第66話 武勇伝

 祝勝会も進んできた頃、ジンさんが不意に昔の武勇伝を語り始めた。


「俺達はな、ここらじゃ有名な最強パーティだったんだ」


 今までジンさん達の過去は聞いたことがなかった俺は、耳を傾けた。

 街の古くから居る人達はウンウンと頷いている。

 ジンさん達は昔から相当有名だったんだな。


「俺とガイ、サナ、そしてミリー。四人で最強だった」


 これを聞いて少し驚いた。

 ジンさんとサナさんはガイさんと同じパーティだったんだろうという察しは話しぶりから聞いていた。

 だが、ミリーさんも一緒だったとは。


 なぜ、その話題にならなかったのだろうか。

 それが不思議でならないが。

 これにも古い者達はウンウンと頷いている。


「調子に乗っていたのかもしれない。あの頃……」


◇◆◇


「俺達にはもうこの辺で敵になる奴なんかいねぇよ!」


「たしかにな」


 若かりし頃のジンとガイは親友で、そして戦友であった。

 幼い頃からこの街で切磋琢磨して強くなってきた。


 ガイはミリーとの子供を授かり、ジンはサナに恋心を寄せていた。

 そんな二人はAランクになって気が大きくなっていたのかもしれない。

 北のムルガ王国との国境にSランクのモンスターが街道に拠点を置いたため、通行できないという救難依頼が飛び込んできた。


「その救難依頼は俺達、烈火れっかが受ける!」


 いつもの二人であったならそんな危険な依頼はSランク冒険者に任せる所なのだが。

 この時は自分達なら倒せると思った。

 

 この頃の依頼は簡単な依頼しかなかった為、退屈していた所もあったのだ。

 そんな中飛び込んできたこの依頼を、絶好のチャンスとそう思ったのだろう。

 ミリーとサナには相談せずに二人で依頼を受けることを決めてしまったのだった。


「そんな依頼受けて大丈夫? Sランクなんでしょう?」


「ジン! あんた、ちゃんと考えたの!? 考えなしに受けたんじゃないでしょうね!?」


 ミリーは心配そうな顔でいるが、サナは既に怒りモードだ。

 今まで相談して依頼を受けるか決めていたのに急に勝手に決めたものだから怒りもする。


 サナの言っていることに反論できなかったジン。


「うっ。か、考えたぜ? なぁ? ガイ?」


「あぁ。俺達なら大丈夫だ。責任は俺がとる」


 その心配は現実となったのであった。




 

「俺を置いて逃げろ! 俺が責任をもって引き付ける! その間に走れ!」


「いやよ! アリーをどうするの!? 一緒に────」


「ミリー、すまねぇ」


 ジンがミリーを抱えて走る。

 ジンとサナはミリーを生かすことを第一優先にした。

 理由は、アリーが既に産まれており、街にいるマーニの元で見て貰っていたからだ。

 その他にも理由はあったが……。


◇◆◇


「懸念されていた事が全て現実で起こったんだ。俺達の作戦は全て通用しなかった。あのSランクは……想像を絶する強さだったんだ」


 ジンさんはこれまでの過去の話を初めて俺達に語った。

 この話はアリーも聞いたことがなかったようだ。

 ジンさん達は話づらかったんだろう。


 何せ、ガイを見捨てて置いてきた理由が、アリーなのだから。


「あれ? 他の人を逃がしたって聞いてたけど、わた……しのせい? 私が居たからいけなかったの?」


「それは違うわ、アリー。あの時はもう手遅れだった。お父さんは傷も負っていたし、撤退するにはそうするしかなかったのよ?」


「私がいなければ、皆で戦えたじゃない!?」


「アリーちゃん。あの時はね────」


 立ち上がったアリーを聡そうとしたサナさんを突き飛ばして、暗闇へ駆けて行った。

 ミリーさんが後を追おうとするのを、俺が手で制する。

 ミリーさん、ここは俺が行きます。


 アイコンタクトで気持ちを伝える。

 するとコクリと頷いて返してきた。

 俺に任せてくれるという事だろう。


 行こうとしたところをサナさんに引き留められる。


「テツくん実はね……」




「アリー。大丈夫か?」


 月明かりが暗闇の中でアリーの背中を映し出していた。

 街外れにある畔に来ていたのだ。

 ここはアリーが好きな場所。


 たまに連れてきてくれていたから、いそうな場所はすぐに分かった。

 膝に顔を埋めて泣いているようだ。

 しかし、ここで「大丈夫?」としか言えない俺。

 もう少し気の利いた事を言えないのだろうか。


「テツさん?」


「あぁ。心配になって追いかけてきた」


 チラッとこちらを見るが、再び顔を畔に向ける。

 水に反射してアリーの可愛らしい顔を照らした。

 その顔の目からは雫がこぼれている。


「私、お母さんとジンさん達にあんな過去があったなんて、今まで知らなかった」


「アリーも初めて聞いたんだな?」


「うん。お父さんが他人を逃がすために亡くなったって聞いた。ただ、それしか聞いていなかった。きっと、話したくなかったんだろうな。私が自分のせいだと思っちゃうから」


 アリーは自暴自棄になっている。

 ガイさんが自分を犠牲にしたのはアリーの為だと思っているから。

 

「アリー。さっきサナさんに聞いて来た。ガイさんが逃がしたのにはアリーが居たことでミリーさんを逃がしたい。それが理由にもあったようが、サナさんのお腹の中には子供がいたらしい。最後の依頼にするつもりだったんだそうだ」


「えっ? でも……今、子供は……」


「あぁ。その時の戦闘が原因で死産になってしまって、それ以来子供ができない身体になってしまったんだって……」


 アリーはそれを聞くと涙が止まらなくなった。

 しばらくすると泣き止んだが。


「私、自分の事ばかりで……」


「あぁ。皆の元へ行こう」


 アリーを連れて戻る。

 楽しくみんなで飲んでいた。


「それは本当かぁ!? 本当にそう言ってたのか!?」


「なんだぁ? どうしたってんだ?」


 大きな声を出した男性にジンさんが聞いている。

 すると目を剥いて驚いている。


「目に大きな傷のある大男がムルガ王国に居た!?」


 その男がどうしたのだろうか。

 俺はわからず首を傾げていると。


「お父さん?」


 アリーが後ろで呟いた。

 ムルガ王国にガイさんが?

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