第10話 狩りの時間
「さて、獲物はいるか?」
森の方に気配を消して歩み出す。
前世で培った隠密行動はこういう時に活かされるのだろう。
草木に身を隠しながら森を進んでいく。
五感を研ぎ澄まして森の中の音や気配を探る。
鳥のさえずりが聞こえ、どこからとも無く魔物の鳴き声が聞こえる。
獲物を探す時は、木の上が見やすくていいのだ。それも、前世で山篭りしていた時に木登りを覚えたことでできる様になった。
木の上から様子を見る。
三百メートルほど離れたところに白い動く影がある。
ピョンピョンと飛び跳ねているようだ。
木からおりて視線の中に入らないよう気をつけながら障害物を利用して近づいて行く。
姿形が認識できる程の距離まできた。
ピョンピョン飛び跳ねているのは白い体に耳が生え足が異常に大きくなっている。
たしか、この魔物はアビットだったか。
足が大きく発達し、その足の脚力で素早い攻撃と重い攻撃を放って来るようだ。
アビットも獲物を探しているようでグルグル同じところを回っている。
進路の近くに潜みタイミングを待つ。
五感を研ぎ澄ませる。
ナイフを抜き、逆手で構える。
トンットンッとリズミカルに飛び跳ねている音が聞こえる。
音の大きさで遠くからこちらに来たことが感じ取れる。もう少し、もう少し。
トンッという音がすぐ側で聞こえた。
ここだ!
バッと草から飛び出して標的を視界に入れる。
アビットは即座に気づき体をひねってこちらに蹴りを放ってきた。
逆手に持ったナイフを振り上げる。
ガギッという音とともにアビットを上空に打ち上げる。
これでアビットは抵抗ができない。
落ちてくる所を待ち構える。
しかし、アビットは諦めてはいない。
その目は生きることに執着した目だ。
この目を俺は、よく目にして来た。
そんな目をしている人間の命を刈り取ることを生業としていたのだ。
それには躊躇いが生じたが、魔物は悪である。
それであるならば、俺の中には使命感しかない。
最後の抵抗とばかりに鋭い蹴りが放たれる。
ギリギリで見切り、頬を掠めたがナイフは正確に首を断ち切った。
ドサッと別れた体が地面に落ちる。
血が出ているのを逆さにしてロープで吊るす。
この様な小道具もガイさんの持ち物だったものを使わせてもらっているのだ。
ミリーさんに使って欲しいとお願いされたのだ。こちらとしても使える物は使いたい。願ってもないことであった。
大事に使うことを誓い、今日は背中に背負ってきた道具袋もガイさんの物だ。
亡き人の物を使うという事に俺の中では申し訳ないという気持ちで抵抗があるのだが、それも償いなのかと思いながら使っている。
血を抜いていると、血の匂いに引かれて魔物の気配が増えてきた。
このやり方も獲物を集めたい時、山篭りの時にしていた策であった。
気配が増えてきた。
今は俺も気配を消していない。
俺の事を警戒して無闇には寄ってこないようだ。
堂々と魔物の前に出ていく。
両手に幅広のナイフを握りしめ、ギラリと光らせる。
「お前達、かかって来い」
体を少し沈めて魔物に退治する。
俺の前方に位置取っているのはママカミという狼のような魔物。それが、三頭いる。
その後ろにはマノシシである。
別種の魔物でありながら血の匂いにつられて来たようだ。協力して俺から獲物をカッさらおうとしている。
「ガウッ!」
最初に攻撃を仕掛けてきたのはママカミの先頭を陣取っていたヤツだ。
正面から噛みつきにくる。
分かりやすい単調な攻撃。
俺には止まって見える。
ママカミの横をすり抜けながらナイフは横に固定しただけ。
真っ二つになるママカミ。
それを見た残り二頭のママカミが同時に突っ込んできた。
それでいい。
同時に左右から飛びかかってくる魔物を両手のナイフで受け止める。
勢いも乗っていて重い威力だが、この程度では押されない。
均衡している一瞬の隙を狙って突進してきたのはマノシシだ。
まさしく共闘。
獲物を得るために魔物が協力して人間を排除しようとしている。
人間よりも素直なのだろうな。
「ブルルッ」
牙をこちらに向けて突進してくる。
両手でママカミを受けながら跳ぶ。
マノシシの頭を踏みつけ上へ宙返りをする。
マノシシはそのまま奥へ走り抜けていく。
左右のママカミは上から首筋にナイフを突き立てそのまま落下して地面に突き刺す。
絶命するまで地面に縫い付ける。
再び戻ってきたマノシシを居合の構えで、迎え打つ。
真正面から迫るマノシシ。
ドドドッドドドッと勢いをつけて迫ってくる。
間合いに入るのを待つ。
目を閉じ、五感を研ぎ澄ませ。
斬る。
ズバァァァンッ
ズザァァと倒れ込むマノシシ。
マノシシも横に真っ二つだ。
これ、持っていくの大変だな。
マノシシは軽く捌いていらない所を穴を掘ってまとめて埋める。
ママカミはロープで縛って右に二頭、左にママカミ一頭とアビット一匹を肩からかける。
なんだか他から見たら凄い格好だろうが捨てていくのももったいない気がしたのだ。
今さら見た目なんぞ気にしておられない。
まだ午前中だが、これ以上狩ると持って帰れない。一旦帰って終わりにするか、また狩りに来るか決めよう。
一旦街に戻ることにした。
その頃、ギルドは騒がしくなっていたのであった。
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