第58話 一時の休息

「よしっ! 今日はここで一泊しない?」


 ヒロが提案したのだった。

 何かしたいことでもあったんだろうか?

 まぁ、騎士団の人達も疲れてる感じがあったからな。


「やったぜ!」

「お買い物しましょう!」

「食べ歩きしよう!」

「俺は娼婦館に! テツ殿もどうだ?……いや、何でもない!」


 俺の冷たい視線に騎士団長は逃げていった。

 あなたも結婚してるのではなかったか。

 こういう時の男というのは羽目を外したくなるものなのだろうか。


「ボクもちょっと出かけてこようかな。定食屋の子とご飯行く約束しちゃったんだよね」


 ヒロ、ちゃっかりしてるな。

 レイとアケミは買い物と食事に二人で行くらしい。ショウはその用心棒で連れていかれるようだ。まぁ、その方が色々と安心だろう。


「あたし達も行こーっと」


「師匠も一緒にどうですか?」


「俺はちょっと行く所があるから。すまんな」


「りょーかいっす! じゃあ、また!」


 そう言いながら特に行くところなんて無いんだが……。

 目的もなくブラブラと歩いているとギルドが目に入った。


 ギルドに顔を出す事にした。

 受付に行って訓練所を借りる。

 冒険者カードを出したら驚かれた。


 Bランクというのはそれなりに高ランクらしい。特に頑張ってもいないのになんだか悪いことをしている気分になってしまうな。


 訓練所で柔軟をゆっくりと行う。

 そして、シャドウで組手を行い体を温める。

 集中して闇を操作していく。


 丸にしたり三角にしたりと形を変えてみる。

 これは、密かに高等なテクニックになっており、出来るものは魔法師の中でも一握りだ。


 腕に纏わせて刃の形に実体化してみたり。

 針の形をさせてみたり、突撃槍の形をさせてみたり。


 イメージが出来れば実体化出来るなら、銃の形を……できた。

 玉をイメージして作れば出来上がり。


 銃をバラして掃除したり分解して改造したりと色々とやっていたので、構造は頭の中に叩き込まれている。

 まさかこんな所で役に立つとは。


 かなり重量のあるハンドガンをイメージする。

 弾の口径もアップさせて魔法を的に向けて打つ。出なかった。


 そうか。火薬を使って爆発させてるからか。

 と言うか、銃である意味は無いか。

 魔法なんだからただ飛ばせばいい。


 指で銃の形を作り指先に闇の弾を生成する。

 そして、回転を加えて……飛ばす。

 ドッという音と共に的に穴が空く。


 おぉ。出来たな。

 これが出来るなら戦力の幅が広がる。

 何せ遠距離の攻撃手段を手に入れたのだから。


 コンコンッと部屋の入口がノックされて先程の職員が入ってきた。


「すみません。この街にはBランクの冒険者は少なくてですね、出来ればなんですがDランクパーティにご指導願えませんでしょうか?」


「あぁ。俺も暇を持て余してました。いいですよ」


「指導料はしっかりとお支払いしますので。ただ、少し性格に難がありまして……それで指導するものが居なくなってしまったんです」


「あぁ、そういう事でしたか。会ってみます」


「有難う御座います。では、お願いします。ほら、しっかりと教えて貰うんだぞ?」


 ギルド職員が後ろに引くと同時に出てきたのは三人組の男女。男が二人、女が一人だ。


「この人そんなに強ぇの?」


「そんな風には見えないなぁ」


「で、でも、Bランクでしょ? 教えてもらえば、きっと強くなれるよ!」


 現れたのは赤い短髪の男と、茶色の少し長い髪のデカい男。後ろに隠れるように肩の下あたりまである長い金髪を揺らす整った顔の女の子。


「なぁ、おっさん! あんた強いのか?」


 率直に聞いてくるあたり、自分の強さに自信があるのだろう。

 このくらいの歳の子には良くあることだ。

 自分の強さを過信している。


 こういう子は前世にも教育係を任されていた時に居たのだ。

 悪い訳では無いのだが、その自分が強いという意識は良いのだが、相手と自分の力量を悟れないのはダメだ。


「まぁ、やり合うか」


 クイッと手で呼ぶ。

 そちらから来いと合図する。


「やったろうじゃん!」


 勢いよく足を踏み込んで駆けてくる。

 殴り掛かろうとしている横にスっと入り、胴に蹴りを放つ。


「がっ……」


 ドスッと言う音と共に赤髪が倒れる。

 茶髪の男も呼ぶ。


 ドシッドシッと近づいてきてガッチリ俺の両肩を掴んだ。投げる気だろうか?

 スルッと下に抜けて鳩尾へと拳を叩き込む。


「うっ!」


 ドスンッと前のめりになり床に倒れた。

 女の子がオロオロしている。


「お前はどうする?」


 フルフルと頭を振る。

 やらないという事だろう。


「回復魔法を使えるのか?」


 コクリと頷いた。


「コイツら回復させてやってくれ」


「は、はいっ!」


 慌てた様子で駆け寄り治療を始める。

 まぁ、あまり強くはやってないが。

 これで、少しは上には上が居るということが分かっただろうか。


 上を見て追うのはいい事だが、上を見ずに下の者ばかり見ていると人として腐っていくのだ。

 それを、前世で学んだ。

 まだこの子達は若い。


 その事を少し教えてやらないとな。

 この世界のことはこの子達の方が詳しいだろうが、戦闘に関しては俺が上だ。

 俺が主導権を握らせてもらうぞ。


 さぁ、目が覚めたら少し指導するか。


 目を覚ました後基礎的なところを指導した。

 これでまた弟子が増えたのであった。

 

 休息でも訓練とは、テツは落ち着いてはいられないタチのようだ

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