第86話 ガイのこれまで

「俺を置いて逃げろ! 俺が責任をもって引き付ける! その間に走れ!」


 そうして皆を逃がした後。

 俺はボロボロになっていた所を、大地の剣の集団に助けられた。

 

 それはそれは強い集団で、Aランク冒険者が頭領をやっていた三十人程のほとんどがBランク冒険者の集団だった。

 魔物はSランクだったが、強い者の集まっている集団の方が強かった。

 なんとかSランクの魔物を退けることに成功する。


 その後、ムルガ王国のルーイ村というところに迎え入れられた。

 最初は帰ろうとしていたが、怪我が治るまではいた方がいいと言われ。

 いわれるがまま安静にしていた。


 そんなある時、頭領に剣を突きつけられた。


「お前、名は?」


「ガイといいます。俺が何かしましたか?」


 頭領は怪訝な顔をすると、剣を突きつけたまま言葉を続けた。


「お前によく似た奴がムルガ王国を貶めようとしているという情報が入った」


 それを聞いてピンときた。

 俺には生まれながらに分かれた兄が居たそうだ。

 母が死ぬ前にそんなことを言っていたのを思い出した。

 

「俺とよく似ているなら、心当たりがあります」


「ほお?」


「俺には生き別れた兄が居たそうです。会ったことはありませんが、似ているならそいつでしょう」


 少し考えて剣を引いた。

 鞘にしまう。


「疑ってすまなかった。俺達はこの国が好きだ。この国を貶めようとする奴は許せなくてな」


「なるほど、では兄弟の不始末です。お手伝いしましょう」


「それは、願ってもない。お主も強き者だ。迎え入れよう」


 それから数日後だった。

 村に赤ん坊が捨てられたのだ。

 誰の子かは全くわからなかった。


 ただ、アリーと重なった。

 俺には放っておくという選択肢はなかった。

 手伝うと言ったばかりなのに、今度は子供を育てたいという。


 そんなワガママを言う俺はさすがに見放されると思った。

 だが、頭領は「育ててみろ」と言って笑って許してくれた。


 それからの子育ての日々は大変だった。

 村のみんなで育てたようなものだ。

 俺が畑仕事をしている間は他の人に見ててもらい、帰ってきたら美味しい飯を作って食べさせる。


 女の子だったが、少し大きくなってからはお転婆だった。

 農作業を教えたが、冒険者のように戦いたいという。


 俺は冒険者の話をしたことがなかったから不思議に思った。

 どこからそんな話を聞いてきたのだろうかと。


 なんてことは無い。

 隣の家の母さんから聞いたんだそうだ。

 武勇伝のようにきかせたものだから、憧れを抱いたようだ。


 言い出したら聞かないのはアリーと同じだった。

 冒険者になるために戦いを学びたいという。

 俺はA級冒険者として教えれるだけのことは教えようと思った。


「ルリー! 剣を振る時はもうちょっとタメを作ってから振り下ろすといいぞ! それじゃあただ振り回してるだけだ」


「うん! あたいは父ちゃんみたいな冒険者になるんだ!」


 素直に嬉しかった。

 アリーのことは一時も忘れたことは無い。

 忘れたことはないが、ルリーも立派な俺の子だった。


 そして、アリーは冒険者には興味がなかった。

 それもあって余計に嬉しいのかもしれない。


 剣の振り方を教えたが中々上達はしなかった。

 俺はなんでかが分からなかった。

 頭領も分からない。


 それはそうだ。

 男に剣を振ることは教えていても女には教えたことがない。

 そもそも身体の作りも違うし、筋肉の作りも違う。


 俺に出来ることが出来ないのは当たり前だった。

 それに気付いたのはわりと最近だ。


 国に来た女剣士の冒険者がいた。

 その女は強かった。

 何が強いか。


 手数が多い。

 隙がない。

 こっちが攻撃する隙が無いのだ。


 それを見てわかった。

 こういう戦い方があるんだと。

 俺は衝撃を受けた。


 力任せに剣を振るうだけが剣士じゃない。

 それに気づかされた。

 戦いを見学してた俺は、少し離れた店に行ったルリーを迎えに行った。


 これでルリーは強くなれるぞ。

 ワクワクした気持ちで迎えに行くと。

 そこにはルリーはいなかった。


 焦った。

 町中探したがいない。

 その事は大地の剣の頭領は俺が任されていた。


 皆に手伝ってもらって国中探し回った。

 情報を探しても見つからない。


 何者かに捕らわれて国外に出てしまったか。

 そう考えてアズリー共和国に向かっていたところだった。

 ルリーが見つかったと報せがあった。


 騎士様と一緒に居るという。

 一体なんで騎士様と?

 疑問に思いながら向かうと。


 アリーがいた。

 俺の愛しい娘。

 涙を堪えるのでいっぱいいっぱいだった。


 こんな所で会えるなんて。

 信じられなかった。

 夢じゃないかと、そう思った。


 すると、すごい威圧感を放っている。

 これは、ミリーの怒った時にそっくりだった。

 逆らってはいけない。


 素直に言うことを聞くことにした。

 こんなに成長したなんて。

 そして、纏っている空気が冒険者のそれになっている。


 そして、知らない男と仲が良さそうだ。

 一体どういう事なのか。

 自己紹介をすると。


 ミリーとアリーと暮らしてるだと!?

 ふざけるな!

 俺の大切な家族と!?


 思わず怒鳴って立ち上がった。

 逆にアリーに怒られてしまう。

 話を最後まで聞けと言う。


 これまでのことを聞くと。

 頭が下がった。

 俺がいない間。


 大切な家族を守ってくれて有難う。

 感謝しかない。

 そしたらアリーと共に生きていきたいというではないか。


 嬉しかった。

 素直に嬉しい。

 生きててよかった。

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