わせない圧倒的な圧力。

 これには俺は逆らえないな。


「は、はぃ」


「ちゃんと話してくれるんですよね?」


 引きつった笑顔が恐ろしい。

 ガイさんの顔も引き攣っている。


「あ、あぁ。こっちに来てくれ。中で話そう」


「す、すげぇ」


「頭領がビクビクしてる?」


「何者だ……?」


 仲間たちが口々に驚いている所を案内された方へ皆で移動する。

 ルリーの肩を抱きながらアリーは進む。


「ねぇ! アリーちゃんはあたいのお姉ちゃんってことなの!?」


 無邪気な質問をぶつける。

 心配になってチラッとアリーを見ると聖母のような笑顔だった。

 優しい目でルリーを見る。

 

「うん。そうね。お父さんのことがなくたって、私はルリーちゃんのお姉さんよ?」


「ホントに!? やったぁ! お姉ちゃんができたぁ!」


 飛び跳ねて喜んでいる。

 可愛いものである。

 これからガイさんからどのような話がでるのだろうか。


 アリーとミリーさんはガイさんが死んだと思っていた。

 それが生きていて子供を育てているとなると。

 話次第では修羅場になりかねない。


「ここで話そう」


 平屋に通された。

 会議室の様になっていて。

 長テーブルに椅子が十数個並んでいる。


「まずは、自己紹介からだな。俺は大地の剣って集団で活動している頭領のガイだ。さっきのやり取りの通りアリーの父親だ」


「さっきも名乗ったが────」


 そこから騎士団、姫様、暁の三人が自己紹介をして。

 次は俺の番。


「初めましてですが、よくお話は聞いております」


「ほう?」


 ガイさんの目がギラリと光る。

 これは娘を取られる前の父親の抵抗だろうか。


「テツと言いまして、冒険者をしています。実は、アリーとミリーさんのお宅に居候させて頂いております」


「なにぃ!?」


 机をダンッと叩き、立ち上がるとこちらに詰め寄る。


「お父さん!」


「な、なんだ?」

 

 止めてくれたのはアリーだった。

 ガイさんを睨み付けている。


「話は最後まで聞いて!」


「あ、あぁ。すまない」


 大人しく座り直すと腕を組んで目を瞑った。

 話を聞いてくれるようだったので、出会ったところから最近の事まで。

 一通りを説明した。


「フゥーーーーー」


 息を大きく噴き出すガイさん。

 やはりアリーと仲良くしているのは気に障ったのだろうか。


 そう思っていたら、バッと頭を下げた。

 何があったのか。


「テツといったな。礼を言わないといけねぇみてぇだな。アリーとミリー延いてはベルンまで救ってくれて感謝する。本当に有難う」


「いえ。俺もベルンが好きです。ガイさん、あなたがもし生きていたら言わなければいけないと考えていたことがあります」


「なんだ?」


 怪訝な顔をして頭を上げた。


「俺はアリーとこれからの人生を共に歩みたいと、そう考えています。お許しを頂きたい」


 しばらくの間、ジッと目を合わせていた。

 目を瞑り涙を滲ませた。


「有難う。アリーとミリー、そしてベルンを大事にしてくれるテツのような強い男なら大歓迎だ。娘をよろしく頼む」


 再び頭を下げた。

 俺も慌てて頭を下げる。


「こちらこそ、よろしくお願いします」


 頭を上げると、涙を拭いていたガイさんに宣言する。


「ガイさん、すみません」


「なにが────」


 ガイさんの左頬に平手打ちが突き刺さる。

 思いっきり叩いたので痛そうな音が響き渡る。


「いっっってぇーーー! 何しやがる!?」


 ニコッと笑い。


「ミリーさんからの伝言です」


「実際に叩いたら伝言じゃねぇだろ! 言葉で伝えるもんだろう!?」


「まだ平手にしただけありがたいと思ってください。本当の伝言は生きていたら一発殴って来て頂戴です。悲しませた罰よ。だそうです」


「ぐっ。たしかにアリーとミリーには悪いことをしたな」


「でも、これでチャラでしょう。それで、ガイさんの方は?」


「そうだな。俺とルリーについて話そう。まず────」


 ガイさんはこれまでの事を語り始めた。

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