第80話 アリーの心
「ふぁぁ。あれ? 自分、いつの間にか寝てしまってました! すみません!」
朝になってウィンが起きると一目散に謝ってきた。
「いや、眠りの香をやられたみたいだな。夜に襲われた」
「はっ! そうだ! 黒ずくめの!」
黒ずくめに襲われたことは認識していたようだ。
意識を失う前に俺を呼んだのはファインプレーだった。
「ウィン、最後、よく俺を呼んだな。それで俺は気づけた。良くやった」
「いやー。眠らされるなんて思ってもなかったので、反省してます」
ウィンは頭を掻きながら深刻な顔をしている。
責任を感じているのだろう。
自分の見張りの番の時だったからな。
「何か対策は必要かもな。見張りの時は常に布で鼻と口を覆うとかな」
「そうですね。少し考えないといけないですね」
「あぁふ。何かあったんですかぁ?」
二人で真剣な話をしていたから気になったのだろう。起きてきたアリーが心配そうに問いかけてきた。
「あぁ。実はな、アリー達が寝ている間に盗賊に襲われたんだ」
「えぇ!? ごめんなさい! 寝ちゃってて……」
「いや、今回眠らせるお香を使ったみたいだ。俺は、耐性があるから大丈夫だったがな」
アリーと一緒に起きてきたルリーとフィアを見る。
フィアは若干俯いている気がするが、気のせいかもしれない。
「これからも、もしかしたら襲われることがあるかもしれないからな。対策を取っておこう」
ダンとウィンはコクリと頷いた。
朝食の準備を始める。
今日は少し肉を食べた方がいいかもな。
「ウィン、少し干し肉をふやかして出してくれ。今日は肉を少し食べた方が体力が付くだろうから」
「はい。じゃあ、少し細かくちぎって入れますね。それだと無理なく消化できると思います」
「あぁ。そうしよう」
ウィンは俺の言ったことに提案してきてくれる。とても頼りになる食事番だな。
準備してる間にアリーとルリーの様子を見る。
「ルリーちゃん、昨日はよく寝れた?」
「うん。寝れた」
「そう。よかった。今、朝ご飯持ってくるね」
そう言ってウィンの元へ行った。
パンを浸したスープを受け取ると自分達の座っていた所へ持っていった。
ゆっくりとルリーがスープを口に持っていく。
フーフーっと冷ましながら一口コクリと口に運んだ。
少し咀嚼しながら飲み込む。
「美味しい……」
「そう。よかったわ。無理しない程度に沢山食べてね!」
「うん!」
他の面々もそれぞれスープを飲みながら更にパンを追加で浸して食べている者。干し肉をかじりながら食べている者がいる。
思い思いに食事を終えると、出発だ。
後片付けをして歩き出す。
フィアとルリーがいる為、少しペースは落として歩く事になる。
急ぐ旅ではない。
助けたのは自分だから。
ゆっくりとペースを合わせていこう。
歩きながらの雑談が始まった。
フィアは俺達が何故旅をしているのか気になっていたのだろう。
「あの……みなさんは何処まで行く目的なんですか?」
「ムルガ王国の方まで行く予定だ。ちょっと探している人がいてな。そうだ、フィアは【大地の大剣】っていう名を聞いたことがないか?」
少し考える素振りをすると、少しハッとした顔をする。
「何か知っているのか?」
「あっ、すみません。その方は知らないんですけど、その名前で活動されている人達は高ランクの冒険者だったと思います」
それは貴重な情報だろう。
ガイさんはAランクとして活動していたからな。ムルガ王国でパーティを組んで活動している可能性はある。
しかし、疑問なのは活動できるような状態であったなら、戻ってこられるのではないかということ。
ムルガ王国に一旦なんかしらの理由で行ったとしても、元のベルンに戻ってこないのはどんな理由があるのか。
まだ目撃されたのがガイさんだと決まった訳でもない。
「そうか。貴重な情報をありがとう」
「その探している方、見つかるといいですね」
「あぁ。実は探しているのはそこにいるアリーの父親なんだ」
フィアはアリーをみて心配そうな顔をする。
父親を探している状況を大変な状況だと思っているのかもしれない。
しかし、アリーの意思は強靭で、長期間の鍛錬に耐えたのだ。
強い意志を持って探している。
俺は心配していない。
「辛いですね……」
フィアがアリーに向けて言葉を投げかける。
すると、アリーはニコッと笑った。
「元々お父さんは亡くなったと聞かされていました……。だから、それがもしかして生きているかもしれない。という状況になった今、辛いというより嬉しいんです!」
「そうですか。亡くなったと思っていたのですね……」
「はい! だから、戦う訓練をしてまで一緒に探しについて来たんです。本当に目撃されたのがお父さんなのか確かめたい」
アリーが意思が強い言葉をフィアに伝えた。
やはり、相当な覚悟を持って今回の旅に挑んでいるのだ。
「アリーさんは、強い人ですね。私にもそんな強い心があったらいいのに」
「私を身も心も強くしてくれたのは、テツさんなんです。テツさんがいたから、今の私がいる」
そう言われると照れるんだが。
話を聞きながら頭をかいて照れ隠しをする。
「まぁ、素敵。羨ましいわ」
「ふふふっ。そうですか? 私はそんなに綺麗なフィアさんが羨ましいです」
アリーが要望の眼差しを向ける。
すると、フィアの顔が曇った。
「自分で言うのもなんですが、整った顔だと思います。けど、いい事なんてひとつも無い。寄ってくるのは私を飾りとしか見てない男ばかりです。うんざり」
「そうなんですね。私はテツさんに出会えたからよかった」
「私にも素敵な人が現れるといいのだけれど……」
「きっと現れますよ! 心を温めてくれるテツさんみたいな人が!」
全部聞こえているんだが……。
恥ずかしいことこの上ない。
恥ずかしさに悶えながら歩くのだった。
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