第15話 Eランクパーティ暁

 ここに来てから数日が経過した。

 少し生活にも慣れてきた頃。

 ジンさんに提案されたゴブリン狩りの日。


「じゃあ、行ってくる」


「「行ってらっしゃい」」

 

 ミリーさんとアリーに見送られる。

 こんなに幸せなことは無いな。

 俺の心は満たされていってる。


 しかし、不安なのが家を空ける事。

 今日から自警団に警護してもらうのだが、大丈夫か本当に心配なのだ。


 家を出ると自警団の二人がいた。

 少し歳をとっているが。

 佇まい、雰囲気、所作を観察する。


「今日は宜しくお願いします」


 頭を下げる。

 すると、慌てたように頭を下げてきた。


「ハッハッハッ! テツのお眼鏡にかなったか。良かったぜぇ」


 ジンさんが横から歩いてきた。

 ジンさんが手配してくれたようで、実力は申し分ないと思える。


「この前のアリーさんの件は自分達の不徳の致すところです! 申し訳ありませんでした! そして、有難う御座いました!」


 謝るのは分かる気もするが、なぜお礼を?

 俺に礼をする何かがあったかな?


「我々を否定することなく、賊をうってしまったことを悔やんでいたと聞きました。テツさんは何も悪いことはありません。我々は感謝の念しかありません! 絶対にアリーさんとミリーさんには何も無いように警護致します!」


 その目を見てわかった。

 覚悟のある人の目である。

 これは、安心出来ると思ったのであった。


「頼みます」


 それだけ言うとギルドに向かった。

 ジンさんが後を着いてくる。

 自警団の人の傍を通り過ぎる時にポンポンッと肩を叩いて来ていた。


 労っているのだろう。

 気使いの出来る人だな。

 ジンさんは、色々と経験が豊富なのだろう。

 こちらも勉強になる。


 まだまだ、俺は人付き合いという物が出来ていない。どうしたらいいか分からないことが多々あるのだ。


 ジンさんを見ていると何故こんなにも色々と気づけるのか不思議でしょうがない。

 自然とやってのけているから凄いのだ。


 ギルドに着くと入口付近に人か三人ほど待っていた。


「おぉー。噂のテツさんだ」


 噂のテツさん?何だそれは?

 俺は噂になっているのか?

 情報統制はどうなっている?


「よぉ。お前ら、あんまりテツの機嫌損ねる事するんじゃねぇぞ? コイツが見本となるんだからな」


 ん?ジンさん?

 俺が見本とはどういう。


「あぁ、テツ、言ってなかったけどな。今回のゴブリン狩りは、テツの技術を盗ませるために開いたんだ」


 あぁ。なるほど。

 それで見本って事か。

 しかし、俺のマネをすると。

 俺なんかで大丈夫か?


「テツよ、不思議そうな顔してるな? わかるぞ? 自分でいいのか疑問なんだろ?」


 何故わかるのだ。

 正しくそう思っていた。


「あぁ。俺は人に教えれるような技術は……」


「いや、テツは何も気にするこたぁない。お前もゴブリンは初めてなんだろ? 自分なりに狩ってくれればいいぜ」


「あぁ。わかった」


 それならばいいが。

 俺から何か学べるかは疑問である。


「よしっ、じゃあ、自己紹介しろ!」


 赤い髪の逆だっている小柄な男。

 先程、「噂のテツさんだ!」と言った奴だ。


「はい! 俺は、ダンっていいます! Eランクパーティ、暁(アカツキ)のリーダーです!」


 次は緑のミディアムヘアのガッチリした男。

 こっちは盾師らしい。


「あー、自分はウィンッス! 宜しくっす!」


 次はピンクの長い髪の女性だ。

 ローブを被り、見るからに魔法師である。


「私は、フルル……よろしく……」


 この子大丈夫か?

 狩りに同行出来るんだろうか?

 フラフラしてるように見えるが。


「まだまだヒヨっ子だが、俺が目にかけてるパーティーなんだ。テツの狩りを見せてやってくれないか?」


「俺は、俺のやる事をやるだけです」


 そう。本当にそれだけだ。

 何せ、ゴブリンというのは初めて狩るからどんなやつかも分からない。

 情報がないというのはそれだけで不利なのだ。


「っは! 流石はテツ。お前らもこの位雑念なくして狩りに挑めよぉ?」


「俺は雑念ってよく分かんねぇっす!」


「まぁ、いい。そのうちわかる。じゃあ、行くか」


「「「「はい!」」」」


 五人で歩き出す。

 先頭は俺なんだと。

 ゴブリンは東の二層目に居るらしい。


 俺が前回狩っていたのは一層目なんだそうな。

 そんな事も知らずに狩りをしていたのかと自分の無知が恥ずかしくなったのであった。

 まだまだ勉強不足だった。


「ここから一層目だぞ」


 素朴な疑問がある。

 何故隣国は無事なのだ?

 このまま深く行くと魔物が強くなるのだろう?

 ちょっと恥ずかしいが聞いてみるか。


「あの、ジンさん、ここの森って深くなるにつれて強い魔物になって行くんですよね? 隣国って陥落してないんですか?」


 それを聞いたジンさんは「あーそうか。テツはなんも知らねぇんだったな」といってパーティの方を見た。


「お前らわかるだろ?」


 するとフルルが手を挙げた。

 ん?あてろってことか?


「あっ、いいぞ」


「うん……この森は五層まであるけど……隣国に行くにつれて……また四、三、二、一と減っていくの」


「あー。じゃあ、五層が中心にあるという事だよな?」


「うん……そういう事……」


「有難う」


 コクリと頷くとまた無言で歩き出した。

 この子は無言なんだな。

 おれも話す方ではないが。


 俺はこの世界は何も分からない。

 どんどん聞いて覚えていこう。


「待て」


 五人はピタリと止まった。

 何かいるな。

 群れだ。

 何かを襲っている?


「ゴブリンってアレですか?」


 鹿の魔物を食らっている人型の魔物がいる。

 シワシワの潰れた顔にゴテゴテした体。

 汚い布を纏っている。


「あぁ、食ってる方な」


 ジンさんに確認して確証は得た。

 ここからは俺のやるべき事をやる。

 

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