第16話 ゴブリン狩り 見本

「俺は俺のやることをやって来ます」


「おう。得物は?」


「ナイフと刀ですが」


「まぁた怖ぇもん使いやがって。ナイフだけでやって欲しい。じゃねぇと参考にならねぇ」


 そりゃそうか。

 こんな刀なんてトリッキーな武器使ってんの見ても参考にならないだろうな。


「わかりました」


 まぁ、ナイフさえ使うか分かんないけどな。

 遠目から見た感じだが、人型ならナイフ無しでも十分戦える。


 頭を低くしながら近づいていく。

 魔物を食っているから気づきにくいのかもしれない。

 静かに近づいていく。


 数を確認すると、五体はいる。

 他にも何処かに潜んでいるかもしれない。

 警戒しながら近づく。


 察知に引っ掛かった。

 左上の木の上に見張りがいる。

 石を拾う。


 さぁ、開始の合図だ。

 ブンッと石を豪速球で投げる。

 見張りのゴブリンの頭に当たったと思った。

 瞬間。


ボンッ


 頭が破裂した。


 あれ? そんなに力入れたっけ?


「ギィィギィィ」


 おぉ。それは、バレるよな。

 音を出さないようにしたつもりがかなり音が出たからな。

 まぁ、陽動にはなった。


 見張りのゴブリンの方に意識が向いている隙に、一番近いゴブリンの背中に回り込む。

 後ろから腕を回して頭をつかみ。

 勢いよく回す。


 グリンッと一回転する。

 バタリッと倒れる。


 音が響く前に次のゴブリンへ行く。

 首を刎ねる。


「ギィィ」


 完全に気付かれた。

 三体いる。

 まともに対峙してしまった。


 まぁ、問題ないけど。


 両手のナイフを逆手で持ち、自然体でたつ。

 グギィ?と仲間同士で見合っている。

 アイツは何やってんだ?とでも思ってんのか?


「ふっ!」


 一瞬で真ん中のゴブリンに肉薄する。

 油断禁物だぞ。


 ズブリと首に右のナイフを突き刺してそのまま左に切り払う。

 皮一枚で繋がっているが命を絶つのには十分だ。これ以上は何もしなくていい。

 

 次だ。

 捻りを利用し今度は左のナイフで隣のゴブリンの、首を切り裂く。

 これでコイツも終わり。


 後ろから襲いかかってきているのは気配でわかる。しゃがんで走払い。

 クルンと頭を下にして地面に転ぶ。

 後は、眉間にナイフを突き刺すだけ。


 倒した後にナイフを構えたまま周りを警戒する。その他に襲いかかってくる魔物が居ないかを確認する。

 こういう戦闘で一番油断するのが、敵を倒し終えた時だ。


 うん。

 これで終わりだな。

 他に気配はない。


 ピッピッと血を払いナイフを鞘にしまう。

 見ている人は呆気ないように見えるだろう。

 しかし、これをものの数秒で行うのは、流石に誰でも出来るものでは無い。


 見ているパーティ達はこの身のこなしの凄さを実感していた。


◇◆◇


 テツが行った後のジン


「ジンさん、テツさんって同じランク何ですよね? 参考になるんですか?」


「まぁ、おめぇ達がそう思うのも無理はねぇ。まぁ、見てろ」


 テツの実力は本物だ。

 アイツは俺達が思ってる以上にできる。

 この世界を知らねぇみてぇだし、隣国の勇者に近い存在だと俺はにらんでる。


「あっ! 近い!」


 あんなに近くまで近寄れるものか?

 隠密行動が上手すぎる。


「えっ? ゴブリンの頭吹っ飛んだよ?」


 なんだ? あの馬鹿力は?


「うわっ。何あの動き? エグい機動」


 一体目、二体目の処理は流石だ。

 だが、対峙してからの三体の処理は常人には無理だ。

 あれは高ランクの中でも機動力重視の奴しか出来ねぇよ。

 それでいてあの馬鹿力。


 やっぱり只者じゃねぇ。

 スパイとかではないと思うが。

 まぁ、昨日までの行動だとアリーが居れば敵にはならねぇだろ。


◇◆◇


「ふぅ」


 ゴブリンってなんかに使えるのか?

 なにか取っておいた方がいいんだろうか?

 あっ。魔石は取っておくか。


 ゴブリンから魔石だけ取り出して行く。

 全部取り終えた頃にジンさん達がやって来た。


「あっ、ゴブリンって魔石以外に何か要ります?」


「いや、ゴミだな」


「じゃあ、埋めてお────」


「そのままでいい。魔物達が綺麗にしてくれる」


 ほぉ。食物連鎖と言うやつか。

 ん?ちょっと違う意味だったかな。


「テツさん! 凄かったです!」


「何っすか!? あの機動!? あんなの今の俺たちじゃ真似出来ないっすよ!」


「動き……見えなかった」


 Eランクパーティの者達は、一様にテツを見る目が変わった。


 何だこのキラキラした目は。

 眩しすぎる。


「テツ。期待以上だった。最初のとこは参考にできるんじゃねぇか? 見張りをまず殺る。それが失敗しても陽動になるからそっちに気を取られてるうちに一体は殺れるだろう」


 流石ジンさん。

 俺の思惑をちゃんと汲み取ってこの子達に説明している。

 俺の狩りにも参考にできる事があるのだな。

 この子達がどういう動きをするのか。

 それは俺も気になる。


「そうですね! 参考にできるところはありました!」


「私……陽動……」


「そうっすね。その方が良いっすね」


 チームで行動する場合、話し合うのは重要だ。

 一番重要だと思う。

 コミュニケーションをすること、後は他の人などの動きを見ることだな。


 昔数回だけ悪の集団の集まっている所に押しかけて全滅させた事があったな。その時は一人は無理だということでチームでことに当たったのだったな。

 今思えばアイツと知り合ったのもそのチームでのミッションだったな。


「テツ。コイツらどう思う?」


「んー。技術、経験、諸々足りないと思います……」


「それはそうだ」


「けど、生意気言わせてもらうと、俺の動きを見てもそれを出来ないとは言っていない。それには伸び代を感じました」


「なるほどな。アイツらはな、凄いポジティブなんだ。ずっと前向き。それは才能だと、俺は思う」


 なるほど。

 前向きなのはたしかにいい事だ。

 どんなに危機的な状況でもそれを打開できるかどうかは、結局メンタルなところが大きい。


 思ってる以上に成長するかもしれないな。

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