第9話 常設依頼

「ご馳走様でした」


 手を合わせて感謝の念をミリーさんとアリーに送る。


「ふふふっ。それ、やっぱりイイわね。真似しようかしら」


「ご馳走様でしたぁー!」


 早速真似しているアリー。

 こういう所、順応性がある。

 俺も見習わなければな。


「俺は、薪割りしてくる」


「ありがとー!」


 裏に行き、薪割りを始める。

 今日の予定を考えながら割っていると頭の中が整理出来てくる。


 俺の今やらなければならない事。

 とりあえず、ランクをあげる。

 そうする事で、俺がこの家にいるという周りへの抑止力になる。


 その為には魔物を片っ端から狩る。

 この世界の貨幣が分からないが、それも含めて少し学習が必要だ。

 前世では生きていくのに必要な計算などは習得している。


 計算のことでこの世界に遅れをとることはない、と思いたい。

 あとは、魔法に関してだ。

 折角、魔力が目覚めたのに使い方が全く分からない。


 とりあえず、低ランクの魔物を狩って金を稼ぐことが先決だ。

 俺は、居候の身。

 この家に、あの二人に貢献しなければ。


 気が付くと今日の分の薪割りは終わっていた。

 考えもまとまった。

 いざ、出陣だ。


「ギルドに行って依頼を受注してくる」


「もう、依頼を受けるんですか!? 昨日登録したばっかりですよ!?」


「早く稼いだ方がみんなの為になる。違うか?」


「うぅ。そうですけど……。わかりました。じゃあ、お弁当作ります! 待っててください!」


 俺の事を止めようと思ってくれたんだろうが、俺が正論を言うものだから、悩んだ末に妥協案で昼ごはんを作ることにしてくれた様だ。

 それだけでも有難いんだがな。


 少し体を動かしてストレッチして待つことにしようか。

 開脚してベターッと地面に体をつける。

 うん。前世のままの柔らかさだ。


 戦闘は体が柔らかくないと要らぬ怪我に繋がる。そして、柔らかい方が色んな角度からの攻撃が可能なのだ。

 素人はそれが分からず筋肉ばかり鍛えればいいと勘違いしている。


 この前のコザーだったか?

 アイツがその例だ。

 ただ筋肉を鍛えて技術等は何も吸収せず。

 単調な攻撃ばかりになる。


「お待たせしましたーってえぇー!? 凄い! 何やってるんですかー?」


「あー。柔軟だ」


「そんなにできる人居るんですねー」


「居るだろ」


 当然のように返事をして弁当を受け取る。

 ナイフと刀を腰に挿して来る。


「では、ギルドに行ってくる」


「はい! 行ってらっしゃい!」


 手を振って見送り出してくれた。

 こんな見送られたことは前世でもなかった。

 家庭を持った男ってこういう感じなんだろうか。


 ギルドに向かうとサナさんの所に依頼を受注しに行く。

 サナさんも忙しそうだが、ほかの窓口に行くつもりはサラサラない。


「あら? テツくん、依頼受けるの?」


「あぁ。どんな依頼がある?」


「Fランクだと薬草採取、解毒草採取、魔力草採取、滋養強壮────」


「すまん! 討伐系がいいんだが……」


「あぁ、そっか。マノシシ討伐、アビット───」


「そうだ、これこの前マノシシ狩った時にとったんだが……」


 そう言うと赤い玉をカウンターの上に出した。

 魔石を傷つけずに倒すのは案外難しいのだ。

 何故なら、魔物は魔石があることで生命活動を維持している。


 倒すという行為をする場合、一番手っ取り早いのは魔石を壊すことだからだ。

 だからランクが上の魔物になるほど魔石を回収するのは難しい。


「えっ? もうマノシシ狩ったの?」


「あぁ」


「冒険者カード出して」


 カードを差し出すと読み込んで確認する。

 首を傾げている。


「ねぇ、記録にないけど?」


「登録する前だからな」


「はぁ!? 魔力無しの状態で魔物倒したの!? テツくん、常識外れすぎ!」


 そんな事を俺に言われても困るんだが。

 討伐したことにはできないのだろうか?

 金が出るなら欲しいんだが。


「いいわ。私が確認して討伐記録として入れておいてあげる」


「おぉ。悪いな」


「じゃあ、なんか適当に狩れそうなやつ狩ってきたら? そしたら勝手にカードに記録されるし! この辺にいるのは常設依頼で前もって依頼受注しなくても大丈夫な魔物ばかりだから」


 カードっていうのは倒したものを記録までしてくれるんだな。

 不思議な物だな。


 返されたカードをマジマジと見て首を傾げる。


「そんなに見ても仕組みは分かんないよ? 私達にだって分かんないんだから」


「そうなのか?」


「そっ。隣国の技術ってやつ」


 あの勇者召喚してる国とかなんとかだよな?

 その勇者がそんなに色んなことを発展させてくれたなんて凄いやつだな。

 強いんだろうか。

 手合わせ願いたいもんだ。


「ふむ。じゃあ、行ってくる」


「はーい。生きて帰ってきてねぇ」


 中々に見送りの言葉が適当だな。

 まぁ、一人一人に一々しんみりとして見送るといつのはできないことだろう。

 いくら命をかけて毎日依頼をこなしていると言っても、あくまで自己責任だ。


 常設依頼という常にある依頼というのがある事は初めて知った。

 今のランクではその程度の依頼をこなすのが合っているということなのであろう。

 ただ、常にあるということはそれだけ魔物が発生していて狩らないと減らないという意味だろうし、気合入れて狩るか。


 ギルドを出て街の外に向かう。

 街を出るが、自分が連れてきてもらった西の方向には魔物がそんなにいなかったと思う。

 反対の東に行ってみよう。


 昨日、アリーに話を聞いたところだと勇者様の居る隣国というのが東に行った先の国らしい。

 よし。狩りの始まりだ。

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