第8話 心の救い
チュンチュンッ
チュンチュンッ
「ん?」
部屋の中を見渡す。
俺は死んで……あぁ。何だか転生とやらをしたんだったな。
体が若返っているのも夢ではないようだ。
昨日、この部屋を使う時、アリーと俺は一揉めあったのだった。
◇◆◇
武器屋を出た後。
「他には? 防具屋?」
「いや、もう大丈夫だ」
「えっ? 防具は?」
「それなんだがな。今日くらいの魔物だと防具はかえって邪魔な気がしていてな」
「うーん。そうかもですけど、油断は禁物ですよ!?」
「あぁ」
「ホントにわかってますか!?」
顔をグイッと近づけて来る。
そんなに近づけられたことがない。
プイッと顔を逸らす。
「むーーー」
そのまま家までむすくれていた。
そして、家に着き、ご飯を頂いた。
またとても美味しいご飯だった。
そして、今日は寝るぞと言う時、俺は外で寝ると言ったんだが。
それをアリーが許すわけなかった。
「何言ってるんですか!? いて欲しいって言うのはそういう意味じゃありません!」
「そうかもしれないが、部屋はないだろう?」
「お父さんの部屋は誰も使ってません! どうぞ、使ってください!」
亡き父親の部屋をこんな何処の馬の骨とも分からない男が使っていいんだろうか?
「あー、お母様?はいいんだろうか?」
「私はミリーって言うのよ? 気軽にミリーって呼んで?」
体をしなっとしてこちらを見つめてくる。
ミリーさんも年齢を感じさせないような若さがあって、魅力的で困ってしまう。
「もう! お母さん! 真面目にしてよ!」
「あらあら、良いじゃない。その部屋はあの人が使ってたままにしています。いつでも使えるようにしてるので、使ってくださいな」
その言葉の端々に未だに旦那さんのことが忘れられずにいつ帰ってきても良いように部屋を保っていると、そう聞こえた。
俺なんかがそんな大事な部屋に入っていいのだろうか。
気が重くなってしまう。
「しかし、そんなに大切な部屋をだな────」
「いいから使って! わかった!?」
腰に手を当てて顔をこちらに突き出して睨むように怒鳴ってきた。
なぜそんなに俺に優しくしてくれるのだろうか。俺には不思議でしょうがない。
それが顔に出ていたのであろうか。
母とは凄いものである。
「テツさん、あなた何故こんなにも優しくしてくれるのかが不思議なんでしょう?」
「あぁ……その通りだ。何故わかる?」
「ふふふっ。答えは簡単よ。この子の父親に似ているからよ」
「ガイさんに?」
「あら、名前も知ってるのね。だから、この子もそこまで肩入れするんだと思うわよ? まぁ、それだけじゃないでしょうけど?」
「お母さん!」
また顔を真っ赤にしてミリーさんに食ってかかっている。
本当にアリーは難しいなぁ。
そう思っていると、ミリーさんが笑いかけてくれた。
「だから、使いなさい」
その言葉には優しさと断れない何かが含まれていた。
「はい。使わせて頂きます」
深く礼をすると部屋を借りることにしたのであった。
父親の部屋と言うだけあって、武器を置くところや、武器の手入れをする道具などもあり、凄く俺好みの部屋であった。
ガイさんとは前世で繋がっていたりするのだろうか?
そう思うほどに好きな物が似ていた。
凄く居心地のいい部屋であった。
そのお陰もあってだろうか。
すごく熟睡できたのであった。
◇◆◇
コンコンッ
「テツさーん! ご飯出来ましたよぉ! 裏で顔洗って来てくださーい!」
元気なアリーの声が聞こえた。
朝から誰かに起こされるなんて初めての出来事であった。
まず、こんなにグッスリ寝たのが、前世を思い返しても無いのだ。
部屋を出て裏に行き井戸水を汲む。
バシャッと顔にかけるとキンキンに冷えた水が顔を刺激し、一気に脳を覚醒させた。
家の中に入りリビングに行くと、ミリーさんとアリーがせっせと動いていた。
「あっ! おはよーございます!」
「あら、起きたわね。おはよう」
朝から素敵な笑顔を見せられ、不覚にも二人共にドキリとしてしまう。
まだ脳が起きていないため不意打ちを食らってしまった。
油断は禁物だ。
「おはようございます。手伝おうか?」
「もう出来るから座っててください!」
食卓に座る。
自然とここに座っているが、四人がけのここは二人の対面に当たる。
ということは、父親の定位置であったのだろう。
そう考えるとかなり申し訳ないような気持ちになる。
そして、ここに来てからというもの、残された者の気持ちというのを知ってしまっている。
こんなに、悲しんでいる人達がいる。
俺は、それなのに何十人もの人間を殺してきた。それは悲しむ人を量産していた行為であったのだろう。
それに今更気づくなぞ遅いにも程があるだろう。
「………………ん!…………さん!……テツさん!」
ハッとして顔を上げる。
かなり驚いた顔をしていたアリー。
すごく悲しそうな顔をしている。
どうしたんだ?
「テツさん、何で泣いてるの?」
頬を触ると水滴が付いていた。
ホントだ。泣いている。
俺は、泣けたのか。それを知らなかった。
「わからない。ただ、俺は今まで冒してきた過ちをどうやったら償えるのかと……考えていた」
「過ち?」
アリーが怪訝な顔をしている。
何を言っているんだ?という顔をしている。
「俺は過ちを冒してきたんだ。だが、ここにくればその過ちを償うことができると聞いた」
「なら、そうなんじゃないですか? 何にも悩むことないじゃないですか! この街に来て償える何かがあるってことですよね? だったら、ずっと居ればいいです!」
元気に気持ちよくそう断言するアリー。
あぁ。俺は、この子にどれだけ救われるのだろうか。
この子達の為ならば命も捧げることが出来る。
そう確信した。
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