第81話 ムルガ王国の冒険者
「前から誰か来る」
俺が前から警告する。
すると皆で身構えた。
盗賊か?
念の為警戒しながら進む。
すると、三人の男達が両手を広げながら近付いてきた。
「おぉ。こんな所で人に会うとは! どこに行くところなんですか?」
「俺達はムルガ王国に人を探しに向かってるところだ」
冒険者同士の場合、自分を卑下して下に見せるのは得策ではない。
だから、対等を意識して接するものだ。
これは冒険者なら大体共通の認識のはず。
それなのに、敬語で話してくるということは。
警戒に値する。
ただたんにいい人という事もなくはない。
ジィッと観察する。
身なりは整っている。
キチッとした革鎧。
ナイフを腰に指して、三人とも《・・・・》剣を刺している。
やはり少し違和感があるな。
「俺達もムルガ王国から来たんだよ。是非案内させてくれないか?」
「そうなんですか? 私達、大地の大剣っていう名前で活動している人を探してるんですよ」
アリーは信用しているようで。
旅の目的を話してしまった。
だが、それを止めるのもあからさま過ぎる。
「あぁ。知ってますよ。知り合いがその名前で活動しています。案内しますよ」
「えっ!? そうなんですか!? テツさん! すごい偶然ですよね! よかった!」
アリーが喜んで笑顔を見せる。
ここからムルガ王国までは、あと二週間はある。
それを案内すると?
しかも、現れたのはムルガ王国の方からだぞ?
来た方に戻るなんて不自然すぎる。
「ここからムルガ王国まで結構あると思うが、ずっと一緒についてきてくれるのか?」
「えぇ。それはもう。一緒についていきますよ」
あくまでも、ついて行くと言うんだな。
まぁ、少し様子を見るか。
「そうか。では、案内頼む」
「えぇ。お任せを」
そう言うと先頭を歩き出した。
本当に案内する風に見せるつもりらしい。
しばらく泳がせるか。
仲間のフリをする手口。
これは、暗殺する際にも活用していた。
仲良くなって友達を装い。
気を許して油断したところを突くのだ。
これの大変な点はまずは、信じられること。
そして、それまでに期間がかかることだ。
だが、例外がある。
同業者。
これはかなりすぐ信用されやすい。
暗殺者同士では絶対に信用は得られないが。
苦楽を共にする冒険者のような職は、同業者の信用を得やすいだろう。
進んでいる時の露払いは、その三人組が率先してやった。
魔物を相手にする際の三人の動きは連携が取れていて慣れている。
この辺に出る魔物のこともよく知っているんだろう。
危なげなく倒している。
「そういえば、あんた達ランクは? 一応カード見せてもらっていいか?」
この問いにも。
慣れたふうに俺に冒険者カードを見せてくれた。
何故カードを見せてもらったかと言うと。
実は人攫い、強盗、強姦などの犯罪を犯して手配されている場合。
冒険者だと裏の討伐記録を載せる欄に犯罪歴が載るようになっている。
それにより冒険者で犯罪を侵したものはほぼ冒険者として再び活動するのは難しい。
誰も信用してくれなくなるからだ。
コイツらのカードは一応裏には討伐記録以外は何も無い。
手配されていないという事だ。
俺の考えすぎだっただろうか。
「すまん。有難う。Cランクなんだな。戦闘も手慣れている。大したものだな」
「いえいえ。アズリー共和国にはSランクがいる森もあると聞きます。自分達なんて大した事ないですよ」
「Sランクは次元が違うからな。一度対峙してみてもいいかもしれないぞ?」
「はははっ。考えておきます」
冒険者カードを返しながら少し雑談をしてみるが良い奴に見えなくもない。
もう少し様子見だな。
昼の時間になり、食事を作ることにした。
俺たちの所はウィンが作るが。
「あのー。もし良ければご一緒させて頂いてもいいですか?」
冒険者の男が提案してきた。
ずっとなのだが、一人の男しか話さず。
他の二人は何にも話さないのだ。
ボロが出るからか?
そういう役割分担とも考えられる。
男達が取り出したのは干し肉だ。
ムシャムシャと頬張っている。
昼の分はそれだけなのだろう。
「良かったらスープ飲みませんか?」
見兼ねたアリーがそう提案した。
男達は少し顔を綻ばせる。
「良いんですか? 実の所もう干し肉にも飽きていたんですよ。有難う御座います」
「ふふふっ。皆で食べた方が美味しいですからね」
「いやーお優しい方だ。こんな優しい人がいたら皆さん幸せですね」
「そんな事ないですよぉ!」
アリーは優しいな。
まぁ、それがいい所でもあるのだが。
他の二人も観察する。
少しにこやかにアリーを見つめたり。
フィアを見つめたり。
フルルとルリーにもチラッと目を向けた。
女が気になるのか?
ただ男達だけで旅をしているのだとしたら女が気になるのも分からなくもない。
街に寄って娼婦館街で発散するというのが男の冒険者の間では、普通というか。必然というか。
パーティの中でカップルができるのは珍しくはない。
命を張って魔物に挑んでいるのだ。
危機感を共に感じ。
それを乗り越えた時の達成感を一緒に味わうというのは、ある種絶頂を迎えた時に近い物なのか。
「こんなにお美しい方が沢山いるパーティーなんて珍しいんじゃないですか?」
「たまたまだ。そこのフィアとルリーは途中で会ってな。今ムルガ王国に送ってるとこなんだ。目的地が一緒だからな」
男はにこやかに頷いた。
会話の中ではこっちに害をなすような存在であるとは思えないが。
相手が巧妙な場合がある。
この後の野営が問題だな。
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